Credit: 東京大学 – シジュウカラはジェスチャーを使う ―翼をパタパタ「お先にどうぞ」―(2024)

私たちは言葉だけでなく、身ぶり手ぶりを用いたジェスチャーで相手にメッセージを伝えています。

これまでの研究で、ジェスチャーは主にヒトを含む類人猿において独自に発達したコミュニケーション手段と考えられてきました。

しかし今回、東京大学の最新研究で、野鳥の一種であるシジュウカラが翼の動きで「お先にどうぞ」のジェスチャーを使っていることが世界で初めて発見されたのです。

一体どんな動きのジェスチャーで、どのようなシチュエーションで使っているのでしょうか?

研究の詳細は2024年3月25日付で科学雑誌『Current Biology』に掲載されています。

目次

シジュウカラは「お先にどうぞ」のジェスチャーを持っていた!実際の映像で「お先にどうぞ」を見てみる

シジュウカラは「お先にどうぞ」のジェスチャーを持っていた!

ジェスチャーは私たちにとって大切なコミュニケーション手段の一つです。

遠くの方にいる友達に手招きしたり、遠慮するときに顔の前で手を振ったり、周りがうるさくて声が聞こえないときには耳に片手をやったりして、特定のメッセージを伝え合っています。

これまで、野生動物におけるジェスチャーの研究は、そのほとんどすべてが類人猿(チンパンジー・ボノボ・ゴリラなど)に関する観察例に限定されてきました。

類人猿の他にも、腕や翼などの部位を使った動きをする動物が少数ながら知られていますが、それらが実際にジェスチャーとして意味のあるメッセージを伝えているのかは、ほぼ解明されていません。


「どうぞお入りください」相手に行動を促すジェスチャー / Credit: canva

そんな中、東京大学 先端科学技術研究センターの生物学者である鈴木俊貴(すずき・としたか)氏らにより、シジュウカラが特定のメッセージを伝えるジェスチャーを使っていることが発見されました。

鈴木氏は世界で初めて動物が言葉を話すことを突き止め、動物言語学を開拓した著名な研究者です。

鈴木氏によれば、シジュウカラは少なくとも20個以上の単語を持っており、特定の鳴き声で特定の意味を伝え合っているといいます。

今回の調査では、2023年5~6月にかけて長野県北佐久郡の森に巣箱をしかけ、そこで繁殖したシジュウカラのつがい計8組を対象に観察を行いました。


シジュウカラ(学名:Parus minor) / Credit: ja.wikipedia

シジュウカラは一夫一妻の鳥類で、卵がふ化するとオスとメスが協力してヒナを育てます。

シジュウカラは樹洞(樹木に空いた穴)や人間の設置した巣箱を利用して繁殖しますが、それらの入り口は小さいので、2羽が同時に入ることはできません。

この中で、シジュウカラのつがいは巣箱に入る順番を決めるためにジェスチャーを使っていることが見つかったのです。

それは左右の翼を細かくパタパタとふるわせて、パートナーに「お先にどうぞ」とメッセージを伝えるものでした。

実際の映像を見てみましょう。

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実際の映像で「お先にどうぞ」を見てみる

こちらが実際に撮影された「お先にどうぞ」のジェスチャーです。

くちばしにはヒナにやる餌が咥えられています。

調査では8組のつがいが巣箱に戻る様子が延べ321回観察されました。

このとき、つがいの片方が単独で巣箱に戻る際には、何か特別な身ぶりをするシジュウカラはいませんでした。

ところが、つがいの2羽が同時に巣箱に戻ってきたときには、どちらかが翼を小刻みにふるわせる行動を取ることがあったのです。

鈴木氏によると、ジェスチャーはオスメス両方で確認されましたが、メスで56回中24回、オスで33回中2回と、その大部分はメスで見られたといいます。


「お先にどうぞ」のジェスチャーを行うと、もう片方が先に巣箱へ入る / Credit: 東京大学 – シジュウカラはジェスチャーを使う ―翼をパタパタ「お先にどうぞ」―(2024)

メスを例にとって見ると、「お先にどうぞ」のジェスチャーを行った場合、24回中23回でオスが先に巣箱へ入ることがわかりました。

一方で、ジェスチャーをしなかった場合、33回中32回でメスがそのまま先に巣箱へ入ったのです。

またメスがジェスチャーをしないと、オスが巣箱に入るまでに平均で数分かかったのに対し、ジェスチャーをすると、オスは平均10〜15秒で巣箱に入っていました。


メスがジェスチャーをするとほぼ確実にオスが先に巣箱へ入る、ジェスチャーをしないとメスがそのまま先に入る / Credit: 東京大学 – シジュウカラはジェスチャーを使う ―翼をパタパタ「お先にどうぞ」―(2024)

このことからシジュウカラのジェスチャーには、巣箱に入る順番決めの意味だけでなく、つがい相手をスムーズに家に入れる機能もあると考えられます。

そして翼をふるわせるジェスチャーは、つがい相手が巣箱に入ったタイミングで止まりました。

こうしたシジュウカラの一連の動きは、他者(つがい相手)に対して、ある目的のため(巣箱に先に入るよう促す)に用いられ、それを達成すると動きを止めることから、ジェスチャーの定義に当てはまるといいます。

鈴木氏は「鳥の翼が空を飛ぶためだけでなく、ジェスチャーというコミュニケーション機能も持つことがわかった」と話しました。

人間は二本足で立つことができるようになったおかげで両腕が自由になり、ジェスチャーが発達したと考えられています。

他方でシジュウカラも枝に止まっている間、左右の翼は自由です。

これを踏まえて、ジェスチャーはヒトと鳥という遠く離れたグループでそれぞれ独自に進化した可能性があると鈴木氏は指摘しています。

鳥類は脳の小ささに関わらず、非常に賢い生き物です。

シジュウカラの他にも、同様のジェスチャーを使っている鳥類はいるかもしれません。

鈴木氏らは今後、さまざまな動物種を対象に、ジェスチャーとその意味を探る研究が活発化することを期待しています。

鈴木氏による「シジュウカラ語」の詳しい解説はこちらから。

参考文献

シジュウカラはジェスチャーを使う ―翼をパタパタ「お先にどうぞ」―
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20240325.html

These birds appear to be signaling ‘after you’
https://www.popsci.com/environment/birds-signal-wings/

元論文

The ‘after you’ gesture in a bird
https://doi.org/10.1016/j.cub.2024.01.030

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。