双頭かつ前脚だけが4本あるマウス


頭を提供するマウスの切断部分が上腕部を含むかなり下のほうに設定された / Credit:Peng‐Wei Li et al . A cross‐circulated bicephalic model of head transplantation . CNS Neuroscience & Therapeutics (2017)

2017年に発表された研究では、さらなる改善が行われました。

まず頭部を提供するラットは、以前の実験に比べて頭部からより離れた位置で切断されました。

完成図をみると頭を提供するラットは頭部だけでなく前腕部も含めて移植されているのがわかります。

こうすることで高い圧力がかかる頸動脈を傷つけずに済むため、実験の難易度が大幅に軽減されました。

また第三のラットがポンプ装置と一緒に用意されている点も異なります。


第三の血液供給用のマウスは文字通り血液を与えるために実験に参加している / Credit:Peng‐Wei Li et al . A cross‐circulated bicephalic model of head transplantation . CNS Neuroscience & Therapeutics (2017)

以前の2つの研究では、頭部を切り離した直後にできるだけ早く、体に接続しなければなりませんでした。

しかし新たな研究では頭部を完全に切り離す前に、血液供給用の第三のマウスの血管と接続し、さらに頭部へ向かう血液を冷やすステップが追加されました。

冷たい血液を脳やその他の器官を冷却することで、細胞へのダメージを減らすことが可能になります。

切断した指や腕を病院に搬送する前に冷やしておくと、結合手術が上手くいく確率があがるのと同じ仕組みと言えるでしょう。

頭部の切り離しを血液の冷却というステップを挟んで段階的に行うことで、より組織の正常さを保ったままの移植が可能になります。

実際、この状態で頭部は最大 6 時間維持されましたが、脳波や角膜反射に明らかな異常はありませんでした。

さらに刺激を与えてみると頭部はかなりの動きを示しました。

頭部の冷却が済むと、体からの完全な切り離しが行われ、体を提供するマウスとの結合が行われました。


これまでで最も安定したバイタルサインが得られた / Credit:Peng‐Wei Li et al . A cross‐circulated bicephalic model of head transplantation . CNS Neuroscience & Therapeutics (2017)

結果、14 対が平均 36 時間以上生存しました。

頭部を提供したラットには末梢虚血や他の血管異常、組織壊死の兆候は見られませんでした。

また頭部を提供するラットの脳波と血中酸素飽和度、体を提供するラットの心電図は正常と言える範囲を維持していることが確認できました。

また研究者たちが手術後の反応を確認したところ、ラットたちは角膜反射と痛みを感じている兆候をみせ、神経機能が維持されていることも示されました。

このことから研究者たちは、手術プロセス全体で頸動脈、頸静脈、椎骨動脈が温存されたことで、脳や心臓などの機能がより正常に保たれていると結論しています。

また今回の研究結果は、頭部移植を行う際に切り離しポイントを首よりもかなり下側にすることの有効性を示しており、一般的にイメージされる頭部移植の代替手段となる可能性が示唆されました。

この研究は、倫理的な観点からかなり問題を感じる内容であることは確かです。

この研究の手法や意義については、まだ議論されるべき段階のものでしょう。

しかし頭部移植技術が確立されれば、重度の身体障害を持つ人々に新たな希望をもたらす可能性があり、医学だけでなく社会にとっても重要な意味を持つ可能性があります。

実験を主導したレン氏らはこれまで1000匹を超えるマウスやラットでの移植実験を行っており、技術的な精度を高めているといいます。

頭部移植は倫理的にも技術的にも多くの問題を抱えていますが、困難な移植に挑戦していることは確かです。これが完璧な技術になった場合、科学技術の大きな飛躍を象徴する出来事になるでしょう。

元論文

Allogeneic Head and Body Reconstruction: Mouse Model
https://doi.org/10.1111/cns.12341

Head Transplantation in Mouse Model.
https://doi.org/10.1111/cns.12422

A cross-circulated bicephalic model of head transplantation
https://doi.org/10.1111/cns.12700

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。