言語がないと人間は「4」までしか数えられない / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

カラスは4まで直感的に数えられると言われています。

そして人間も直感的理解は同じく「4」が限界のようです。

米国マサチューセッツ工科大学(MIT)とカリフォルニア大学バークレー校(UCB)で行われた2022年の研究で、人間の数を数える能力は「数字に名前があるかどうか」に依存していたことが判明しました。

この研究によれば、数字に名前がない文化では数を数える能力が極めて限定されているといいます。

工業化した社会からは無縁の伝統的な文化に属する人々の中には「5以上の数字をあらわす名詞」が存在しないか極めて限定的である場合があり、そのような社会で生活する人々は「4」を超える数の作業の正確さが失われていました。

どうやら人類が他の生物と異なり、数学でマウントをとれるようになったのは、言語の存在に鍵があるようです。

研究内容の詳細は2022年2月8日に『Psychological Science』に掲載されました。

目次

言語がないと人間は「4」までしか数えられない知っている数の名前の直前までしか正確に扱えないカラスも「4」ミツバチも「4」人間も「4」 なぜ「4」までなのか?

言語がないと人間は「4」までしか数えられない


言語がないと人間は「4」までしか数えられない / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

私たち人間と他の動物を隔てる大きな要因として、言語の他に数学的な能力があります。

カラスなどの比較的賢いとされる動物であっても、数えられるの数の限界は「4」までです。

一方、人間は時間さえあれば1億でも10億でも数えることが可能です。

しかしこれは本当に、人間が1億や10億という数を認識していると言えるのでしょうか?

過去の研究では人間が大きな数を実際には「認識していない」ことが明らかになっています。

人間にとって1億や10億は0と同じく概念としてのみ存在する数であり、認識しているというよりは1億や10億という概念や言葉を「知っている」に過ぎないのです。

また12のようなかなり小さな数字であっても、私たちは3が4個あるいは4が3個という片手の指以下の数字の組み合わせで「認識」しがちです。

さらに7のような1ケタの数に対しても、3と4を足したもの、9も3が3つとして「認識」する人が多いでしょう。

漢数字もローマ数字も4になるとガラリと表記が変わり、サイコロの目も4から5にかけて点の数よりも図形としての認識を促す配置になっています。

小学生で習う九九ではより大きな数の掛け算を扱いますが、九九はあくまで言語的な暗記であり直感的な数の理解とは異なります。

過去に行われた子供たちが数を認識する過程の研究でも、興味深い結果が出ています。

子供たちは最初に1を理解し、次いで2、3、4を直感的に理解するようになります。

しかし5を学習した瞬間、6や7だけでなく、それ以降の名前がついた数字を一瞬で理解するようになるのです。

またニカラグアで行われた研究では、一部の先天性聴覚障がい者たちは4より大きな数字を表現できないことが示されました。

数を言語の形で耳から学習することができず教育も不十分な場合、4を超える数の認識にも大きな困難があったようです。

さらに近代的な教育が行われていないピラーア族とムンドゥルク族の成人で石を扱うテストを行ったところ、扱う石の数が4個を超えると不正確さが増すことが示されています。

この結果は、「1から4」までと「5以降の数字」では、本質的に異なる認知が働いていることを示しています。

つまり「1から4」までは本能で数え、「5以降」は言語的な知識で数えている可能性があるのです。

しかし、これまでの研究では、数を数える能力の測定方法が多種多様であり、その方法も必ずしも適切ではありませんでした。

そこで今回MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者たちは極めて簡素かつ強力な説得力を持つ数を数える能力の測定方法を実施することにしました。

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知っている数の名前の直前までしか正確に扱えない


知っている数の名前の直前までしか正確に扱えない / Credit:Benjamin Pitt et al . Exact Number Concepts Are Limited to the Verbal Count Range . Psychological Science (2022)

MITの研究者たちが行った調査方法は上の図のように「縦に並べたボタンと同じ数の石を横に並べる」というものでした。

なんでもない作業のように思えますが、実際は違います。

縦に並べたボタンと同じ数の石を横に並べるには、縦に並んだボタンを一度脳内で「数」に変換する情報処理が必要だからです。

研究者たちはこのテストを、アマゾンの奥地に住むチマネ族の人々に行ってもらいました。

チマネの人々の教育水準は限定的であり、知っている「数字の名詞」の限界値は個人によってバラバラになっています。

そこで研究者たちは知っている「数の名詞」の限界が6~20までの人々15人(低カウント能力者)を特定して、石を並べる実験を行ってもらいました。

結果、正確な数の石を並べられる能力は知っている「数の名詞」に大きく依存しており、石を並べる正確さは知っている数字の限界値より「やや低い」ことが判明します。

例えば10までの数字の名前しかしらない人の場合、正確に並べられる石の数は8個程度となっており、15までの数字の名前を知っている人は扱う石が13個程度になると間違いを犯すようになりました。

つまり10までしか数字の名前を知らない人にとって8は既にいわゆる「たくさん」となって近似値(だいたい)で表現する対象となっており、15までの数字しか知らない人は13個あたりからが「たくさん」となって正確さが失われていたのです。

また実験に協力してもらった低カウント能力者たちの全体的な成績を分析すると、間違いが「4~5」あたりから増え始め、扱うボタンと石の量が増えるにつれ、間違いの幅も大きくなっていくことが判明しました。

この結果は、「数字」をほとんど知らない人たちにとって、「5」という数が最初の壁になっていることを示します。