懐かしのヒーローマンガ『ウイングマン』は、TVアニメは広く視聴された一方で、ゲームはパソコン用だったため、当時は子供だったファンには手の届きにくい存在でした。どんな内容だったのか、三部作を振り返ります。
エニックスから発売されたシリーズ第一作のオープニング画面。同社は『Dr.スランプ バブル大作戦』や『北斗の拳』などジャンプ版権のパソコンゲームを何本か出していた
【画像】シリーズ最高傑作との呼び声も高い『ウイングマン2』のアオイを目に焼き付ける!
ウイングガールと会えるギャルゲー感覚?
桂正和先生のデビュー作であるマンガ『ウイングマン』の実写ドラマ化が発表され、「週刊少年ジャンプ」のベテラン読者たちは血湧き肉躍ったことでしょう。1980年代の「ジャンプ」を代表する作品のひとつにしてヒーローマンガの傑作、それが誕生40周年を記念して映像化されるとはうれしい驚きです。
監督、アクション監督を務めるのは、『ウルトラマンジード』『獣電戦隊キョウリュウジャー』『仮面ライダーフォーゼ』と三大ヒーローを手がけた坂本浩一さんです。マンガの実写化にも定評があり、『モブサイコ100』もドラマ、特撮ともに素晴らしかったのですよ。
これまで『ウイングマン』は、アニメ化もゲーム化もされています。TVアニメの『夢戦士ウイングマン』はさておき、「ゲーム化?」と首を傾げている人は少なくないかもしれません。
なぜ広くプレイされなかったかといえば、1980年代に発売されたパソコンゲームだったからです。当時パソコンは、ファミコンよりも普及台数が少なく、また一般的には高価だったため(安いMSXパソコンもありましたが)、やはり手が届きにくかったのですね。子供のジャンプ読者にとって、ゲーム版『ウイングマン』は憧れの存在だったわけです。
そのゲーム版はエニックス(当時)から3本出ており、すべてアドベンチャーゲーム(以下「ADV」)です。これは、プレイヤーの操作する主人公が謎解きをしたり困難を乗り越えたり、様々な体験をするというゲームジャンルで、「美しいグラフィックとかわいいキャラクター」を使いやすく、女性キャラに定評のある『ウイングマン』と相性が良かったのでしょう。
さて、1作目の『ウイングマン』(1984年発売)は、「失われたドリムノートを宿敵『キータクラー』の魔の手に渡らないよう先に探し出す」という、原作とは関係のないオリジナルストーリーです。これらすべてがカタカナで説明されていることに「パソコンで漢字表示はぜいたく品」だった時代を感じます。
ゲーム進行はコマンド入力、つまりキーボードから文字を打ち込みます。「みる」といった動詞+対象となる「つくえのなか」などをカナで入力する、という要領です。こうした方式は、当時のADVではありふれたもので、特に本作だけが面倒くさかったわけではありません。
ただ本作では、ファンクションキーに「トル」「イドウ」「ハナス」などのコマンドが割り振られていました。この、キーを押すだけで一発入力できるというだけのことがどれほど画期的だったか、当時を知る人であればきっと思い出して感涙にむせんでいることでしょう。後に堀井雄二さんが『オホーツクに消ゆ』で導入した、コマンド選択方式の原型ですね。
ゲーム中のBGMはいっさいなく、プレイのほとんどは適切なコマンドや名詞を考える「単語探し」なので、今の感覚だとかったるいかもしれません。が、行く先々で「アオイ」や「美紅」「桃子」らウイングガールズのグラフィックと出会えるのは、早すぎたギャルゲー感覚でもあります。
またADVとしては珍しくアクションパートもあり、「チェイング」と入力すると「キータクラー」と戦えます。画面下の小さなスペース内で、攻撃をしゃがみとジャンプで避けつつ、ファンクションキーに割り振られた攻撃を繰り出すだけ、勝っても負けてもストーリーにまるで影響はありませんが、技術の限界に挑戦した心意気や良し! でしょう。
シリーズ3作目『ウイングマンスペシャル さらば夢戦士』(エニックス、当時)OPより。画面のタッチが前2作とかなり変わっている
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『ウイングマン2』はすぎやまこういちサウンド! 戦闘シーンも全画面に進化
そして2作目の『ウイングマン2 キータクラーの復活』(1986年発売)は、シリーズ3作の頂点といえる佳作です。ストーリーはキータクラー撃破後、「帝王リメル」から送り込まれた刺客を探すというもので、前作の続編となっています。
なにしろ本作は、故 すぎやまこういち先生のゲーム音楽デビュー作です。当時エニックスから発売された『森田将棋』にハマったすぎやま先生がアンケート葉書を送り、それを見た千田幸信さん(「ドラゴンクエスト」シリーズ第7作までのプロデューサー)から電話が掛かってきて……というエピソードは有名です。
勇者、もといヒーローの旅立ちを思わせるオープニング、心地いいコーヒータイム、そしてエンディングの数曲ですが、いずれも聞けば「すぎやまサウンドだ!」と分かることでしょう。ちなみに、ゲーム中で「リロ」に楽譜を見せると「すぎやまこういちせんせいがつくったきょくですのね」と内輪ネタもあります。
今作ではグラフィックも洗練されて、桂正和先生の絵柄に近づきました。肌色もかなり多めであり、ゲーム進行上も「とる」「せいふく」や「みずぎ」といった入力が必要になるなど、セクハラ成分マシマシです。
さらに食堂やテニスコートなど8か所の場所が「どこに、どのキャラがいるか」込みで表示され、無駄足を踏まずに済むようになっています。
そしてコマンド入力方式も進化し、カーソルで画面上にあるモノを直接指定できるようになりました。今では「それ、当たり前じゃね?」という要素ばかりですが、当時のADVとしては画期的だったのです。
好評だった戦闘シーンも、全画面で迫力あるもの(当時比)となりました。ウイングマンも敵も空間を飛び回り、まるで後の『サイキックフォース』(タイトー、1996年)のようです。なにより、トドメに必殺技「デルタエンド」を使えるのがポイント高いのです。また、聞き逃しそうですが、音声合成で「チェイング」と喋っている(一瞬だけ)のも、当時としては超頑張っていました。
3部作のフィナーレを飾る『ウイングマンスペシャル さらば夢戦士』(1987年発売)は、ザックリいえば「帝王ライエルを倒す」ということで原作のタイムラインにも沿っていますが、ウイングガールの面々とたわむれるシーンが多く、番外編の色が濃くはあります。
また、グラフィックは前作までのセル画的なタッチからイラスト風のこってりした感じとなり、人によっては好みが分かれるでしょう。戦闘シーンも、2作目の全画面から1作目の狭い表示領域に限られる方式へ逆戻りしており、ちょっと残念な仕上がりとなっています。
これ以降、『ウイングマン』のゲームは登場していません。原作が1983年から1985年、TVアニメが1984年から1985年だったため、ファミコン(1983年発売)以降のゲーム機とは縁が薄かったようです。今回の実写化をきっかけに、Nintendo SwitchやPlayStation 5など現行ゲーム機向けのゲーム化も実現することを期待したいところです。