路線バスの相次ぐ休止がニュースに
「人手不足」がまず取り沙汰されるのは、交通インフラの担い手たちである。コロナウイルスの収束による通勤通学や観光需要の復活の一方で、長期の需要停滞による離職の増加で、現在、全国各地で路線バスやタクシーの運転士不足が深刻化している。
大阪府南部の富田林市などを地盤とする「金剛バス」が2023年12月20日限りでバス事業から撤退し、全15路線を廃止した。このニュースは、大都市圏でさえ燃料費高騰による運行経費の増大や運転士不足により地域の足の確保がままならない実態を浮き彫りにしたと言える。
これはほんの一例に過ぎない。北海道では札幌駅を発着する郊外からのバス路線のうちのいくつかを近郊の地下鉄の駅止まりにして、中心部への乗り入れ路線を縮小し効率化を図ることとなった。長野市でも地元のバス会社が運転士不足のために特定の路線の廃止を発表するなど、地域のバスの苦境があらためてクローズアップされている。
この状況は、実際に運転士の長時間労働にメスを入れる労働規制の強化(いわゆる「2024年問題」)が実施された2024年4月の前後に、さらに深刻度が増した。人口が日本最大の「市」である横浜市でさえ、4月1日に一部減便を実施し、その新ダイヤがまだ定着しない同月22日にさらなる減便を発表している。働き手が多いはずの大都市圏でもバスのダイヤの確保は困難になっている。
さらに観光に直結する空港リムジンバスの運休も、目立つようになってきた。京浜急行バスは、2024年3月から、羽田空港と鎌倉・藤沢・箱根桃源台、甲府を結ぶ4路線を運休とした。羽田路線は、出張や帰省なども含め、広い意味では完全に観光路線であり、旅行者の足を奪う深刻な事態となっている。
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「鉄道の代替はバスで」が難しい現実
筆者は、勤務先である千葉県の大学へ通うために、2022年秋に開業した「バスターミナル東京八重洲」を定期的に利用している。5分おきくらいに次々と発着する高速バスを見ていると、その隆盛ぶりが際立って感じられ、全国的な運休・廃止の傾向はここからは読み取れない。とはいえ、実際には東京駅のバス乗り場だけを見ていては気づかない事態が進行していることをあらためて思い知らされる。
現在、日本の各地、とりわけ地方では、JRを中心に深刻な赤字路線が増加。鉄道の維持が困難だと思われる路線が次々とクローズアップされている。その代替手段がバスへの転換だが、「2024年問題」の前後でこれだけ人手不足による運休や廃止が続くと、いずれ代わりのバス路線でさえ維持できないという、「移動の空白地帯」が各地に生まれることが予想される。
北海道では、北海道新幹線の延伸による並行在来線のJR函館本線小樽〜長万部間のバス転換が決定しており、しかも開業が予定されていた2030年(実際にはさらに遅れることが既成事実化している)を待たずにバス路線への転換が模索されている。
ところが、北海道各地ですでにバスの運転士不足が深刻で、前述のように多くのバス路線が減便や廃止になっているため、バス会社が運行を引き継ぐことはきわめて難しくなっている。鉄道の廃止が決定し、それを引き継ぐバスのめども立たなければ、沿線の倶知安やニセコなどは、倶知安に設置される新幹線駅を除けば地域の足は壊滅しかねない。あれほど外国人観光客でにぎわっているにもかかわらずである。
同じく運転手不足に悩むタクシー業界では、大都市圏の一部でもライドシェアの解禁が始まっているが、地域の足の担い手であるバスの運転士をどう確保するか、これは一事業体だけでは解決しそうもない。より広い事業体や自治体、国などによる総合的な対策が必要となってきている。根本的な解決法に着手しなくては、ごく限られた黒字の路線以外、国内から公共交通機関が消えていきかねないのである。
文/佐滝剛弘