現在において猫たち、犬たちは人間にとって「家族の一員」と言えるまでの存在になっている。特に猫の場合、2000年台半ばから始まったとされる「猫ブーム」でその人気は未だ衰えていないが、その裏では命の「大量生産」「大量消費」を前提とするペットビジネスの闇が広がっている。
『猫を救うのは誰か ペットビジネスの「奴隷」たち』(朝日文庫) より、一部抜粋、再構成してお届けする。
「8年でほぼ2倍」増える猫の流通量
ペットショップの店頭では、はやりの純血種の子猫がずらりと並ぶ様子が当たり前になっている。2016年のゴールデンウィークには、競り市での落札価格が例年の3~4倍まで高騰し、子犬より高値がつく子猫も出て、業界内で話題になった。
朝日新聞の調査では14年度以降、猫の流通量は前年度に比べ平均1割増のペースで増えてきた。全国の動物取扱業にかかわる事務を所管する地方自治体に対し、13年9月以降にペットショップや繁殖業者に提出が義務づけられた「犬猫等販売業者定期報告届出書」について集計値を調査し(各年度とも回収率100%)、合算した結果わかった。
この届出書では、それぞれの業者がその年度中に「販売もしくは引き渡した」犬猫の数や、「死亡の事実が生じた」犬猫の数を報告しなければいけないことになっている。繁殖業者がペットショップに出荷・販売した場合にも1匹としてカウントされるので、「延べ数」として見てほしいが、国内の犬猫流通量のトレンドとしては十分に実態を反映している。なお、自治体によっては一部業者から届出書を回収できていないので、実数としてはこれよりも大きくなる。
このような調査が可能になった14年度と22年度とを比べると、猫の年間流通量はこの8年で89%増、つまりはほぼ2倍になっていることがわかる。
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「猫は仕入れるとすぐに売れるため、地方都市まで回ってこない」
猫の入手先としてペットショップが定着しつつあることは、ペットフード協会の調査からも見て取れる。年代が若いほど、もらったり拾ったりするのではなく、ペットショップで猫を買う人の割合が増える傾向にある。
ペットフード協会が毎年発表している「全国犬猫飼育実態調査」の23年分を見ると、20~70代の全年代では、猫を「ペットショップで購入」したという人は15.9%で、「野良猫を拾った」(31.3%)や「友人/知人/親族からもらった」(20.6%)には及ばない。
だが30代では「ペットショップで購入」が21.7%まで増え、「野良猫を拾った」(27.5%)に迫り、「友人/知人/親族からもらった」(20.0%)を逆転している。
「ペットショップで購入」する人は20代(19.0%)と40代(20.1%)でも全年代平均より高くなっている。なお20代では「友人/知人/親族からもらった」は11.1%にとどまった。
こうした変化は、ペットショップの販売現場でも、数字になって表れてきている。
全国で約130店を展開する「AHB」では15年度、犬の販売数が前年度比7%増だったのに対し、猫は同11%となった。ペットショップチェーン大手「コジマ」でもこの数年、前年比2割増のペースで猫の販売数が増えているという。
18年に入ると、ペットショップにおける販売数の増加はさらに過熱。「猫は仕入れるとすぐに売れるため、地方都市まで回ってこない」(大手ペットショップチェーン従業員)という状況になり、この年のゴールデンウィーク前後には、猫の仕入れ値はさらに急騰したという。競り市では、子犬の落札価格を上回る子猫はもはや珍しくなくなった。