藤井陽也(コルトレイク)の守備には、修羅場をくぐり抜けてきた者が持つ余裕を感じる。敵のアタッカーがボールを持っているのに、なぜか藤井のほうが相手を手玉にとっているのだ。9月1日、ホームにSTVV(1-1)を迎えたときもそう。FWザヒロレサラームとベルタッチーニが組むSTVVの2トップがドリブル突破を仕掛けても、冷静に自身の間合いに持ち込んでボールを奪い切ってしまう。
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もちろん、強く激しく行くときは行く。STVV戦でもファウル覚悟の激しいデュエルはあった。だが、見る者を唸らせるのはソフトなデュエル。藤井を見ていると、コツンと身体をぶつけながら敵の力を利用して、クレバーにボールを回収している。これなら不用意なファウルが少なくなる。
STVV戦の序盤は、藤井が巧みに身体を入れてボールを回収するシーンが目立った。そのことを指摘すると「そうですね」と答えてから彼は続けた。
「もう少し(事前に対処する)準備ができていれば、FWにボールが入る前に良い対応ができたと思います。ボールが入ってからの対応は良かったんですが、その前に良い準備をしないといけなかった。そう個人的には思います」
最後尾からもっと俯瞰的に敵の配置とボールの動かし方を見て、FWにボールを触らせることなく守り切る――。そんな守備の理想が藤井の一言に隠されているような気がした。
後半アディショナルタイム3分に入り、自陣で藤田譲瑠チマとのデュエルに勝った藤井が力強いドリブルでカウンターを発動させ、ハーフウェイライン手前でファウルに潰される。続いて藤井は右サイドをワンツーで抜け出し、STVV陣内深い位置まで入り込み、コルトレイクのラストミニッツの猛攻が始まった。
その1分後、CKのこぼれ球を中央から藤井がシュートするもブロックされる、と味方に抱きついて悔しがる。さらに藤井はCKを頭で合わせたが、ゴールの枠を捉えることができず、試合は1-1のまま終わった。
「いやあ、決めたかったです。最後ああいう形で押し込めたのは良かったですけれど、あそこで決め切る力がこれからもっと必要になってきます。やっぱり守備だけじゃなくて、攻撃でチームにもっと貢献したい」
コルトレイクとSTVVは共に3CBシステム。藤井は右、谷口彰悟(STVV)は左のCBだった。つまり2人は直接マッチアップこそしなかったが、常時、同じレーンでプレーしていた。試合後、谷口に藤井のプレーを尋ねてみた。
「陽也は一緒に代表で一度プレーして、『すごいポテンシャルを持っているな』と感じてました。今日は陽也がボール持つと、あえて僕が相手に食いついたり離したり、駆け引きしながらやってました。そして彼は『僕がどのぐらい食いついてくるのか』、そういうことを見てました。彼は僕のポジションをよく見て、あえてパスを出さなかったりしてましたね。『直接的なマッチアップ』はありませんでしたが、そのへんの駆け引きを間接的にやり合うことができて、楽しかったです。陽也は日本人らしくボールを雑に扱わず大切にする。そしてちゃんと相手を見てプレーしていた。そのことをすごく感じました」(谷口)
日本代表に二度招集された藤井にとって現状、唯一のキャップが1月1日の対タイ戦(5-0)。名古屋からコルトレイクへの半シーズンの期限付き移籍が発表されたのは、その10日後だった。
当時のコルトレイクは20戦して勝点わずか10しか奪えず、最下位に沈んでいた。ピッチ外でもクラブの騒動が絶えず、ベルギーでは「コルトレイクの降格間違いなし」と断言されていた。しかし1月20日、藤井にとってはベルギーデビューマッチのスタンダール戦(1-0)で、8試合ぶりの勝利を飾ってから少しずつコルトレイクは上向いていく。
翌ルーバン戦(0-0)から角田涼太朗(現カーディフ)が加わり、右から藤井、ジョアン・シルバ、角田のCBトリオが完成。コルトレイクは強固な守備を誇るチームになった。
「僕が来る前は、ハイライトとかを見てもボロボロの試合が多かった。でも自分が行くからにはやっぱり残留させたいと思ったし、自分のプレーでチームを勝たせたいと思ってました。監督が変わり『スリーバックでしっかり固く守る』というところを前提として、そこからチーム全員が共通意識を持ってやれました」
22年1月から1年半、コルトレイクでプレーし、23年夏にヘントへステップアップしていった渡辺剛は最初の半年間はかなり苦労した。藤井がすぐにチームに馴染めたのはなぜだろうか。
「やっぱり角田選手の存在は大きかったです。2人がセンターバックの両脇で出ていたのでコミュニケーションが取りやすく意思疎通ができて、スッとチームに入れたかなと思います。
あとは2人が監督に信頼してもらって使ってもらえた。普段の声掛けからすごいポジティブな感覚で自分たちを使ってくれました。そこはやっぱり監督の信頼が大きかったと思います」
その監督とは1月から指揮を執るアイスランド人指導者フレイル・アレクサンダーソンのこと。「1日18時間仕事をしている」というサッカーの虫は「うちのチームにメンタルトレーナーはいらない。俺がメンタルトレーナーだ」と豪語する人物でもある。彼の監督就任によってコルトレイクにポジティブな風が吹くようになった。
「マネジメントが前向きで、声掛けもポジティブで『付いていこう』と思える監督です。監督から『お前はもっと高いレベルでやれる』とずっと言われてます。僕を励ますためなのか本当なのかわかんないですけど、そういう前向きな言葉を信じてやるしかない」
藤井がレギュラーシーズン最後の5試合を負傷欠場した間、昨年までのレギュラー、マーク・マムパッシが奮闘した。そして最終節のアンデルレヒト戦で1-0の勝利を収め、ようやくコルトレイクは最下位を脱出し、プレーオフに残留の望みを繋いだ。
しかし、この試合の後半、角田が負傷退場しシーズンを棒に振る痛手もあった。ともかく藤井、角田が来るまで20試合勝点わずか10のチームが、10試合だけで勝点14を奪うチームに変貌した。
藤井はプレーダウン(1部残留争いのプレーオフ)の途中から戦列に復帰。この最終節でRWDMがオイペンに負けたことで、コルトレイクは辛うじて自動降格を免れた。そしてロンメル(2部リーグ)との入れ替え決定戦を延長戦の末、2試合合計5-2で勝ち切り、奇跡の1部残留を果たした。アレクサンダーソン監督の手腕、冬の市場の藤井、角田の獲得はコルトレイク1部残留の大きな要因になった。
「自分が入ってから4戦負けなしで続いて、チームが『ちょっと行けるんじゃないか』という雰囲気がありました。最後はかなり他力本願になりましたが、そこは本当に『スーパーな可能性』に賭けて、しっかり信じてやった結果が出ました。ベルギーに来たときは正直、僕も半々よりちょっと残留できたら良いなという気持ちでした。その目標のひとつを達成できて良かったです。サポーターがすごく喜んでくれました。
チームとして結果をひとつ残すことができたのは僕にとっても自信になりました。昨季の積み重ねがあって今季があり、良いサッカーができていると思います。それをもっと積み重ねて、今季は残留争いにならないよう結果を出していきたいです」
6月、コルトレイクへの完全移籍が発表された藤井は、今夏チームに加わったMF高嶺朋樹、FW金子拓郎に「もっといいボールを配球して、彼らの良さを引き出してあげたい」と2人への後方支援を誓い、「チームの後ろにいるのでリーダーシップも求められる。英語をもっと伸ばしていきたい」と主力としての自覚も十分だ。
断トツ最下位だったチームの守備改善にひと役買い、1部残留という不可能を可能にしたからこそ、藤井のプレーには本来のクレバーな守備とは異なる性質の落ち着きが漂っているのかもしれない。まだ23歳。これからが楽しみな成長株だ。
取材・文●中田 徹
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