「アリ風呂」に浸かるカラス? / Credit: Tony Austin-Picture perfect Vancouver Island(2021)
先月末、カナダのブリティッシュコロンビア州ビクトリアで奇妙な光景が撮影されました。
そこに写っているのは、リラックスした様子で鎮座する1羽のカラス。
しかしよく見てみると、全身を無数のアリが這っているのが分かります。
カラスは一体、何をしているのでしょうか?
目次
体を清潔にするための「アリ風呂」?
体を清潔にするための「アリ風呂」?
撮影したのは、同国在住の写真家トニー・オースティン氏です。
オースティン氏は当時、自然観察のため、ビクトリアにあるスワン・レイク・クリスマスヒル自然保護区(Swan Lake Nature Sanctuary)を訪れていたそう。
自然保護区にあ遊歩道 / Credit: en.wikipedia
何の収穫もないまま3時間が経ち、乗ってきた車に戻ろうとしたところ、10メートルほど先の砂利道に数羽のカラスが飛んできたといいます。
そしてすぐに、その内の1羽が奇妙な行動を取り始めました。
そのカラスはアリが通る道の上にゆったりと羽を広げて、全身にアリを這わせ始めたのです。
オースティン氏は「最初は誤って蟻道に着陸してしまったのかと思いました。ところが、そのカラスは特に慌てることもなく、リラックスしているようでした。
また、周りの仲間たちも落ち着いた様子で、その光景を眺めていました。
賢いカラスは仲間がアクシデントに見舞われると、騒いだり動揺するのが普通です」と話します。
オースティン氏はこの行動の謎を解明するため、地元の野生写真家が集まるFacebookコミュニティーの「Picture perfect Vancouver Island」に写真を投稿しました。
羽に無数のアリが見える / Credit: Tony Austin-Picture perfect Vancouver Island(2021)
その結果、これは「蟻浴(ぎよく、anting)」という鳥類に特有の行動であることが判明したのです。
蟻浴とは、鳥が自らの体に昆虫(大半がアリ)を擦り付ける行動で、1935年にドイツの鳥類学者エルヴィン・シュトレーゼマンによって報告されました。
しかし観察記録は古い一方で、蟻浴の目的は完全に解明されていません。
有力な説は「体を清潔に保つ」というものです。
蟻浴の身振りをするオウチュウ / Credit: ja.wikipedia
専門家によると、アリは有害なダニや寄生虫、菌類を寄せ付けないための化学物質を含む分泌液を放出します。
鳥はそのアリの分泌液を自分の羽に塗りつけることで、殺菌や殺虫効果を得ていると考えられるのです。
現在では、250種以上の鳥類に蟻浴行動が確認されており、日本ではカラスやムクドリがその代表です。
このカラスも「アリ風呂」にゆったり浸かっているところだったのでしょうね。
参考文献
Crow Photographed Covered In Ants Is Fine, Just Showing Rare “Anting” Behavior
https://www.iflscience.com/plants-and-animals/crow-photographed-covered-in-ants-is-fine-just-showing-rare-anting-behavior/
Apparently, Crows Love Luxurious Ant Baths. This Is What It Looks Like
https://www.npr.org/2021/06/07/1003973147/crows-love-luxurious-ant-baths-this-is-what-it-looks-like
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
やまがしゅんいち: 高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?