2024年になって外国人観光客が回復傾向にあり、今年上半期の入国者数は過去最高となった。彼らは何を求めて日本を訪れるのだろうか。そして、こうした状況は今後も続くのか。
『観光消滅-観光立国の実像と虚像』(中央公論新社)より一部抜粋・再構成してお届けする。
インバウンドが回復しない国々
2024年になって外国人観光客が回復傾向にあり、1~6月の入国者数は1778万人と過去最高、年間で3500万人が視野に入ってきた。
一方で減少の最たる要因と言ってよいのは、中国である。コロナ前と比べた回復率はマイナス74.7%(959万4400人→242万5000人)、つまり4分の1にとどまっている。続いて、ウクライナ侵攻で日本との関係が悪化したロシアがマイナス65.0%12万0000人→4万2000人)の減少率である。
日本とロシアを直接結ぶ航空便は2024年5月現在1本も飛んでおらず、そもそも日本と欧州を結ぶ航空機は、主要ルートであったシベリア上空を飛ぶことすらできない状況が続いている。
実は、コロナにより実質的な渡航禁止となった2020年春には、成田空港と極東のウラジオストクを結ぶ新たな直行便が就航したが、すぐに運航停止となった。仮にウクライナ戦争が終結しても、すぐにロシアからのインバウンドが戻ることは考えにくい状況である。
ほかにイギリス、フランス、マレーシア、台湾、スペイン、そして北欧諸国が10%以上減らしている国・地域である。ヨーロッパ諸国の場合、猛烈な物価高や先述の航空ルートの遠回りにより、運賃も所要時間も増加していることが関係しているだろう。
これらの数字を円グラフに置き換えてみると、中国の減少と韓国の増加がやはり目立つ(図表3)。中国の減少は団体旅行が2023年8月まで解禁されなかったことや、福島第一原発の処理水の放出に国として反対し、関係が良好とは言えない時期だったことも一因だろう。
国の施策が大きく影響するため予想を立てるのは難しいが、日本へのインバウンド、言い換えれば観光立国の成否のカギを握っているのは、中国の動向である。
2024年2月の春節シーズンには、中国人の個人旅行での来訪者が大きく増加したが、それでも訪日客数はおよそ45万9500人と2019年の6割程度にとどまり、長期休暇も追い風にはならなかった。
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中国からのインバウンドは戻る?
もともと中国は膨大な人口を抱えている。農村部でも経済力が高まり、海外旅行に行けるだけの中間層が増加すれば、さらにインバウンドは劇的に増えることが予測されていた。
しかし、不動産バブルの崩壊などによる経済不振やそれに伴う若者の就職難などに加え、人口減少が始まっている現状からは、再び訪日客が増加するという楽観的な予想は立てにくい。勤務先の大学に大勢来ている留学生に聞いても、中国での就職は極めて難しいとか、給与が下がり続けているといった悲観的な話が多い。
他方、東南アジア諸国、具体的にはタイやマレーシア、シンガポールでは、中国人の短期滞在者に対してビザ免除を行ったため、そちらに中国からの観光客が流れたとも考えられる。中国の旅行会社は、日本渡航の伸び悩みとして福島第一原発の処理水の海洋放出や能登半島地震などの影響も指摘している。
他の国からの訪日客増加が見込めれば、中国に頼らなくてもインバウンドはさらに伸びるとも考えられる。だが、いずれにせよ、これまでインバウンドを支えた国(2019年では30%を占める)の動向は、観光立国の成否を大きく左右する。中国の経済低迷は、デフレの進行や消費性向の低下にもつながり、海外渡航にお金を使う状況には簡単に戻れない恐れもある。
とはいえ、2024年に入ると、中国からの訪日客はかなり回復しており、上半期(1~6月)には台湾を上回るまでに伸びている。政治・経済両面の影響を受けやすい国だけに距離感がつかみづらい状態が続きそうだ。
「円安」日本旅行を満喫している外国人訪日客へのインタビューをテレビ番組などで見ていると、きっかけはアニメだったり、自国で食べた寿司やラーメンなどの日本食だったりする。そして、「本場」の日本食の洗礼を受けて感激する。あるいは、24時間営業で品数豊富なコンビニエンスストアやバラエティ豊かな自動販売機、正確かつ快適な新幹線などの虜(とりこ)になる。
こうした様子を見るのは、日本人としても誇らしい気持ちになる。しかし、その陰にはもう少しシビアな面もある。それはいうまでもなく「円安」の影響である。