小林可夢偉、あらゆる可能性に懸けたWEC富士は「どこで仕掛けたらいいのか分からないまま、終わってしまった」

 世界耐久選手権(WEC)第7戦富士6時間レースは、ホームのトヨタにとってとても厳しい結果に終わった。7号車は小林可夢偉のドライブ中にポルシェ5号車と接触しリタイア。8号車は3番手を走っていたものの、ペナルティで10位に終わったのだ。

「正直残念な結果になってしまって、まずこのホームレースの応援をしていただいた皆さんに対して、期待に応えられずに非常に申し訳ないという思いがあります」

 レース後、チーム代表として小林はそう語った。

「チームとして正直厳しいレース展開ではあったんですけども、ありとあらゆる可能性で前に行くことに挑戦していましたが、残念ながらそこに至らず、僕が運転した時にクラッシュという形でリタイヤしてしまいました」

「平川も3番手を走行中にドライブスルーで10位という散々な結果になってしまって、ちょっといろんな意味で最大限のパフォーマンスというのを出しきれなかったというか、持って帰れるポイントを持って帰れなかったっていうところが、非常にチームとして悔しいし、ドライバーとしてももちろん悔しい結果になってしまいました」

 小林は、トヨタはチームとしてマシンパフォーマンスは苦しい状態ながらもあらゆる可能性を探って食らいついたものの、レース展開も味方しなかったと振り返った。

 手を尽くしてアドバンテージを生み出そうとしていたトヨタにとって、特に痛かったのがレース残り1時間50分を切ったところで出されたセーフティカー(SC)だった。バーチャルセーフティカー(VSC)中に各車がピットインし、その後SCに切り替わったことで、全車が残り1時間半のレースを1回のピットストップで走り切るというイコールコンディションのレースになってしまったのだ。

「チームとしてできる限りのことはやったんですけども、正直今回はポルシェっていうよりもLMDhが全体的にかなり速くて、僕たちはタイヤの保ちも良くなければパワーでも不足していて、一体どこで仕掛けたらいいのだろうというレース展開のまま6時間終わってしまいました」

「僕らのクルマにとっては(最後の)SCのタイミングは不運でしかなくて、あのままグリーンだったら多分もうちょっといいところで戦えていたのに、SCが入ったことで完全に後ろに沈んで、ストラテジーはみんな同じ、あそこから1回ストップするという状態で、なおかつ僕はVSC中にタイヤを変えなかったので8周、 10周ぐらい走ったタイヤでなんとか繋がないといけないっていう状態になってしまった」

「あの時点で僕は8番手だったんですけど、追い上げるしかないという状況に陥っている中で、最後の2スティントで突然、今まで速くなかったクルマがここで本気出してきて。みんな全然速かったんだなっていうのが分かったっていう展開なので、まずそこが今回うまく噛み合わなかったというところですね」

「逆にあれがSCじゃなくてフルコースイエローだったら、8号車はおそらく勝てる可能性があったんですよね。1回ピットストップを減らせていたので。でもあれがまさかのSCっていうことで正直自分らの勝てるレース展開ではまずなかったっていうところが、まずひとつです」

 また、今回のトヨタGR010は純粋にスピード不足だったと小林は言う。

「あと純粋なスピードが完全に足りなかったです。正直タイヤのタレも僕らの方が厳しいという状態で、なんとか食いつないで行ってはいたけど、やっぱり最後の最後のペースを見ると、僕らは完全にペース的には足りてないのかなと感じました」

「僕らはタイヤが美味しい時、向こうはちょっとタイヤがきつい状態でもイコールぐらいのタイムなので、やっぱり向こうのタイヤが美味しい時にしっかりギャップを作られてしまいます。そこが今回一番の敗因だったのかなと思います」

 ポルシェ5号車との接触について、タイミングの悪さもあったものの、プレッシャーに対処しきれなかった部分もあると小林は認めた。

「(5号車とは)結構何周もあの状況をずっと繰り返してて、正直タイミング悪くお互いが引かないってコミットした状態でコーナーに入ってしまって、僕もやばいと思って避けようと思って入ったんですけど、僕もほぼパイロンを跨いでいる状態で、右前が微かに当たって前のクルマがスピンして、それを避けようとしているところに下がってきた5号車にリヤがドンと当たって、残念ながら修理できませんでした」

「BoP(性能調整)のパワー差と重さの差があそこで出ていて、素直に諦めればよかったのかなって部分も今思えばあるんですけど、でもあそこで素直に諦めたらポジション的には多分9位のままだったので、自分としてはもっと上のポイントを狙っていかないとチャンピオンシップは厳しいっていうプレッシャーもあり、そこをうまく自分自身が制御できなかったなという風に思います」

 7号車はレース中盤、ニック・デ・フリーズが躍動し、豪快なオーバーテイクを見せたシーンもあった。小林も、LMP2時代にデ・フリーズが富士で驚きの速さを見せていたこともあり、その速さには自信があったという。

 しかし、デ・フリーズが担当したレース中盤の戦略も、苦肉の策で考え出されたものだという。

「まずあの戦略になってしまったのはマイク(コンウェイ)が乗ってる時に、最初は調子良かったんですけど、そこからタイヤがガクンと落ちてしまって、本当はセブ(8号車のセバスチャン・ブエミ)みたいにあと8周行きたかったんです。あそこであと8周行けると残りのスティントが7周とか8周の計算になって、もう1回FCYとかVSCが出たら1回ピットストップが減らせるんじゃないかと思ったので、あそこで引っ張りたかったんです。でも僕らは落ちちゃったので、7号車を先に入れるしかなかった。8号車は速くはなかったんですけど、食いつなげたからステイさせました」

「そして僕ら7号車は残りのスティントが15〜16周のスプラッシュになると分かり、それをどこで消化するかってなった時に、本来なら多分最後にそのスプラッシュをやるところをチャレンジしてニックに行かせて、僕が残りをニュータイヤ連投で行きたかった。ですけども、途中でSCが入ったことによって、その貯金が全部なくなってしまって、逆に不利な状況になってしまったんです」

 今回の結果、7号車の小林とデ・フリーズはポルシェ6号車のドライバーたちと37ポイント差。最終戦バーレーンでは最大39ポイント獲得できるため、逆転タイトルの権利は残っているが条件はとんでもなく厳しい。

 一方、マニュファクチャラーズ選手権は首位のポルシェと10ポイント差。これは7号車か8号車が優勝できれば、ライバルの結果に関わらずタイトル獲得が決められる差だ。

 小林は、バーレーンで勝ってタイトル獲得を決めたいと意気込んだ。

「最終戦バーレーンで勝てば、自力でチャンピオンを獲得できるので、勝つしかないという気持ちでバーレーンに行って、思いっきり、自分たちが悔いを残すことのないレースをしていきたいなと思います。ドライバーズタイトル獲得は奇跡に近いし、僕らが勝つしかないっていうのは間違いないです」