「ACLってなぜか人生の節目にある」川崎・鬼木達監督が語るアジアとの戦い。前大会の横浜とアル・アインの決勝に感じたこと【インタビュー5】

 9月18日のアウェー・蔚山戦で幕を開けるACLエリートがいよいよ迫って来た。新フォーマットに変わり、川崎にとっても未知の戦いとなりそうな今大会。「ACLってなぜか人生の節目にある」と語る鬼木達監督は、どんな心境でいるのか。スペシャルインタビューの最終回である。

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 今年5月に開催されたACL2023-2024の決勝。横浜がUAEのアル・アインと対戦したゲームを鬼木監督も見守っていた。

 もしかしたら自分たちがここにいたのかもしれない。そんなちょっとした悔しさも頭の片隅に置きながら、それでもアウェーの第2戦で横浜を1-5で破ったアル・アインの力強さに驚きを感じていたという。第1戦は横浜がホームで2-1で制していたが、敵地・UAEでの試合内容は、横浜が退場者を出したこともあって大きく異なった。

「アル・アインの助っ人選手たちの力強さが際立っていましたよね。ああいう舞台になると、あれだけ力の持った選手たちがあれだけのパフォーマンスを示すんだなと。(前半のうちに)マリノスがひとり減りましたが、アル・アインは慌てていなかった。そこもさすがだなと。やっぱりああいうゲームって数的有利になっても、一発を食らうかもしれないと、少しひるんでしまうことがある。人数が多いチームが攻めあぐねる状況ってよくあるじゃないですか。でも、アル・アインは慌てずに圧力をかけていた。力のあるチームだなと感じましたね」
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 今回のACLエリートは東地区、西地区に分かれ、各12チームが、それぞれ8クラブと1試合ずつ戦い(ホーム4試合、アウェー4試合)、各地区上位8クラブがラウンド16に進む。そのラウンド16はホーム&アウェーの2試合合計スコアで争い、準々決勝から決勝は東地区と西地区が合わさったトーナメント戦で、2025年4月25日から5月4日までサウジアラビアで集中開催される予定だ。

 これまで東地区と西地区のクラブは決勝でしか対戦しなかったが、今大会からは頂点まで、資金面で潤沢な中東勢らと3度、対戦する可能性があるわけだ。東地区のチームとしてはハードルが上がったと言っていい。

 それでも川崎にはアル・ヒラルでACL制覇の経験のあるバフェティンビ・ゴミスや、今季加入のエリソンといった前線にパワーを加えられるタレントもいる。今大会から外国人枠は撤廃されているため(選手の登録枠は25人)、起用法も広がるかもしれない。

「(助っ人たちを並べる)そういう戦い方もありかなとも思っています。そういう発想は臨機応変にやりたいですね。試合を行なうピッチの状況、その時の選手たちの調子、相手との相性など、すべてを考え、ベストなメンバーで臨みたいと考えています。明らかに相手が嫌がりそうな戦い方があった場合は、それを選択しますし、勝つための最善の策が何かっていうところから逆算したいですね」
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 改めてACL制覇はクラブにとって、そして鬼木監督にとっての悲願である。

 今大会もシーズンをまたがり、グループステージの第7戦、8戦は来年2月に開催される。その意味では来季に向けたチーム編成は難しいところで、周囲の人たちは何より指揮官の去就も気に掛けているだろう。それでも先のことは今考えても仕方がない、変わらずに一歩ずつ進むというのが、鬼木監督のスタンスだ。

「この大会を勝ち抜いても、すぐにクラブワールドカップに出場できるわけではないので(優勝賞金は従来より増えているが、クラブW杯出場権は2029年大会のものとなる)、すべての人にとって難しい面はありますよね。僕を含めたコーチやスタッフ、今の選手だって、その時クラブにいるか分からない。その意味では複雑な大会になった印象はあります。でも僕の中でアジアを獲りたいという想いは変わらないし、少なくともサポーターとクラブスタッフをクラブワールドカップに届けられるので頑張りたい。

 僕も目の前の一戦一戦に全力で臨むだけです。

 やるべきことをやり続けるだけですし、監督とはそういう世界。先ほどのリーグ戦の話しでも、勝ってないからすべてが駄目なわけではないですし、逆に勝っている時でも、このままでいいのかなって悩んでいた時なんていっぱいある。そこは自分にしか分からない部分もあるでしょうし、結果は出てないけど、今凄く選手が伸びているなと手応えを感じている時もある。ただ、ここで結果を残さないと、順位的な面で選手がプレッシャーを感じ、伸びにくくなってしまうと焦りを感じる時もあります。

 だから監督って苦しくない時はないんですよ。上にいれば上にいたで、毎回勝ち続けるためのプレッシャーがある。それが普通なんだろうなと。逆にどの試合にもプレッシャーを感じなくなってしまった時こそ、熱量が足りなくなってしまった瞬間だと思うんです。だから僕はいつも熱量を持って、選手、周りの人を信じ、進んでいくだけです」
 インタビューの終盤、鬼木監督は17年の浦和戦を含め、「ACLってなぜか人生の節目にあるんですよね」としみじみ語っていたのも印象深い。

 鬼木監督にとっては7回目のアジアの挑戦。リーグ戦、ベスト4に勝ち上がっているルヴァンカップとの並行にもなるが、“鬼木フロンターレ”の熱い戦いをぜひとも目に焼き付けたい。

■プロフィール
おにき・とおる/74年4月20日生まれ、千葉県出身。現役時代は鹿島や川崎でボランチとして活躍。17年に川崎の監督に就任すると悲願のリーグ制覇を達成。その後も数々のタイトルをもたらした。“オニさん”の愛称で親しまれる。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

※ACLの新フォーマット
 2024-25シーズンからAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)、AFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)、AFCチャレンジリーグ(ACGL)の3つのレベルの大会に再編。

 ACLEはこれまでより少ない24クラブの出場で、グループステージは東地区、西地区それぞれ12チームに分かれ、8クラブと1試合ずつ対戦(ホーム4試合、アウェー4試合)。各地区上位8クラブがラウンド16(東地区の1位対8位など各地区内の順位によって対戦相手が決定)に進出し、ホーム&アウェーの2試合合計スコアで勝利したクラブが準々決勝へ。準々決勝から決勝は東地区と西地区が合わさったトーナメント戦で、2025年4月25日から5月4日までサウジアラビアで集中開催される予定。
 
 優勝クラブは賞金1000万ドル(約14億6000万円)に加え、4年に1回開催されるFIFAクラブワールドカップ(2029年大会)の出場権を獲得する。
 
 川崎はグループステージで蔚山(韓国/アウェー)、光州(韓国/ホーム)、上海申花(中国/アウェー)、上海海港(中国/ホーム)、ブリーラム(タイ/アウェー)、山東(中国/ホーム)、浦項(韓国/アウェー)、セントラルコースト(オーストラリア/ホーム)と対戦する。