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煌々と光り輝く都会の夜を指して「百万ドルの夜景」などと形容することがあります。

出張や旅行で都会を訪れた際には「こんなキラキラした世界に住めたらなぁ」と憧れることがあるかもしれません。

しかし意外にも「百万ドルの夜景」は私たちの脳を蝕む危険性があるようです。

米RUSHユニバーシティ・メディカル・センターは最近、屋外の光害レベルが高い地域に住んでいる人ほど、アルツハイマー病の有病率が高くなっていることを発見しました。

研究の詳細は2024年9月6日付で科学雑誌『Frontiers in Neuroscience』に掲載されています。

 

目次

都会の夜は「体内時計」を狂わせる?夜が明るい地域ほど、アルツハイマー病が増加!

都会の夜は「体内時計」を狂わせる?

夜間の人工照明は、利便性と安全性を提供する都市生活のシンボルとなっています。

特に大都会では何千もの電灯が夜を通して煌々と光り輝き、真昼さながらの明るさを作り出しています。

人工照明は確かに便利である反面、夜間に強い光を浴びすぎると、1日24時間周期で繰り返す「概日リズム(体内時計)」が狂ってしまうことが以前から指摘されてきました。

概日リズムの乱れは肥満や不安症、うつ病、さらには心臓病の発症リスクを高める原因です。


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特に概日リズムの乱れは最初に睡眠のサイクルを乱すことで、脳の神経変性(細胞が徐々に失われること)を引き起こし、次第に認知機能の低下を招くのです。

それが生活習慣の乱れにつながり、肥満やうつ病の発症に関係していると考えられています。

これは「寝るときには電気も消して、カーテンも閉めているから問題ないだろう」という話ではありません。

例えば、寝る前にスマホやパソコンのブルーライトを浴びることが睡眠の質を低下させるように、本来は外が暗くなっているはずの時間帯に明るい都会の街を歩いたりすることが、脳の覚醒を促して、その後の睡眠サイクルまでも狂わしてしまうからです。

概日リズムは1日を通して地続きにつながっているので、寝るタイミングで急に部屋を暗くしたからといって、正常な睡眠サイクルに戻るわけではありません。

夜が明るすぎると「アルツハイマー病」になりやすいのか?

そして研究チームが関心を寄せているのは「夜間の過度な明るさがアルツハイマー病の発症につながっているのか?」という問題でした。

アルツハイマー病は脳の神経変性疾患の一つであり、記憶力や思考能力がゆっくりと失われ、最終的には日常生活の単純な作業も自力ではできなくなる病気です。


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夜間の過度な明るさが概日リズムの乱れを招き、概日リズムの乱れが脳の神経変性を引き起こすのであれば、アルツハイマー病の発症リスクが高くなっても不思議ではありません。

実際に中国とイタリアで行われた先行研究では、夜間に高レベルの屋外光にさらされていた人口集団は認知症の有病率が有意に高いことが示されていました。

ただ夜間の屋外光とアルツハイマー病との関係性についてはまだ明らかになっていません。

そこでチームはこの問題を新たに検証することにしました。

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夜が明るい地域ほど、アルツハイマー病が増加!

本調査では2012年〜2018年にかけて収集されたデータを対象に、アメリカ全土の「光害レベル」と「アルツハイマー病の有病率」との関係性を分析しました。

光害レベルについては人工衛星で記録された夜間の光強度をアメリカ全土の州レベルと郡レベルを含めて調査。

アルツハイマー病の有病率に関しては、アメリカ在住の人々の慢性疾患の有病率を追跡しているデータバンク(Centers for Medicare and Medicaid Services :CMS)から収集しました。

また年齢・性別・人種・糖尿病・高血圧・心疾患・肥満など、アルツハイマー病の発症率に影響を及ぼす可能性のある他の因子も考慮しています。

これらの因子を調整した後に、夜間の光害レベルが高い地域と低い地域を比較して、アルツハイマー病の有病率がどう違うかを調べました。


A:アルツハイマー病の有病率、B:光害の高さ、C:光害ランク(オレンジ色ほど強い)、DE:光害レベルが高いほどアルツハイマー病の有病率も高くなることを示したグラフ / Credit: Robin M. Voigt et al., Frontiers in Neuroscience(2024)

その結果、夜間の光害レベルが高い地域ほど、住民のアルツハイマー病の有病率が高くなっているという明確なパターンが見つかったのです。

夜間の人工照明のレベルが高い州や郡は一貫してアルツハイマー病の発症率が高く、反対に夜間の人工照明のレベルが低い農村部などはアルツハイマー病にかかる人が少なくなっていました。

特に興味深かったのは、アルツハイマー病の発症リスクが低いとされる年齢層でこの関連性が観察されたことでした。

アルツハイマー病は一般に65歳以上の高齢者が発症しやすい病気ですが、夜間の光害レベルが高い地域では65歳未満の人においてもアルツハイマー病の発症リスクの有意な増加が見られたのです。

これについて研究者は、都会に住んでいる人々は働き盛りの若年層〜中年層が多いため、夜間の高い光害レベルにさらされやすいのは65歳未満の人が多かったことが要因だろうと述べています。

「百万ドルの夜景」に憧れるのはやめた方がいい?


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今回の調査結果は、アルツハイマー病の発症に影響するとされる他の因子を調整した後でも堅固に見られたことから、「光害レベル」と「アルツハイマー病」には確かな関連性があるようです。

しかし現時点ではまだ両者の相関関係を指し示しただけであり、夜間の明るさがどのようにしてアルツハイマー病を引き起こすかという詳細なプロセス(因果関係)までは明らかにされていません。

またチームは大気汚染や騒音、屋内光など、都市生活に関連する他の環境因子も含めて、アルツハイマー病との関連性を改めて調べる必要があると話しています。

ただ年を重ねても健康的に暮らしたいなら、「百万ドルの夜景を毎日眺められるような場所に住みたい」と思うのはやめた方がいいかもしれません。

参考文献

Exposure to light pollution at night may increase Alzheimer’s risk, especially in younger people
https://www.psypost.org/exposure-to-light-pollution-at-night-may-increase-alzheimers-risk-especially-in-younger-people/

元論文

Outdoor nighttime light exposure (light pollution) is associated with Alzheimer’s disease
https://doi.org/10.3389/fnins.2024.1378498

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部