猫ブームバブルの裏側で発情期をコントロールする悪徳業者が横行…「子猫は死ぬと冷凍庫に保管し、ある程度死体がたまると…」とある繁殖業者アルバイトの証言

「増産態勢」――コントロールされる発情期

このように人気が過熱し、価格が高騰し、流通量が増えるということは、当然ながら生産量が増えることを意味する。

猫ブームの裏側で2010年代半ば以降、猫は完全に「増産態勢」に入っていた。

16年初夏、ある大手ペットショップチェーンが都内で開催した繁殖業者向けのシンポジウムを取材した。講師を務めた同社所属の獣医師は、集まった繁殖業者らを前にこんなふうに語りかけた。

「猫の販売シェアが年々増加しています。昨年は約18%でしたが、今年のゴールデンウィークには20%を超えました。猫のブリーダーの皆さまにはたいへんお世話になっております。本日は、猫の効率の良い繁殖をテーマに話をさせていただきます。犬の繁殖とは大きく異なりますので、よくお聞きください」

獣医師は様々なデータを用いながら、猫は日照時間が長くなると雌に発情期がくる「季節繁殖動物」であることなどを説明。そのうえで、繁殖用の雌猫に1日12時間以上照明をあてつづけることを推奨した。

「普通の蛍光灯で大丈夫です。長時間にわたって猫に光があたるよう飼育していただきたい。光のコントロールが非常に大切です。ぜひ、照明を1日12時間以上としていただきたいと思います。そうすれば1年を通じて繁殖するようになります。年に3回は出産させられます」

実は猫は「増産」が容易な動物なのだ。

この獣医師が言うとおり季節繁殖動物である猫は、日光や照明にあたる時間が1日8時間以下だと発情期がこず、一方で1日12時間以上照らされていると1年を通じて発情期がくる。だから日本で暮らす野良猫は、一般的に1月半ばから9月にかけて発情する。

つまり繁殖業者は、繁殖用の雌猫に1日12時間以上照明をあて続け、生まれた子猫をなるべく早めに出荷・販売すれば、年3回のペースで出産させることが可能になるのだ。発情が周期的に、6~8カ月ごとにくる犬では、こうした「増産」は難しい。

一般社団法人「日本小動物繁殖研究所」所長の筒井敏彦・日本獣医生命科学大学名誉教授(獣医繁殖学)はこう話す。

「積極的に子猫を産ませようと思うブリーダーがいれば、年3回はそう難しくはありません。ただ、繁殖能力が衰える8歳くらいまでずっと年3回の繁殖を繰り返せば、猫の体にとって確実に大きな負担となってしまう。また子猫を長く一緒に置いておくと繁殖のチャンスが減るということを、多くのブリーダーが理解している。このことで、子猫の社会化に問題が出てくる可能性も否定できません」

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「子猫は死ぬと冷凍庫」

2018年7月、関東地方北部の猫の繁殖業者を取材した。住宅街に立つ3階建ての戸建て住宅。そのなかで100匹近い猫たちが暮らしていた。

なかに入ると、アンモニア臭が鼻をつく。1階の部屋には狭いケージに入れられた猫が多数いるほか、妊娠中でおなかを大きくした猫が何匹もうろうろとしていた。2階を住居スペースにしており、3階にも数十匹の猫がいるという。

この住宅に住む女性が猫の繁殖を始めたのはおよそ10年前。最初は小規模に始めたが、いまでは常に20~30匹の子猫がいるほどの繁殖業者に成長した。インターネットに広告を出して直接消費者に販売しているほか、埼玉県内の競り市にも出荷している。

これだけの数の猫の面倒を、女性を含めて1~2人程度で見ている。当然、健康管理は行き届かない。

かつてこの繁殖業者のもとで働いていたというアルバイトの女性はこう証言した。

「とにかく病気の子が多い。治療を受けさせてもらえないまま死んでしまう繁殖用の猫もいました。くしゃみや鼻水を出しながら繁殖に使われている子もいて、そういう猫たちは、絶対にお客さんの目には触れないよう隠されています。親の病気に感染して死んでしまう子猫も少なくなく、働いている間は頻繁に猫の死体を目にしました。子猫は死ぬと冷凍庫に保管し、ある程度死体がたまると、業者を呼んで引き取ってもらっていました。成猫は1匹1000円程度で引き取ってもらっていたようです」

繁殖用の親猫を増やし、子猫を増産するなかで劣悪な飼育環境に陥る業者が出てくる一方、バブル状態の市場環境は、新規参入を促す。

脱サラや定年退職して猫の繁殖業を始める人もいれば、「農家の人で、野菜を作るより猫を繁殖するほうが効率がいい、と始める人もいると聞く。安易に猫の繁殖を始める人が相当いる」(大手ペットショップチェーン経営者)といった状況だ。

文/太田匡彦