アニメ『機動戦士Zガンダム』に登場する「サイコ・ガンダム」や、その後の継機である「サイコ・ガンダムMk-II」は、作中で運用されるほかの機体と比べると倍以上の大きさでした。なぜそれほど大きくなったのでしょうか。



もとはZガンダムの初期デザインのひとつだったという。「HGUC 1/144 サイコガンダム」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

【画像】「え…?」機体のサイズも影響力もデカすぎる! こちらが「サイコ・ガンダム」やその関連機体です(9枚)

戦場でも大は小を兼ねる?

 アニメ『機動戦士Zガンダム』に登場する「サイコ・ガンダム」や、後継機である「サイコ・ガンダムMk-II」は、通常のモビルスーツ(MS)と比べると倍以上のサイズで、作中で圧倒的な力を見せつけました。巨大な機体では的になりやすいという致命的なデメリットがあるなか、なぜ大きく設計されたのでしょうか。

 サイコ・ガンダムおよび後継機のサイコ・ガンダムMk-IIは、地球連邦軍のニュータイプ研究機関「ムラサメ研究所」で開発された機体です。サイコ・ガンダムはMS形態で全高40m、「モビルフォートレス」とも呼ばれる移動用のモビルアーマー(MA)形態では全高30.2mというサイズです。同じくサイコ・ガンダムMk-IIも全高40.74mかつ、MA形態が全高33.53mと似たような大きさになります。

 同じ時代に反地球連邦組織「エゥーゴ」の主力機として運用された「ガンダムMk-II」の全高18.5mや、地球連邦軍の最大軍閥「ティターンズ」で扱っていた「ハイザック」の全高20.5mという一般的なMSのサイズからすると、サイコ・ガンダムが圧倒的な大きさを誇っていたことはいうまでもありません。

 このような大きさであれば戦場で標的になりやすく、輸送や運用においても不利に働く可能性があります。しかし、それでも大型化が選ばれた背景には、デメリットを上回るメリットがあったと考えられます。

 サイコ・ガンダムは「ジオン軍」のMS「ジオング」を参考に開発された「サイコミュ・システム」搭載機です。その名残として、腹部の「拡散メガ粒子砲」や指先のビーム砲が見られ、頭部だけでも「ある程度の自律稼働が可能」といいます(BANDAI SPIRITS「HGUC 1/144 サイコ・ガンダム」取扱説明書より)。

 また、通常の戦闘用MSというよりも、拠点の攻略や防衛といった特定の任務を念頭に置いて設計されました。そのため、常に戦場に展開するのではなく、限定された戦地に投入されることを前提とすれば、輸送の不便さもある程度は許容されたと考えられます。

 さらに、戦場で標的になりやすい点も、強力な防御システムによって補われました。サイコ・ガンダムは、非常に厚い装甲に加え、ビーム兵器を偏向させる「Iフィールド」を備えており、作中でも何度か攻撃を受けながらも致命的なダメージを受けず、相手を苦戦させる場面が描かれています。

 ちなみに同じような巨大MSの例として「機動戦士ガンダムSEED」シリーズに登場する、全高56.3mの「デストロイガンダム」がいます。同機が量産され、投入された戦場で破壊の限りを尽くしているのを見ると、サイコ・ガンダムも存在しているだけで相手にとっての脅威になりえたものと容易に想像できるでしょう。



新たにリフレクター・ビットなど武装が追加されたMk-IIのMA形態。「GUNDAM FIX FIGURATION METAL COMPOSITE サイコ・ガンダムMk-II (ネオ・ジオン仕様)」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

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小さくするには不足していた技術力

 ここまで見てきたように、サイコ・ガンダムにとってその巨体はさほどデメリットではなかったとはいえ、では何が巨体たらしめているのでしょうか。

 サイコ・ガンダムは火器管制や機体制御に使われるサイコミュ・システムに加え、MA形態への変形によって重力下で飛行するための「ミノフスキー・クラフト」を積んだ機体です。そうした装備こそが、小型化の障害になったことがうかがえます。

 例えば『Zガンダム』から18年後の宇宙世紀105年を舞台とした『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の「ペーネロペー」や「Ξ(クスィー)ガンダム」は、ミノフスキー・クラフトを搭載しており、それぞれ全高30m前後もあったことを踏まえると、後年でも機体が大型化する原因になっている可能性があります。実際に、デザイン企画「M-MSV」の「量産型サイコ・ガンダム」では、ミノフスキー・クラフトの用途だったMA形態を省略し、武装も一般兵が扱えるようにしたことで、全高を27.2mまで小型化することに成功しています。

 また、同じく「M-MSV」に系列機としてガンダムMk-IIをベースにした「プロトタイプ・サイコ・ガンダム」があり、こちらは19.3mと標準的なサイズです。しかし、この標準サイズではサイコミュ・システムやエネルギー出力に課題があり、実用化には至りませんでした。

 そのため、サイコミュ装備機の先達としてのジオングのように、人型で大きな機体とする設計に移行したことは、技術的に自然な選択だったといえます。

 ほかにも物語の外的な要因で、主人公に立ちはだかる敵としての圧倒的な大きさによる視覚的なインパクトを狙った理由も考えられます。しかし、改めて考えてみるとサイコ・ガンダムの大きさだけでも物語の都合だけではない、技術的な側面として設定の深さを感じ取れるかもしれません。