Credit:Solomon David
何が「生きた化石」を作るかという、究極の疑問の答えが示されました。
米国のイェール大学(YU)で行われた研究により、ガーパイク(通称:ガー)と呼ばれる古代魚は外見だけでなく、DNAレベルでもほとんど進化していないことが示されました。
研究者たちは、ガーは外見に加えてDNAも変化していないことから、生物学的な意味でも本当の「生きている化石」になると述べています。
しかしいったいどんな手段をとったら、DNAレベルの進化を拒絶できるのでしょうか?
研究内容の詳細は2024年3月4日に『Evolution』にて掲載されました。
目次
「生きている化石」たちのDNA変異速度を調べるDNAレベルで「生きている化石」となる種を発見ガーたちは優れたDNA修復能力を持っている
「生きている化石」たちのDNA変異速度を調べる
「生きている化石」たちのDNA変異速度を調べる / Credit:川勝康弘
「生きている化石」という用語を生み出したのは、進化論の産みの親として知られるチャールズ・ダーウィンであると言われています。
ダーウィンは進化の研究を行う中で、一部の「生きている」種は遥か昔の地層から発見される化石と変わらぬ形をしていることに気付いたからです。
時間が経過するにつれて適応と進化が起こるとする進化論において「生きている化石」は、ある意味で例外的な存在となりました。
それゆえに生きている化石たちの知名度は高く、多くの人々にとって、カブトガニやイチョウの木、シーラカンスやムカシトカゲなどの名は馴染み深いものとなっています。
しかし生きている化石たちが本当に進化していないのかは、はっきり断言できません。
というのも、姿かたちは同じでも、DNAレベルでは「ちゃんと進化」しており、外見(化石ベースの分析)からではわからない、新しい能力を獲得している可能性があるからです。
もし化石からDNAを採取できれば、この疑いを簡単に解くことができるでしょう。
ですが残念なことにDNAの半減期は521年であり、計算上680万年で完全に分解されてしまうので、非常に古くから存在する種については化石からDNAの変化を検証することができません。
そこで今回、イェール大学の研究者たちは、生きている化石と他の種のDNAの変異速度を比較することにしました。
調査にあたっては478種にわたって1100カ所の遺伝子(コード領域であるエクソン部位)を収集し、進化系統樹に照らしてDNAの変異速度を調べました。
「分岐した時代の古さ」=「枝の距離」となります / Credit:東北大学
一般に、系統樹の近い枝ではDNAの違いは少なく、共通祖先(分岐点)から遠くなるにつれて、違いも多くなっていきます。
(※たとえば人間とチンパンジーにくらべて、人間とネズミの間のほうが、DNAの違いが大きくなります。)
もしDNAの変化速度が極めて遅い存在がいた場合、分岐点が遥か昔でもDNAにほとんど違いがないはずです。
(※たとえばトラとネコのDNAを調べれば、ネコ科全体のおおよそのDNA変異速度を推測することが可能になります。トラとネコは日本ではよく対比されるため近いと思われがちですが、ネコ科の中では最も遠いグループに属します)
結果、確かに生きている化石と呼ばれるほとんどの種でも、DNAレベルでの進化が起きていたことが判明します。
たとえばシーラカンスやゾウザメ、そして始祖鳥のように羽部分に爪を持つことが知られているツメバケイと呼ばれる鳥たちでは100万年あたり約0.0005個の変異が起きていることが示されました。
ただ一般的な両生類の変異速度が100万年あたり0.007個、あるいは一般的な哺乳類が100万年あたり0.02個であるため、これらと比較するとその進化速度は極めて遅いと言えます。
しかし遅いと言ってもこのDNAの変異速度は、研究者たちの予測よりも大幅に早いものでした。
生きている化石たちの多くは、先祖と姿かたちが同じでも、DNAレベルでの進化は起きていたのです。
しかし今回の研究で最も重要なのは「例外」となる存在が発見された点にあります。
生きている化石と呼ばれる例外たちの中にあって、さらに極めつけの例外、すなわちDNAレベルでも進化していない種が確認できたのです。
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DNAレベルで「生きている化石」となる種を発見
DNAレベルで「生きている化石」となる種を発見 / Credit:Solomon David
淡水魚ガーパイク(通称:ガー)は恐竜たちが地球上を歩いていた1億年以上前から外見が変化しておらず、古代魚の1種とされています。
古代魚としては3億6000万年前の化石と一致する外見を持つシーラカンスのほうが有名でしょう。
しかしガーたちのDNAの変異速度を調べたところ、100万年あたりわずか0.00009個であることが判明。
この数値は脊椎動物の平均的な変異速度と比べて数百~千倍ほど遅いことを示しています。
また2000万年前に分岐した2つの属を比較したところ、分析されたほぼ全ての遺伝子が完璧に同じ配列を持っていることがわかりました。
さらにテキサス州に生息するガーたちを調査したところ、1億500万年前に分岐した2種のガーたちの間に「生殖能力を持つ雑種」が自然交配によって生まれていることが判明しました。
人類はメガネザルどころか比較的最近分岐したチンパンジーとも子供は残せません / Credit:京都大学 . “ふつう”のサルから見るヒトの起源と進化
上の図は霊長類が枝分かれした過程を示していますが、図で最も遠い人間とメガネザルなどの原猿たちでさえ、分岐が起こったのは5300~6300万年前です。
人間はメガネザルどころか、ずっと近縁の600万年前に分岐したチンパンジーとも自然交配で子供を絶対に作れないことを考えると、1億500万年前に分岐したもの同士でそれが可能な、ガーの凄さがわかります。
逆を言えば、1億500万年の時を経ても2種のガーたちの間には、人類で言えば人種程度の違いしかうまれていなかったわけです。
これまでの研究で、異なる2種間で自然交配で生殖可能な子孫を作れる最も古い例は、シダ植物であると考えられていましたが、今回の結果はそれを6000万年も上回ることになります。
この結果は、ガーたちがDNAレベルでもほとんど変化がない、ある意味で「真の生きている化石」と呼べる存在であることを示しています。
これまで生きている化石についてさまざまな研究が行われてきましたが、外見ではなく生物学的な側面で「生きている化石」に到達する方法が示されたのは、今回が最初になります。
しかしなぜガーたちの遺伝子は、時間が経過してもほとんど変化しないのでしょうか?