イスラエルメディアが自国の攻撃に異議を…パレスチナで民衆が殺されるほど、ハマスはより強大になる…イスラエルが即刻戦争をやめるべき理由

イスラエルはガザを統治できない

ガザの人々の多数がハマスを批判せず、支持し続けていることを考える時、ハマスの越境攻撃以前のイスラエルの占領の実態を知る必要がある。

イスラエルの人権組織ベツェレム(B’Tselem)は、2000年からハマスの越境攻撃前の2023年9月までの、パレスチナ紛争によるすべての死者の氏名と死亡場所、死亡時の状況を集計している。

ベツェレムの集計では、同期間のイスラエル軍によるパレスチナ民間人の殺害数は1万1559人、逆に、パレスチナ人によるイスラエル民間人の殺害数は881人となっている。

第2次インティファーダ期(2000年〜2005年)の6年間と、インティファーダ後(2006年〜2023年9月)に分けてみると、インティファーダ期は、パレスチナ人がイスラエル国内で民間人を殺害する「テロ」による死者数は683人。

一方、イスラエル軍によって殺されたパレスチナ人は3458人。双方の死者数には5倍の開きがある。

そして、インティファーダ後の17年間でパレスチナ側によるテロが激減したためにイスラエル人の死者は93人と急減したのに対して、イスラエル軍によるパレスチナ人の死者は6542人で、死者数の比率は約70倍となった。

インティファーダが終わってパレスチナ人による暴力が急減したにもかかわらず、イスラエル軍による暴力は緩和されない。つまり、パレスチナ人が占領下でおとなしくしていても、イスラエルの占領政策が穏便にはならないことを示している。パレスチナの人々は、この数字を日々、イスラエルによる占領の過酷な現実として生きているのである。

日本では「イスラエルの大規模攻撃によって、ガザのハマス体制が揺らぐ」とか「人々がハマスから離れる」という見方があるが、前述した2024年3月の世論調査では、停戦後の統治に何を望むかという問いについて、ガザ住民の回答は「ハマスが戻る」59%、「自治政府が戻る」33%で、「イスラエルがつくる地域政権」2%、「イスラエル軍支配」0%である。

ガザの人々の「民意」を見る限り、ハマスを排除してイスラエルがガザを支配しても、実効性のある統治になるとは思えない。

世論調査から分かることは、イスラエルの占領や封鎖が続く限り、ガザの人々の多数がハマスから離れることはないということである。ハマスは過去の経験から、指導部を海外に置いている。イスラエルの攻撃で幹部が殺害され、イッズディン・カッサーム軍団の戦闘員の多くが死んでも、海外指導部が残っている限り組織が消えることはない。

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ハマスの影響力はむしろ増していく

イスラエル軍の殺戮と破壊は連日、世界に発信されており、いったん、戦闘が終われば、世界に20億人いるイスラム教徒の間の国際的なネットワークを通して、慈善援助がガザに集まるだろう。

父親を失ったり、家を失ったりした子供たちや家族への支援、病院や貧困家庭への援助はイスラム教徒の義務であり、イスラムの喜捨として、世界のモスクを通して、あるいはパレスチナのハマス系社会慈善団体を通してガザの人々に渡る。

それとは別に、ハマスの政治部門や軍事部門であるカッサーム軍団への資金援助も、膨大な額が集まるだろう。2014年7月から8月に50日間続いたイスラエルの攻撃でガザでは2251人が死に、10万戸近い住宅が被害を受けた。

しかし、その後ロケット・ミサイルの開発や現地生産が加速され、一方で地下に500キロメートル以上の戦闘用トンネルも掘られた。それだけの資金がハマスの軍事部門に集まったということである。

ハマス指導部が公言したように、ハマスは社会組織への援助を流用する必要はないのだ。ただし、政治・軍事部門に集まる資金は民衆を助けるためには使われない。その資金すべてをイスラエルとの「聖戦」のために使うというのが原則だ。それを認めているのが、占領との戦いをハマスに託しているパレスチナ民衆の意識であろう。

激しいイスラエルの攻撃の後も、ハマスがパレスチナ人の多数に支持され、アラブ世界の民衆からの支援、さらに世界のイスラム教徒の支援を受けて、より強大となるという見通しは、多くの日本人にとっては想像もつかないことかもしれない。だが、ハマスとパレスチナ社会、イスラム世界の関係を考えれば不思議なことではない。

2024年のガザは年齢中央値19.5歳の若い社会であり、ガザ戦争で家族や兄弟を殺された子供たちはすぐに銃を持てる若者となり、復讐のためにハマスの戦闘員に志願するだろう。

ハマスは弱体化するどころか、パレスチナ社会での影響力をさらに増すことになると私は見ている。

イスラエルのネタニヤフ首相は「ハマス壊滅」を掲げているが、イスラエル軍の報道官さえ「ハマスの壊滅は不可能」とメディアに発言するようになった。ガザ戦争が終われば、イスラエルの占領と戦わない自治政府を主導するファタハに代わって、ハマスがパレスチナ人の多数の支持を得て、かつて武装闘争をしていた時のPLOのような存在になるだろう。

一方で米国、英独仏の欧州主要国、そして日本も、政府のレベルでは、ハマスを「テロ組織」としている。しかし、ハマスの政治目標は、「イスラエルの破壊」ではなく、パレスチナの民衆が求める「イスラエルの占領終結」である。ハマスを排除する限り、占領下で苦しむパレスチナ人と国際社会の乖離は大きくなる。今後、日本や日本人がパレスチナ問題と関わろうとすれば、ハマスについて知ることから始めるしかない。

写真/Shutterstock