『機動戦士ガンダム』に登場する地球連邦軍のモビルスーツ「ガンキャノン」は、名称通り、砲撃戦に特化した機体であり、ビームサーベルもシールドも装備していません。結果、劇中ではジオン軍のMSにたびたび接近戦を挑まれ、苦戦を強いられています。なぜ、シールドを装備していなかったのでしょうか?



左手にシールドを持っていてもおかしくはないのに? 画像は「MG 1/100 RX-77-2 ガンキャノン」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

【画像】え、重量感マシマシで超カッコいい! コチラが『ククルス・ドアンの島』版ガンキャノンです(7枚)

接近戦でたびたび苦戦を強いられたガンキャノン

『機動戦士ガンダム』に登場する地球連邦軍のモビルスーツ(MS)「ガンキャノン」は、「ガンダム」「ガンタンク」と同じ連邦軍の兵器開発計画「V作戦」により開発された機体で、ビームライフルと240mmキャノン砲で中距離砲撃支援を行うMSという設定です。

 このガンキャノンは名称通り、砲撃戦に特化した機体であり、ビームサーベルもシールドも装備していません。結果、劇中ではジオン軍のMSにたびたび接近戦を挑まれ、苦戦を強いられています。

 本来は、白兵戦用のガンダムがもっと大量に存在して、敵MSの接近を阻止してくれる前提だったのだと思われます。実際は、ホワイトベースに積み込まれたガンダム、ガンキャノン、ガンタンクは1機ずつだけで、あとは修理部品があるだけだったため、ガンキャノンやガンタンクに敵機が接近する描写も多く見られました。

 ここで筆者が不思議に感じたのは、「ミノフスキー粒子」の存在により、レーダーが効かないため、有視界戦闘を前提として設計されたMSなのに、なぜ「接近戦は起こらない」という装備構成となり、かつ接近戦を挑まれる戦訓を得ても、改善されなかったのかということです。

 ホワイトベースが地球降下するまでは、友軍の支援が得られない状況なので仕方がありません。しかし、ガンキャノンは「グフ」のヒートロッドで撃破されかけ、手足で「ザクII」に白兵戦を挑むような状況でした。にもかかわらず、「マチルダ・アジャン」が「ミデア」で補給物資を運んできても、ガンキャノンの白兵戦用武器や、シールド装備は送られてはこないのです。

 一方で、ガンキャノンの装甲はザクIIの5~6倍の強度があるようで、実際、ドムの「ジャイアント・バズ」に耐える描写もあります。が、第1話ではザクIIのマシンガンで破壊される描写がありますし、ア・バオア・クー戦ではザクIIのバズーカで足が破壊される描写もありますから、とても「シールド不要の防御力」とは言えません。

 また、ガンダムのシールドは防御力が高いだけでなく、おとりや目くらましといった戦術面でも活用されているものですから、シールドのない不利は大きかったと思われます。そして、ビームサーベルを装備していれば、ザクIIとの戦闘はもっと楽だったでしょうし、「ズゴック」に両腕をつかまれもしなかったかもしれません。

『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』に登場する、量産型ガンキャノンは「白兵戦能力が低い」ことが改善されていない上に、装甲までダウングレードされたので、「ケンプファー」に瞬時に撃破されていました。

 実際、ゲーム『機動戦士ガンダム外伝 コロニーが落ちた地で…』の「ジムキャノン」は、ビームサーベルを装備していました。ガンダムと同じジェネレーター出力であり、ビームライフルも使えるガンキャノンが、ビームサーベルを使えないとは思えません。

『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場する「ジムキャノンII」は、シールドとビームサーベルを装備しており、ガンキャノンの改良すべき点と認識されていたこともうかがえます。

 では、劇中のガンキャノンにシールドとビームサーベルが装備されなかった理由はなんでしょうか。筆者は「重量問題」だと推察します。



シュッとしたガンダムに比べると、重そうではあるガンキャノンの後ろ姿 画像は「MG 1/100 RX-77-2 ガンキャノン」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

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ガンダムと比べて「装備が重過ぎる」ガンキャノン

 ガンキャノンは頭頂高17.5m、本体重量51t、全装重量70tであり、頭頂高18m、本体重量43.4t、全備重量60tのガンダムより大幅に重い機体です。全備重量とは「規定された搭載物を全部搭載した時の重量」ですから、ガンダムの機体重量と全備重量の差である16.6tには、おそらくシールドやビームライフル、ビームサーベルが含まれています。

 一方、ガンキャノンの差は19tと、シールドがないのに差が16.6tのガンダムより装備が重いのです。狙撃用ビームライフルが重いとか、搭載されている240mm砲弾40発が重いなどの理由なのでしょう。ロシア軍がウクライナ戦争で使用している240mm迫撃砲の弾丸は1発226kgですから、40発搭載だと9tにもなりますし。

 ジオン軍では「ザクIIF型」が頭頂高17.5m、本体重量56.2t、全備重量73.3tとガンキャノンより重く、量産型「ゲルググ」は、頭頂高19.2m、本体重量42.1t、全備重量73.3tとガンキャノンよりひとまわり大きいのに、本体重量は軽いです(『ガンダムセンチュリー』にはザクIIが本体重量36.4t、全備重量67.1tとあり、ゲルググよりも軽いこちらの方が正解に近い気もしますが)。

 こうしたことから考えても、ガンキャノンは「重過ぎる」のでしょう。

 また状況的に見て、地球連邦軍はガンタンクの時点では歩行システムを実用化できず、ガンキャノンで初めて実用化したものですから、その性能が安定しなかったのだと考えられます。その状況で、重量物であるシールドとビームサーベルをガンキャノンに追加装備させると、歩行システムに問題が生じたのだろうと考えられます。量産型ガンキャノンも装甲材をダウングレードしたためか、ほぼガンキャノンと同一重量ですので「装備したくとも、重すぎてできなかった」のでしょう。

 そして、一年戦争末期の宇宙空間での戦闘時でも、ガンキャノンの敵機はザクIIではなく、「リックドム」など、より高性能化した機体となっていることあり、ガンキャノンを重装備化して、運動性能をこれ以上下げることは得策ではないと判断されたのでしょう。

 これは、「アムロ・レイ」のガンダムが「白い悪魔」として認知され、ジオン軍の最優先目標にされても、撃破されない技量となったことも影響していると考えられます。ガンダムが狙われることで、相対的にガンキャノンが狙われる率が下がり、中距離で砲撃支援するという、本来の使い道に近くなったということです。

 もちろん「アムロのガンダム」などという特異点が前衛を務めることは期待できませんし、MS設計技術も進歩したため、ジムキャノンIIなどの後継機ではシールドとビームサーベルが装備された「常識的な機体」となったのでしょう。

 MSでの実戦経験がない時期の「V作戦」で、机上の空論を元に設計されたガンキャノンはある意味「欠陥機」だったのかもしれず、そのような機体で一年戦争を生き残った「カイ・シデン」や「ハヤト・コバヤシ」はより評価されるべきなのかもしれません。