【対談連載】紀文食品 代表取締役社長 堤 裕(下)

●こぼれ話



 猛暑のピークがすぎ、秋に向けて季節が移り変わり始める立秋。紀文食品の日の出オフィスを訪問すると、何やら大きな荷物がいくつも運び込まれ、朝から活気に満ちている。聞けば、店頭でおでん汁の素を陳列するための器具を準備しているとのこと。おでんシーズン到来に備えてのことらしい。「あぁ、赤いパッケージですよね」「そうです、そうです!」と会話しながら、堤裕さんとしばし作業を見守る。毎日暑く、秋の気配は感じないけれど、どうやら確実に旬のシーズンに向かっているようだ。

 ふんわりした触感のはんぺんは、子どもが食べやすく手軽にたんぱく質を摂取できるので、わが家でとても重宝している。あと一品欲しい時も、紀文製品の「チーちく」が大活躍。強力な助っ人である商品群が、いつもバタバタしている私の日常を支えてくれている。社長相手に、思わず主婦モード全開で熱弁してしまう。

 堤さんは、紀文入社後、さまざまな部署で若くして重要なポジションに就き、多様な経験を積んでこられた。若いうちから重要なポジションを任せる紀文の度量に少し驚く。「任せてもらえたというか、やらざるを得なかったんです」と堤さんは謙遜しておられた。名刺交換をするたびに、「よく知っていますよ」「食べてます」と言っていただけることが、本当にありがたいと微笑む。紀文というブランドが、販売促進の後押しをしてくれているのは間違いない。紀文が培ってきた信頼と信用をしっかりとつないでいかなければならないという重さが、堤さんのひと言ひと言からひしひしと伝わってくる。

 「さつま揚げかな?かまぼこかな?」そんなことを思いながら、紀文の三つの赤いマークは何を表しているのですかと聞くと、つくり手と流通と消費者をハートで表現しているとのことであった。なんと、千人回峰の「ものづくりの環」と同じ! いやはや、マークの意味を勘違いしたのはなんとも恥ずかしい。さつま揚げでもかまぼこでもなかったけれど、もはや食べ物に見えるのは、紀文の認知度の凄さではないか!?(奥田芳恵)

心にく人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。

奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。