『戦闘メカ ザブングル』に登場するロボットは、人型なのに車のようなハンドルとペダル、レバーで操縦されます。そこには舞台となる「惑星ゾラ」の特殊な事情と、原作者のひとり富野由悠季氏の深謀遠慮があったのです。



主人公「ジロン・アモス」と「ザブングル」。「HI-METAL R ザブングル 40th Anniv.」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

【画像】こちらが思った以上にシンプルだったウォーカーマシンのコクピットです(4枚)

西部劇のような荒野にリアルな人型メカ

『戦闘メカ ザブングル』は、『機動戦士ガンダム』の富野由悠季氏が手がけ、同作から3年後の1982年に放映されたTVアニメです。

 ロボットアニメに西部劇のテイストが取り入れられており、荒れ果てた「惑星ゾラ」で運用される人型メカ「ウォーカーマシン」は、自動車のようなハンドルやペダルとレバーで操縦されています。そのため、当時から「車を動かすような操作系で、複雑な人型メカを動かせるのか?」という疑問が提示されてきました。

 ウォーカーマシンは、現代でいう車や重機のような扱いです。乗り込んで旅をする者がいれば、力仕事などの作業に使う者もいます。そして、喧嘩ともなれば鋼鉄の腕や内蔵銃器で派手にやり合い、戦闘中に動かなくなれば乗り捨てられてしまう……といったように、多用途に使われているのです。

 そのコックピットには、自動車のようなハンドルとペダル、レバーが備え付けられています。このシンプルな機器で、2本の手足を持つウォーカーマシンを操縦できるのはなぜなのでしょうか。

 その答えは、アニメ本編の第1話「命をかけて生きてます」の冒頭で提示されていました。

 ここでは「ブレーカー(荒事をこなす人びと)」が敵ウォーカーマシンを襲撃しています。彼らはウォーカーマシンを倒すと「コンピューター・コア」なる部品だけを抜き取り、機体には目もくれずに引き上げるのです。

 つまり、盗品に需要がある程度には、コンピューター・コアは他機種への移植や換装ができるということで、現在では考えられないほどに標準化が進んだ状況が垣間見えます。

 そうした「高度な部品」を使った上で、操縦が無数のモード切り替えから成り立っているとすれば、ハンドルやペダルでも操作は可能でしょう。

 つまり、同じ「ハンドルを回す」動作ひとつとっても、モードによって「進行方向の変更」「重心の移動」「荷物を持ち上げたり、岩を掘る際に対象に狙いを付ける」など、異なった動作をし、実際に各部を稼働させたり、姿勢の制御を行うのがコンピューター・コアである……という仮定です。戦闘シーンで頻繁に見られたレバーやペダルの操作は、このモード切り替えだったのではないでしょうか。

 事実、21世紀の我々は、すでにコンピューターの補助を受けつつ「人型メカ」を操作しています。



セガサターンとそのコントローラー。『ガングリフォン』の人型メカはこのデジタルパッド+8ボタンで操作する

(広告の後にも続きます)

ウォーカーマシンの操作には不便があっても想定内?

 その実例とは、ロボットゲームです。

 例えば『ガングリフォン ~ザ ユーラシアンコンフリクト~』(ゲームアーツ、1996年)では、「デジタルパッド(方向キー)+8ボタン」、『アーマードコアVI』(フロム・ソフトウェア、2023年)では「アナログスティック2本+デジタルパッド+4トリガー+4ボタン」で人型メカを操作しています。これはゲーム機のコントローラーに合わせて人型メカの操縦をデザインした例です。より高度なコンピューターがあれば、ハンドルやペダル、レバーで操作するようにインターフェースを組むこと自体は可能でしょう。

 とはいえ、ハンドルやペダルでの操縦には不便もあるかも知れません。普通の商品なら、もっと便利な方法にシェアを奪われる可能性もあります。

 しかし、ウォーカーマシンは市場を争い合う商品ではなく、惑星ゾラの支配階級である「イノセント」が、被支配階級である「シビリアン」たちに与える品です。イノセントはシビリアンの間に争乱を巻き起こすなど、社会実験を進めています。不便さからトラブルが起こり、自分たちへの依存が強まるなら、かえって好都合と考えるでしょう。

 特筆すべきは、こうした疑問への回答が早期からなされていたことです。

 富野氏は企画の最初期段階で「西部劇にするなら舞台は荒野だし、時代は地球が破滅した後。そうした状況にロボットを出すなら、二本脚を動かすコンピューターシステムはシビリアンに与えられているだろう」と設定しています(日本サンライズ刊「戦闘メカ ザブングル 記録全集 1」より)。

 つまり、筆者を含めて、そうしたツッコミをした人びとはみんな、富野御大の掌の上で踊らされていたということなのです。