〈自民党総裁選〉推薦人名簿から透けてみえる“自民党長老たちの思惑”。高市氏にはあのお騒がせ議員、進次郎氏にはまさかの“因縁の相手”、ぼっち石破氏には…? 

12日、自民党は岸田首相の後継を決める総裁選を告示。事実上、日本のトップを決める選挙戦がスタートした。最終的には9人の候補による大乱戦に。立候補には20人の国会議員の推薦が必要だが、それぞれの候補者を推したのは誰なのか? 推薦人名簿からそれぞれの思惑を分析する。

ネトウヨ歓喜の推薦人

12日に告示された自民党総裁選。過去最多9人の候補者が乱立する混戦となっているが、同日の昼頃、永田町内で出回ったのが「候補者推薦人・選挙責任者名簿」だ。各候補を支える「推薦人」の顔ぶれには各陣営のカラーが色濃く反映されていた。名簿をもとに各陣営の“クセがつよい推薦人”の顔ぶれを紹介しよう。

安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の継承を掲げる高市早苗氏の陣営には、ヘイトまがいの過激なSNS発信を身上とする杉田水脈氏ら急進的右派がズラリ。

総裁候補の筆頭と目されている小泉進次郎氏の陣営には出馬を断念して動向が注目されていた野田聖子氏が加わった。

旧民主党から転身した“外様”議員に支えられる石破茂氏に、派閥色が濃厚な河野太郎氏の陣営。この名簿からは「9・27」決戦に向けた菅義偉氏や麻生太郎氏、二階俊博氏ら「長老」たちの思惑も透けて見える。

「サナエあれば、憂いなし」。総裁選告示日前日の11日。高市氏が総裁選出馬に当たって打ち出したキャッチフレーズが書かれたボードを前にする写真をX(旧Twitter)に挙げたのは杉田水脈衆院議員だ。

続けて12日には高市氏との2ショット動画もアップし、〈高市早苗候補の政策通のところはもちろん、チャーミングで可愛い部分も発信していければと思います〉と意気込んだ。

杉田氏は今年3月にアイヌ民族の関係者に向けて〈日本に存在しない差別を話す人たち〉とXに投稿し批判を浴びるなど、SNSでの過激な発信で知られる。
それだけでなく性的マイノリティーへの差別など、良識が疑われる問題発言を繰り返しているが、「ネット右翼」といわれるような保守派界隈では根強い人気を得ている。

高市氏自身も、以前からネット人気の高さは折り紙付きだ。いまだに熱狂的な信奉者がいる安倍元首相の「路線継承」を前面に押し出す彼女のもとには、杉田氏の他にもネットの保守層と親和性の高い議員が集まっている。

「杉田氏ほどの過激さはないが、SNSで極端な右寄り発言を繰り返していることでいえば山田宏氏もそう。杉並区長も3期務めましたが、国政では日本新党から日本維新の会、次世代の党を経て自民入りしている。

旧安倍派の所属でもありますが、キャラクター的にも“らしい”推薦人のひとりです。同じく旧安倍派からは、党内きっての積極財政派である西田昌司氏も推薦人に加わっていますが、彼もネットでの情報発信に積極的ですね」(全国紙政治部記者)

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因縁を感じさせる小泉進次郎氏の推薦人

一方、党内に隠然たる影響力を持つ菅義偉元首相から、「日本の舵取りを託したい」と支持を明言された小泉進次郎氏の推薦人には、総裁候補のひとりと目されていた野田聖子氏が加わり、永田町をざわつかせた。それは野田氏の政界キャリアとも関わる。

「野田氏は史上最年少の26歳で岐阜県議となり、33歳で国政入りしました。37歳にして小渕恵三政権で郵政大臣に大抜擢されるなど順調にキャリアを重ねていきました。史上初めての女性首相の筆頭候補と期待が寄せられていましたが、そんな彼女のキャリアが暗転したのが小泉進次郎氏の父、純一郎氏との衝突でした」(同前)

小泉純一郎元首相は、2001年の自民党総裁選で「自民党をぶっ壊す」とぶち上げて改革イメージを前面に出した「小泉劇場」と呼ばれた劇場型の選挙戦を仕掛け、首相の座を勝ち取った。その小泉氏が2005年に成立させたのが、日本郵政公社の民営化を核とする「郵政民営化法」だった。

この法案を巡っては、自民党内が賛成派と反対派に真っ二つに割れることになった。法案反対派は「造反組」と呼ばれ、党内の主流派からパージされたが、その「造反組」の急先鋒とされたのが野田氏だったのである。

野田氏はその年の衆院選で、党の公認を得られなかったばかりか、「刺客」候補を送り込まれる憂き目にあった。なんとか当選を果たしたものの、党から離党勧告を受けて無所属での政治活動を余儀なくされた。

その後、復党を果たし、党三役の総務会長や総務相を歴任するなど、永田町でのキャリアを再構築していったが、郵政民営化を巡る政争に巻き込まれたことによって生じた政界での「空白」の代償は小さくなかった。

「野田氏は2015年に総裁選への出馬を模索しましたが、無所属での活動が続いていたことも災いし、推薦人の確保に至らず、出馬を断念しています。前回2021年の総裁選に念願の初出馬を果たしましたが、その際も推薦人集めには苦労していた。今回も推薦人確保のめどが立たずに出馬を断念しましたが、そもそもそうした境遇に陥る遠因となったのが、進次郎氏の父、純一郎氏だったわけです。

今回、進次郎氏の支持に回った背景には、無派閥議員たちのボスである菅義偉元首相の意向が働いたとも言われていますが、因縁の相手の息子を応援しなければいけなくなったことになるわけで、心中穏やかではないでしょうね」(同前)

ちなみに、進次郎氏の陣営には、父・純一郎氏や山崎拓氏らとともに「YKK」と呼ばれる盟友関係を築いた加藤紘一氏の娘である加藤鮎子少子化対策担当相も推薦人として名を連ねている。どこか政治的因縁を感じさせる取り合わせである。