モータースポーツ界では最近、環境に優しい燃料を使うことで二酸化炭素排出量を減らすという動きが盛んである。そしてこの動きに伴って生まれた議論のひとつが、「大排気量エンジンの復活」だ。
エンジンに関する近年の潮流としては、高効率でコンパクトなエンジンに置き換える“ダウンサイジング”が主流であり、そのパワー不足を補うような形でターボが取り付けられるケースが多い。例えばF1は1.6LのV6ターボエンジンでハイブリッド、スーパーGTやスーパーフォーミュラは2L直4ターボエンジンだ。
このようにエンジンの小型化が進んだことで、かつてのV8エンジン、V10エンジンが奏でる爆音を惜しむ声も多い。しかし、カーボンニュートラル燃料が軌道に乗り、しっかりとした形で環境負荷を下げられることになれば、大排気量エンジンに回帰することもひとつの選択肢なのではという声もある。
実際、F1のステファノ・ドメニカリCEOは、「もし持続可能燃料が機能するのであれば、我々はハイブリッド(技術)を継続するのか、それともより優れたソリューションが利用できるようになるのか、慎重に評価する必要がある」とコメントしており、エンジンに関する考え方を変える可能性があることを示唆している。
またスーパーフォーミュラにおいても、JRPの近藤真彦会長が「本当に色々なことを考えています。ターボ(エンジン)じゃないだろうな、といった話も出ていたり……」と明かすなど、ダウンサイジング+ターボという方向から転換すべきという声がないわけではないことをほのめかしていた。
では、スーパーフォーミュラに参戦するチームは、このテーマをどのように捉えているのか? いくつかのチームの首脳陣に聞いた。
まずTGM Grand Prixの池田和広代表は、あくまで個人的な意見と前置きしつつも、V10のサウンドはレースの“お祭り感”を演出するもので、必要なものだと語った。
「みんなが見たいレースは何かと考えると、昔のF1のような痺れるV10サウンドですよね。それをやるべきだと思います」
「V8もいいですけど、個人的にはV10ですね。F1がこうだから、というのは日本にありがちですが、そうなるとみんな後追いです。でも島国のモータースポーツなので、F1ではできないような方向に振ってもいいと思います」
「サーキットにいるお客さんも、レース展開を見ていない人も多いです。ではその方たちが何を見ているかというと、雰囲気なんですよね。迫力のある非日常の音を聞いてビールを飲む……それでいいんですよ。レースファンが何を望んでいるのか、レースが好きではない人たちに対しては何が大事かというと、お祭りの雰囲気を作ることが大事だと思います」
「V10サウンドはモータースポーツファンなら確実に痺れるわけです。ならば1回やってみてもいいのではないかと思います。エンターテインメントと環境対策を両立させることはできると思います」
一方、VANTELIN TEAM TOM’Sの山田淳テクニカルディレクターに尋ねると「それは難しい話ですね」と一言。自動車メーカーがこれまでダウンサイジングに取り組んできたことを考えると、急に方向転換することは考えづらいと指摘した。
「燃料がカーボンニュートラル燃料になったからといって、エンジンをビッグサイズに戻すかと言われたら、それはしないと思います。何のために今までやってきたんだろうという、ところが引っかかってきてしまうので、純粋なレーシングエンジンに着手するとは思えないんですよね」
「では市販エンジンベースは……と考えた場合に、今はベースとなるエンジンがないですよね。チームとしては、今あるものでいかに速く走らせるかというのがレースの意義なので、どちらでも構いませんけどね」
またTEAM MUGENの田中洋克監督は、“エンジン畑”出身の技術者。かつてはホンダF1第2期のV10エンジンの開発も担ったことがあるという。ただそんな田中監督も、コメントするのが難しいといった表情を浮かべていたが、ファンの目線と関係者の目線は異なっているのかもしれないと指摘した。
「ファン目線と僕たちの目線って、相当違うのだと思います」
「正直言うと、チームとすると供給されたエンジンでイコールコンディションで戦うので、気筒数には拘りません。ただファンの方からすると気筒数の多いエンジンの方が音的にも魅力ですし、見た目もメカメカしさが出てるので、そういうところを求めているのかなと思いますね」