新宿・歌舞伎町「夜のショートケーキ専門店」が、夜だけ営業なのに爆売れする理由。

新宿・歌舞伎町にある夜のショートケーキ専門店「ショートケーキカンパニー(ShortCakeCompany)」は、深夜24時まで営業するケーキカフェ。ショートケーキは一人分のホールケーキで、ガラスドームに入っているためSNS受けもよく、広告費ゼロでたちまち予約必須の人気店になりました。

フォトジェニックでありながらおいしさにも妥協しておらず、こだわりはイギリス王室御用達のジャージー生クリーム。ホイップしても常温ですぐに溶けてしまうほど繊細で、注文してからベテランのパティシエがケーキを仕上げています。

オーナーのみねおかさんは、もともと銀座の料亭で女将としてはたらいていたそうです。そこから「夜のショートケーキ専門店」をつくるまでのキャリアと、オープン直後から人気店になった理由を伺いました。

「深夜においしいケーキを食べたい」という甘党のニーズを叶えた

―なぜ「夜のショートケーキ専門店」を作ろうと思ったのでしょうか?

女将として勤めていた割烹をやりたいという想いもありましたが、初期費用がかかりすぎることもあり断念しました。それならばと、もともと甘いものが大好きなこと、夜に本格的なケーキを食べられるお店がないことを踏まえて「夜のショートケーキ専門店」というコンセプトに着地しました。

―歌舞伎町という立地がおもしろいですね。

歌舞伎町はホストクラブに通う女性や夜の仕事をしている女性など、夜型の女性がたくさんいます。でも夜遅くに営業しているのは居酒屋やバーばかりで、スイーツやコーヒーを楽しめるカフェは営業していないんですよね。カフェで一息ついてから帰りたいと思っている女性は多いはずと考え、歌舞伎町を選びました。表参道や渋谷よりもスイーツ店の競合が少ないこともメリットでした。一方で、歌舞伎町だからと妥協をせず、「良い食材を使用した、おいしいケーキ屋さん」という正統派の軸をブラさないようにしています。

―ショートケーキに特化した理由は?

店舗が5坪しかなく、キッチンスペースが限られていて多種類のケーキを作るのは難しかったことと、専門店として特化して「何が売りなのか」を明確にしたほうが認知されやすいからです。ケーキの種類はチーズケーキやモンブランなども検討しましたが、競合がすでにあり、ショートケーキ専門店はまだなかったので「ショートケーキと言えばショートケーキカンパニー」というポジションを取ろうと考えました。

―1ピースではなく、一人分のホールケーキなのも特徴的ですね。

海外には一人分のホールケーキがあるんですよ。すごくかわいいから「日本にもあったらいいのに」と思っていたんです。好きなキャラクターやタレントのグッズをショートケーキの横に並べて撮影して、推し活を楽しんでいるお客さまも多いですね。

ただ、小さいホールケーキ用の器具がなくデザインに苦労しました。女性でも食べ切れるサイズを意識し、ケーキの直径は10㎝ほど。一般的なホールケーキのように生クリームを絞りたくても、小さいサイズの口金がないから同じように作れないんですよね。丸いビーズみたいに生クリーム並べたくても、小さいから数個しか並べられなくて、かわいい見た目にならないこともあります。それでも納得できるものを!と思い、パティシエと2年間かけて月1回の頻度で試作と試食会を重ね、オープンに至りました。私はパティシエではないので、パティシエ歴20年の知り合いとの二人三脚でした。

―ショートケーキならではの苦労もありましたか?

毎月の限定メニューを考えるのが大変ですね。なんせ前例がないので他店を参考にできないし、小さいサイズだからデザインの幅も限られていて、毎月必死です(笑)

常温だとすぐに溶けてしまう高級なジャージー生クリームを使用しているので、パティシエの技術も問われます。繊細すぎてテイクアウトだと出せません。イートインでのみ、出来立てのおいしさで提供することができますが、作り手は苦労していますね。

―オープン以来、予約必須の人気が続いているそうですね。

グルメサイトなどの広告を一切出さずとも、SNSの告知だけで全席埋まるくらい反響をいただいています。オープン時のレセプションで友人のインフルエンサーに来てもらったり、Web記事にそのまま活用できるプレスリリースを出したり、スイーツと言えばこの人!という人気カメラマン・さいだーさんにケーキを撮影してもらったりと、SNSで広がる仕掛けを徹底的に実施しました。

最近のSNSを意識して「縦型」にしたのがポイントです。ドームをつけているのは、縦長にしたかったから。縦動画でパカッとドームを開く縦動画を撮るお客さまが多く、SNSで話題を集めることができました。こうした努力の甲斐あってテレビ番組「出没!アド街ック天国」でも上位に取り上げていただき、認知度が急速に上がりましたね。

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月300時間はたらいた高校生。親から逃れるため、18歳でホテルスタッフに

―ケーキ屋を始める前は、どんな仕事をしていましたか?

高校卒業してすぐ、18歳でリゾートホテルのスタッフになりました。大学に進学せず住み込みの仕事を選んだのは、暴力をふるう親から一刻も早く離れたかったから。中学生のころから実家の飲食店を毎日夜まで手伝わされていて、自由な時間はありませんでした。
その上高校生になったら学費も生活費も出さない。自分のお金でやりくりしなさい」と言われ、高校生になってからは月300時間はたらいて10万をもらい、それを学費と生活費に充てていたので、ハードな学生時代を過ごしていたと思います。家を借りるにも親が保証人になってくれないので、住み込みの仕事一択でした。
「不良にならなかったのがすごい」と言われることもあるんですが、「生きるか死ぬか」の環境にいると、ぐれる暇なんてないんです。生きているだけでお金がかかりますから、寝食を維持することに必死でした。

―苦労されたんですね…。リゾートホテルではどんな仕事をしていましたか?

最初は皿洗いしていましたが、支配人に「あなたは接客力がある。皿洗いだけしているのはもったいないから、接客しなさい」と言われて、フロントやレストランでの接客を担当しました。中学生から実家の飲食店で接客していたので、慣れていたんですよね。
リゾートホテルで半年ほどはたらいて約130万円貯め、1997年に離職して海外へ行きました。日本だと上司はほとんど男性でまだまだ男女差があり、男女平等にはたらける国で自分のキャリアをしっかり作りたかったんです。1年かけてアフリカ、中東、インド、アジアを巡り、世界半周しました。

―どの国に行ったのでしょうか?

親日で物価も安いタイに行きました。タイ語をしゃべれるようになったのですが、いざ就活したら「必要なのはタイ語じゃなくて英語だよ」と言われて、うまくいかず……。途方に暮れていたら知り合いに「ロンドンの料亭で女将見習いを募集しているよ」と紹介され、21歳でロンドンに渡って女将見習いになりました。日本人女性の女将がオーナーの料亭でした。
2年ほどはたらいて「これだけスキルがあれば日本の高級料亭ではたらけるんじゃないか」と思い、日本へ帰国しました。ロンドンではビザの更新が難しかったことと、人種差別を感じたことも帰国理由です。