すかいらーくホールディングスが、資さんうどんの運営会社を240億円あまりで買収すると9月6日に発表した。関東エリアでの知名度は今一つだが、北九州市のソウルフードともいえるほど親しまれている人気チェーンだ。根強いファンを持つブランドを手にする意味は大きいが、今回のM&Aはすかいらーくによる「ファミリーレストラン」というビジネスの転換点を示唆するものでもある。
減少を続けるガストとジョナサンを業態転換、売上増のすかいらーく
すかいらーくは「資さんうどん」の運営会社、資さんの全株を取得して完全子会社化すると発表したが、驚くべきは240億円という株式の取得額だ。
資さんの2024年8月末時点の純資産額は、25億円程度が見込まれており、PBRは9.6倍だ。
PBR(「Price Book-value Ratio」の略)とは株価純資産倍率のことで、株価を1株当たりの純資産で除した数字。株価が割安か割高かを判断するのに用いられる。
丸亀製麺のトリドールホールディングスが3.5倍、はなまるうどんの吉野屋ホールディングスが3.3倍。一般的に数値は低いほうが割安と判断されるのだが、今回のケースだと、すかいらーくは資さんを相当割高な水準で手にしたことがわかる。
それだけ資さんの成長に期待ができるからということだが、高額買収ができるのも、すかいらーくの業績がコロナ禍を経て安定したからに他ならない。
2024年度上半期における、本業での稼ぎに該当する事業利益は118億円、利益率は6.2%。前年同期間の3.3%から急回復している。なお、コロナ禍を迎える前の2019年度の利益率は5.5%だった。すかいらーくの稼ぐ力は回復しきっているのだ。
近年の飲食店は、客数を犠牲にしても値上げによる客単価の上昇で、何とか増収を達成するケースが多いにも関わらず集客も好調そのものだ。
2024年1-8月の既存店売上高は前年比111.6%。客数は107.2%で客単価は104.2%。客数と客単価の両方が前年を上回り、売上増に貢献している。
なお、既存店とはオープンから一定の期間が経過した店舗を指す。新規開業効果が働かない分、その店の本質的な集客力を見ることができる。ただし、主力である「ガスト」などファミリーレストランは店舗の整理に余念がない。
ガストの2024年8月末時点の店舗数は1248。1年前から33店舗減とし、緩やかな縮小が続いているのだ。
この状況は都市型のファミリーレストランである「ジョナサン」も同様である。2024年8月末の店舗数は163で、前年から25店舗減少した。
すかいらーくは2023年度に41店舗の業態転換を行っている。今年度は57店舗の転換を実施済みだ。
すなわち、ファミリーレストランのガストやジョナサンを、「しゃぶ葉」といった別業態へと転換して売上増を達成しているのである。
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サイゼリヤと比べるとガストは割高に…
飲食店などに対するモニター体験のマッチングサービスを行う“ファンくる”は、2022年1月から2023年1月にかけて「ファミリーレストランについての意識調査」を実施した。
それによると、「コロナ前後でファミレスの利用頻度は変わりましたか?」という質問に対して「減った」との回答は37%に及んでいる。「増えた」はわずか4%だ。
消費者の外食頻度が落ちたのは、何もファミリーレストランに限ったことではない。しかし、消費者の好みは贅沢ができる専門店などの単価が高い店か、手ごろで安い店かの二極化が進んでいる。
先ほどの調査で、ファミリーレストランを利用したいと思う理由で最も多い回答は、「手ごろな価格だから」(69%)だ。
ガストは、2023年11月に主力メニューのチーズINハンバーグなど30品目の値下げを行った。しかし、原材料や人件費高騰の影響を排除しきることができず、2024年4月に6割の商品で値上げを実施している。いくら大量仕入れができる大手とはいえ、インフレ下において手ごろな価格を維持するのは簡単ではない。
これによりガストは、贅沢な気分が味わえるわけではなく、単価も安いわけではないという、消費動向の空白地帯に陥る可能性があるのだ。
しかも、すかいらーくの最大ライバルは海外事業で十分な利益が出ているサイゼリヤだ。同社は国内においては徹底的に値上げを行わない姿勢を前面に出している。ファミリーレストラン業界が消耗戦の様相を呈するのは必至。すかいらーくは、戦い方を少しずつ変える必要性に迫られているというわけだ。