巣鴨駅から徒歩2分。最高の立地で技を磨く街クラブがある。三菱養和ユースだ。
古くは浦和やドイツでプレーした元日本代表の永井雄一郎、近年ではMF相馬勇紀(町田)が東京五輪やA代表で実績を残し、相馬の一学年後輩であるMF瀬古樹も今夏に川崎からイングランド2部のストークに活躍の場を移している。
そして、今回のワールドカップ・アジア最終予選ではFW中村敬斗(スタッド・ドゥ・ランス)が順当に代表入りを果たし、大卒プロ1年目の望月ヘンリー海輝(町田)が初めて森保ジャパンに招集された。
現在はU-18高円宮杯プリンスリーグ関東2部で戦っているが、全国のプリンス勢では唯一の街クラブ。Jクラブの育成組織や高体連が主流となるなかで、今も昔も確かな存在感を放っている。
各種のトレーニングルーム、器械体操練習場、武道場、プール、ゴルフ練習場が完備された総合スポーツクラブとして活動するなかで、サッカー部門は一角にある人工芝グラウンドで全ての選手たちが汗を流す。
小学生年代の選手が通うスクールがあり、そこから選抜された選手で構成されるジュニアチーム。そして、中学年代のジュニアユースは巣鴨だけではなく、調布でも活動しており、そのふたつのチームからセレクトされる形で構成されているユースチームも同じ場所で研鑽を積む。
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指導者たちは同じ年代に継続して携わるケースが多く、現在ユースで指揮官を務める増子亘彦監督も中村らがいた2016年から2018年までユースを預かり、その後はジュニアユース年代でコーチを5年間歴任。そして、今季から再びユース年代の監督に復帰した。
「小学校に入ってから本当に小さい頃から見ているし、選手のこともよくわかる。お父さんやお母さんとも親交を深めているので、そういった部分の良さはありますよ」
笑顔で話す増子監督を筆頭に子供たちに寄り添った指導を行なう一方で、見逃せないのは同じグラウンドで全てのカテゴリーが活動している点だ。
Jクラブでも、東京ヴェルディなどは同じ場所でトップチームから育成組織が動いているが、ほとんどの場合は拠点が異なるだけに、下のカテゴリーと上のカテゴリーが分け隔てなく交流できるのも三菱養和が持つ魅力のひとつだろう。
実際に9月7日に行なわれたU-18高円宮杯プリンスリーグ2部・第11節の前橋商高戦(1−0)は巣鴨のグラウンドで開催され、先輩たちの戦いをスクール生が応援する光景も見られた。
そのなかで一際大きな声援が飛んでいたのが、中学3年生のFW伊藤優だ。前節の千葉U-18戦(1−3)でユースデビューを飾り、ゴールまで奪ったレフティに対して、子供たちが熱視線を送る。
最も盛り上がったのは74分のプレー。左サイドからパワフルな突破で局面を打開し、得意の左足でパンチの効いたシュートをお見舞いした。惜しくも枠を捉え切れなかったが、インパクトを残すには充分過ぎる一撃だろう。
伊藤はU-15日本代表歴を持つ有望株。50メートルを6.1秒で走る俊足に加え、180センチのサイズを生かした高さと左足の破壊力は年代でも屈指のレベルにある。フィジカル面はまだ発達途中で、水泳経験者で188センチの父親を持つことを考えれば、まだまだ身長は伸びそうで、“NEXT中村敬斗”としての期待値は大きい。
「状況判断は改善していかないと上で通用しない」と本人は課題について語ったが、ポテンシャルは一級品。5月に行なわれたU-15日本代表のクロアチア遠征では、本職の最前線ではなく、左SBでプレーしており、今後の成長が楽しみな逸材だ。
アットホームな雰囲気で先輩と後輩が切磋琢磨する三菱養和の伝統は変わらない。先輩たちの背中を見て、後輩が育つ。今まではクラブ内だけでそうした“憧れ”があったが、近年はA代表に多くのOB選手が食い込んだことで、より高いレベルを目ざす選手も増えた。
今季、チームで10番を背負うMF中村圭汰は言う。
「僕もヘンリーくんや敬斗くんと一緒にプレーしたい」
唯一無二の“街クラブ”としての挑戦は続く。次世代の日本代表を担う選手の育成を目ざし、活気のあるグラウンドで今日もまた子供たちがピッチを駆け回る。
取材・文●松尾祐希(サッカーライター)
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