半分オスで半分メス、半分ブルーで半分オレンジの「奇跡のロブスター」が見つかる! / Credit: jacob__knowles/TikTok
半分オレンジで半分ブルー、半分メスで半分オス。
あしゅら男爵さながらの奇跡のロブスターが発見されました。
一般的にロブスターは赤茶けたオレンジ色をしていますが、ブルーの個体は200万匹に1匹、さらにツートンカラーの個体は5000万匹に1匹の確率で現れると推定されています。
今回のロブスターはツートンカラーに加えて、体の左右で性別が異なる「雌雄モザイク(gynandromorph)」であることから、輪をかけて珍しい存在であるようです。
目次
奇跡のロブスター!名前は偉大なミュージシャンから命名「雌雄モザイク」が起こる仕組みとは
奇跡のロブスター!名前は偉大なミュージシャンから命名
この超希少なロブスターは11月中旬に、アメリカ北東部メイン州でロブスター漁を営む地元漁師によって捕獲されました。
そしてその友人であり、同じく地元でロブスター漁をするジェイコブ・ノウルズ(Jacob Knowles)氏が連絡を受け、自身のInstagramやTikTok、YouTubeチャンネルで公開したことで、瞬く間に話題を集めています。
ノウルズ氏は、YouTubeチャンネルで140万人の登録者がいる人気のインフルエンサーです。
彼は「本当にたまげたよ!港の仲間にも話したけど、誰もこんなロブスターは見たことがなかったんだ」と興奮気味に話しています。
それもそのはず、このロブスターは5000万分の1の確率で現れるツートンカラーであっただけでなく、体の左右で性別が異なる「雌雄モザイク」でもあったのです。
ノウルズ氏によると、右半身が典型的なオレンジ色で性別はメス、左半身が珍しいブルー色で性別はオスだという。
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「今まで見た中で一番クールなロブスターだよ。メイン湾でも最も珍しいロブスターだろう」とノウルズ氏は話しています。
また彼はフォロワーたちにロブスターの名前を募集し、候補の中から投票した結果、偉大なロックミュージシャンであるデヴィッド・ボウイに因んで「ボウイ(Bowie)」と命名しました。
デヴィッド・ボウイは右目がブルーで左目がブラウンという「オッドアイ」の持ち主であったり、性別を超えたジェンダーレスな服装やメイクの先駆者であり、それを踏まえた上でも納得の結果となったようです。
では科学的な疑問として、どうして雌雄モザイクは起こるのでしょうか?
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「雌雄モザイク」が起こる仕組みとは
雌雄モザイク(gynandromorph)とは、1つの生物個体の中でオスとメスの特徴が明らかな境界を持って混在している状態のことを指します。
これまでに蝶やナナフシ、クワガタなどの昆虫、ニワトリやクジャク、ムネアカイカルなどの鳥類で確認されており、大抵は体の正中線を境に片方がメス、もう片方がオスとなっています。
雌雄モザイクのタテハチョウ / Credit: en.wikipedia
では、どうして雌雄モザイクは起こるのでしょうか?
生き物の細胞内にある核には、体の設計図であるDNAを保管する「染色体」が含まれています。
その中で、オスメスの性別を決めるための情報を含んでいるのが「性染色体」です。
例えば、ヒトにはX染色体とY染色体の組み合わせで性別が決まり、XXなら女性、XYなら男性となります。
ところが受精卵の発生過程で、性染色体に異常が起きてしまうと雌雄モザイクとなる可能性があります。
特に昆虫や甲殻類では、受精卵が最初に分裂して2個の細胞になったときに、それぞれが体の右側か左側になることが決定されるので、性染色体が異常を起こしたまま発生を続けると「雌雄モザイク」が起きやすくなるのです。
(ちなみにヒトを含む哺乳類では、発生初期の細胞が体のどの部位になるかは決まっておらず、分裂を繰り返す中で徐々に決定されるので、そもそも雌雄モザイクは起きないという)
蝶を例にとってみましょう。
蝶の受精卵(正確には接合子という)が最初に分裂して2つの細胞ができると、片方は右半身、もう片方は左半身となります。
その後につづく細胞分裂では、分裂する前の細胞に含まれているDNA情報がまったく同じようにコピーされていきます。
そこで初っ端の分裂で性染色体に異常が起きていると、間違った情報のままコピーが続いていきます。
蝶の性染色体はZとWで、普通はZZでオス、ZWでメスとなりますが、これが1つの個体の中で一致せずに、最初の細胞分裂で片方の細胞がオス、片方の細胞がメスというコピーミスが生じると、そのまま半分オス、半分メスの蝶が生まれてしまうのです。
奇跡のロブスター「ボウイ」 / Credit: Jacob Knowles – Race Against Time: Rescuing One of the Rarest Lobsters in the World (Bowie The Lobster)(youtube, 2023)
これと同じ現象が奇跡のロブスター「ボウイ」にも起こったのでしょう。
一方で、体色がツートンカラーになる明確な原因は分かっておらず、遺伝子の突然変異が関係していると見られます。
ボウイは今も元気に暮らしてます
ボウイはその後、港に持ち帰られ、専用の水槽の中で暮らしているといいます。
水槽内の環境にもすっかり慣れて、餌のニシンも元気にむしゃむしゃと食べているそう。
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今後は地元の水族館に寄贈されることも考えられています。
また専門家の話では、メスの生殖器を持つボウイはオスと交尾して産卵することも可能ではないかという。
今後、ボウイはどのような人生を送っていくのでしょうか?
参考文献
Meet Bowie, The Super Rare Half-Male, Half-Female, Half-Blue, Half-Orange Lobster
https://www.iflscience.com/meet-bowie-the-super-rare-half-male-half-female-half-blue-half-orange-lobster-71827
Bowie the lobster is half-blue, half-red, and all kinds of rare
https://www.npr.org/2023/11/27/1214920172/bowie-lobster-half-blue-half-red-rare
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部