ガーたちは優れたDNA修復能力を持っている


ガーたちは優れたDNA修復能力を持っている / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

なぜガーたちのDNA変異速度は遅いのか?

研究者たちが分析を行ったところ、調査されたガーたちで、ほぼ一貫して変異速度が低くなっていることが判明します。

つまりガーの変異速度の遅さは、環境などの外部的な要因ではなく、ガーたち自身が備えている内部的要因によるものとなります。

研究者たちはこの内部要因の正体が「DNA修復速度の高さ」にあると述べています。

生命には、DNAを変異させる力に抵抗してDNAを修復しようとする力が備わっていますが、ガーたちはこのバランスが修復側に大きく傾いていたのです。

(※近年の研究では、ゾウやクジラなど細胞が多い大きな動物たちが、がんになりにくいのは、高いDNA修復能力のお陰であることが示されています)

また生命のDNAには、DNA内を飛び回ってシャッフルする「ジャンプ遺伝子」が存在しており、変異の原因の1つとなっています。

しかしガーたちのDNAでは、このジャンプ遺伝子の働きも弱められており、変異が抑えられていることが示されました。

研究者たち次の実験ステップとして、ガーたちのDNA修復にかかわる遺伝子をマウスなどに組み込むことで、マウスのDNA修復効率を上げる実験を計画しています。

研究者たちは、ガーの持つ優れたDNA修復能力を医療に応用することができれば、人間にとって有益な薬を作れるだろうと述べています。

というのも、がんや老化の原因はDNAが変異することにあるからです。

もし何らかの方法で、DNAの変異を完全に抑えることができるのならば、理論上、がんも老化も起こらなくなるはずです。

(※ここで言う完全とは進化スケールにおいて、100万年あたり0個の変異という意味に加えて、個体の一生におけるDNA変異率を0%にすることを意味します。)

ただその場合、人類の進化は終焉を迎えることになるでしょう。

DNAが一切変化しない種では進化も起こらず、環境変化にも脆弱になります。

もし変化を拒絶しつつ運よく絶滅を免れることができれば、人類もいつの日か「生きている化石」になれるかもしれません。

参考文献

Study of slowly evolving ‘living fossils’ reveals key genetic insights
https://news.yale.edu/2024/03/04/study-slowly-evolving-living-fossils-reveals-key-genetic-insights

元論文

The genomic signatures of evolutionary stasis
https://doi.org/10.1093/evolut/qpae028

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。