シェア数が多いと怒りを表明したくなる / Credit:Canva
ソーシャルメディアにおける1件の投稿が、人々の強い怒りを集めて、いわゆる「炎上」に繋がることがあります。
最近では、そんな炎上の話題をよく耳にするのではないでしょうか。
そして炎上しやすい話題には、「環境」「政治」「ワクチン接種」「多様性」「ポリコレ」など、人々のモラルに関係するものが多いことに気づかれるかもしれません。
今回、アメリカのノースウェスタン大学(Northwestern University)に所属するカーティス・パーイヤー氏ら研究チームは、ソーシャルメディアと炎上の関係性を調査・分析しました。
その結果、ソーシャルメディアの持つ口コミで拡散する性質が人々の義憤(または道徳的な怒り)を引き起こし易くすると分かりました。
研究の詳細は、2024年付の学術誌『Journal of Personality and Social Psychology』に掲載されました。
目次
ソーシャルメディアを通して生じる「モラルパニック」人々はシェア数が多いとより強い義憤を感じ、攻撃したくなる
ソーシャルメディアを通して生じる「モラルパニック」
多くの人々は、モラルに反する行いに対して怒りを表明してきた / Credit:Canva
モラルパニックとは、「モラルに抵触するような出来事が起こった時に、人々がそのことや特定のグループを苛烈に批判する」ことです。(※モラルパニックの定義については諸説あります)
例えば過去には、マリファナの使用やロックンロール音楽などを脅威と認識し、それらを許容・推進する人やグループに対して、多くの人々が強い怒りを抱き、言動で示しました。
モラルパニックによって暴動が生じることもあるでしょう。
インターネットが普及し、ソーシャルメディアでニュースが扱われたり、個人の投稿が簡単に拡散されたりすると、モラルパニックによる批判や攻撃は、ネット用語の「炎上」という形で表現されるようになりました。
特にソーシャルメディアでは「政治」「環境」「多様性」などの話題で、多くの人がパニックになるほど批判コメントをする場合があります。
ソーシャルメディアを通して生じる「モラルに反する投稿」の炎上 / Credit:Canva
そして誤解や偏見、誇張された認識が広まることで、さらに大規模な炎上へと繋がっていくことがあります。
これはXなどのソーシャルメディアで特に顕著に発生している印象があります。
そこでパーイヤー氏ら研究チームは、どういった場合にソーシャルメディアでモラル・パニックが起きやすいのか調査することにしました。
まず彼らは、「気候変動」「移民」「COVID-19」に関連するX(当時はTwitter)の投稿を分析しました。
その結果、シェア数(リポスト、リツイートなど)が多い「拡散性の高い投稿」は、怒りを含んだリプライを多く集める傾向があると分かりました。
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人々はシェア数が多いとより強い義憤を感じ、攻撃したくなる
最初の実験結果をより詳しく分析するために、チームは1500人の参加者を対象に、一連の実験を行っていきました。
ある実験では、シェア数の違いで個人の反応がどのように異なるか調査しました。
シェア数が多い「モラルに反する投稿」には怒りを表明したくなる / Credit:Canva
特定の政治グループの投稿を参加者に見せ、その投稿のシェア数が多い時(最大1万5000件のリツイート)と少ない時(最大5件のリツイート)で、参加者の「投稿に対する危険度」の評価や、参加者が抱く怒りがどのように変わるか調べたのです。
その結果、研究チームの予測通り、参加者たちはシェア数が多い投稿を「より危険な投稿」だと見なしました。
また、強い怒りを抱き、それを表現したくなると判明。
別の実験では、モラルに反する新たな話題がモラルパニックを引き起こすか調査されました。
研究チームは、イヌがレーザーポインタを追いかけて回転する画像と共に、「このレーザーポインタでイヌをめまい地獄に陥れました。イヌがいろんなものにぶつかり始めるまで待ってください(笑)」というコメントを投稿しました。
炎上しやすい「既存の話題」だけでなく、新たに作り出した「モラルに反する投稿」もシェア数が多いと怒りを引き起こしやすい / Credit:Canva
このケースでも同様にシェア数が多いものと少ないものを参加者がどう判断するか比較しました。
その結果、この新しい話題の投稿に対しても、参加者たちはシェア数が多いものを「危険な投稿」と見なし、怒りを表現したくなりました。
炎上しやすい「既存の話題」だけでなく、新たに作り出した話題も、その拡散性によって人々の強い義憤を生じさせるのです。
さらに別の実験では、シェア数に違いを持たせた「モラルに反する特定の投稿」に対して、参加者が「怒り」「心配」「悲しみ」「肯定」のうち、どのような反応を返すか調べられました。
その結果、参加者はシェア数が多い時に、特に怒りを表明しやすいと分かりました。
またシェア数が多いと、怒りだけなく、悲しみの表明も有意に増加すると判明しました。
ソーシャルメディアの拡散性が「怒りの表明」を促す / Credit:Canva
これら複数の実験の結果が示すのは、「ソーシャルメディアの拡散性が、問題をより深刻に思わせ、モラルパニックを煽り、怒りの表現を増大させる」ということです。
人々は、ある問題が多くの人にシェアされていることを認識することで、義憤にかられ、一層攻撃したくなるのです。
この研究は、ソーシャルメディアにおけるメリットとデメリットを明らかにするものとなりました。
ソーシャルメディアは、これまで闇に葬られ、誰も注目することのなかった問題を、多くの人々に拡散し、解決に導く力があります。
一方で、大きく拡散された事象は、それを目にする人々により強い義憤を生じさせ、それが行き過ぎた「集中攻撃」へと発展させてしまうのです。
また、「シェア」や「いいね」を買い、拡散性を高めることで、人々の印象や行動を操作できることも示唆しています。
とはいえ、ソーシャルメディアが浸透した今の世界では、ソーシャルメディアが持つ拡散性の弊害を無くすことは、ほぼ無理でしょう。
ソーシャルメディアは非常に便利ですが、頻繁に大炎上が発生したり、それに疲れて個人的に距離を置く人がいるのも納得できます。
参考文献
Virality on social media intensifies moral panics, according to new study
https://www.psypost.org/virality-on-social-media-intensifies-moral-panics-according-to-new-study/
元論文
Moral panics on social media are fueled by signals of virality.
https://doi.org/10.1037/pspa0000379
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。