ポジティブな言葉が爽やかなイメージを醸成する
④ネガティブな感情は見せない
演説の最中、進次郎氏は一瞬たりとも怒りや不満といったネガティブな感情は見せず、特に他者(他党、対立候補)の悪口に繋がる内容は決して口にしなかった。しかも、ただポジティブな言葉を並べるのではなく、ポジティブに振る舞えるような演説の構成を始めから用意していた。
例えば公約の目玉である選択的夫婦別姓導入は、まさに自民党が長年にわたって実現を阻んできた政策だ。詳しく説明すればするほど、応援弁士として参加した菅義偉元総理を始め自民党の歴代内閣への批判に繋がりかねない。そのような諸刃の剣と言える公約を演説ではどのように話したのか。該当部分を以下に抜粋する。
進次郎氏:2つ目にやりたいこと。一人一人の人生の選択肢を増やしたい。私は、長年議論ばかりが続いて、答えを出さずに決着をつけられていない問題を片付けたい。だから選択的夫婦別姓という自民党の中で賛否が割れている問題も、私は国民の皆さんに問いたいと思いました。
「みんなが別姓じゃなければいけない」と言われたら、反対という気持ちは分かります。しかし、特に女性が仕事の面でさまざまな不便、さまざまな負担、そして子供の頃に親から付けてもらった名前を守りたい、選びたい。この「選びたい」という気持ちに対して新たな選択肢を日本の社会が持つことが本当に世の中にとって悪いことなんでしょうか。
私は選べる選択肢を増やしたい。そのために30年間議論を続けたことに答えを出していきます。そして、一人一人、人生はさまざまです。さまざまな人生にささまざまな選択肢を用意する。そんな政治、そんな社会を私はつくりたい。
自民党が実質的に導入を阻んできた経緯については「長年議論ばかりが続いて」「決着をつけられていない」「自民党の中で賛否が割れている」と問題を矮小化して簡単に紹介。その一方、今後については「選択肢を増やす」「答えを出す」とやや抽象的ながらもポジティブな言葉を並べている。
進次郎氏は他の公約でも問題を放置してきた歴代内閣への批判に繋がりかねない場合は経緯説明を矮小化もしくは省略し、今後のきらびやかなイメージの説明に時間を割く傾向がある。このような構成の工夫によって、自然とポジティブな言葉が多くなり、爽やかなイメージの醸成にも繋げているのだろう。
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ただの世襲議員ではなかった進次郎氏の本当の危険性
当日の街頭演説では他にも印象的な場面があった。街頭演説会は16時開始だったものの約1時間前から聴衆が集まり始めていたため、いわゆる前座として自民党の地方議員たちが次々とスピーチ。その地方議員の多くが、「進次郎さんは自分の顔と名前をすぐに覚えてくれた」「次に会ったときには進次郎さんが自ら声をかけてくれた」という類のエピソードを披露したのだ。
そして、その後の本人の演説ではこれらが紛れもない事実であろうと聴衆に確信させる場面が冒頭にあった。該当部分を以下に抜粋する。
進次郎氏:今日はこんなに暑い日にもかかわらず駅前に大勢の皆さん、今まで見たことがないほど大勢の皆さんにお集まり頂きまして本当にありがとうございます。
最前列の皆さん、お顔を見ると、(以降、一人ずつ本人がいる方向を手で指しながら)私の小学校の同級生。子供を連れてきてくれてありがとう! そして、三浦からラーメン屋さん。横須賀からパン屋さん、幼稚園の先生。
本当に多くの皆さんが、私の総裁選立候補に当たり、地元の横須賀市、お世話になっている選挙区の三浦市、そして神奈川県内の隅々、もしかしたら県外からも大勢の皆さんが集まってくれて、私は今ここに立っています。
大前提として最前列は進次郎氏の後援会が優先的に案内されたエリアのため、知り合いの顔を見つけやすかったという事情はあるだろう。それにしても進次郎氏が人の顔を覚えることや、一度覚えたら愛想よく振る舞うことをかなり意識的に行なっていることがうかがえる。
先ほどの演説内容のポイント4点も踏まえると、進次郎氏は「血筋と容姿に恵まれただけで中身を伴わない世襲議員」ではなかった。正しくは、「中身は全く伴わないものの、演説や人心掌握術だけには非常に長けた政治家」と筆者は考える。
その一方、今回の出馬会見では突如として公約として憲法改正や解雇規制見直しも宣言した。一見すると爽やかで人気は高いが、場合によっては日本を壊しかねない政策を平気で採り入れてしまう恐れがあるという点で、一般国民にとっては非常に危険な人物ともいえるのではないか。
文/犬飼淳