中国で絶滅したオオサンショウウオが日本で見つかる。(写真:吉川夏彦, サンシャイン水族館) / Credit:西川完途(京都大学)_絶滅したオオサンショウウオが生きていた!―外来種が救う種の絶滅?―(2024)

外来種が持ち込まれることで在来種が脅かされる「外来種問題」は、日本だけでなく世界的な問題となっています。

しかしときには、「他の国や地域に生物を持ち込む行為」が、その種を救うことに繋がることもあるようです。

最近、京都大学に所属する西川完途氏ら研究チームは、中国で絶滅したと考えられていたスライゴオオサンショウウオの一種が、日本の動物園と水族館で1頭ずつ飼育されていることを発見しました。

これは過去に日本へペットなどの目的で輸入された個体を、水族館が保護していたもので、非常に珍しいが外来種の持ち込みがその種の絶滅を救った事例になるという。

研究の詳細は、2024年1月31日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

目次

遺伝子汚染を引き起こす外来種問題日本で発見された外来種のオオサンショウウオは、中国では既に絶滅していた

遺伝子汚染を引き起こす外来種問題

生態系は、長期間にわたり、「食う・食われる」を繰り返すことで、絶妙なバランスを保ちます。

ここに、本来その地域には生息していない「外来種」が持ち込まれると、生態系のバランスは崩れてしまいます。

外来種が在来種の住処やエサを奪ったり、在来種そのものを食べてしまったりすることで、在来種が激減することがあるのです。

例えば、琵琶湖でアユやビワマスなどが激減したのは、外来種であるブラックバスに捕食されたことが原因だと言われています。


外来種の問題点 / Credit:環境省_侵略的な外来種

また、この外来種問題には、「遺伝子汚染(または遺伝的かく乱)」という問題も含まれています。

この遺伝子汚染とは、外来種と在来種が交配することで、在来種がもともと持っていた遺伝子が変化してしまう現象を指します。

つまり、貴重な在来種と持ち込まれた近縁の種との間で交配が起こり、雑種が生まれてしまう(交雑という)のです。

この現象が広がるなら、その地域に本来あった遺伝的多様性が損失してしまいます。


メダカやカエルなど、様々な種で交雑が進んでいる。 / Credit:Canva

例えば、日本在来のメダカは大きく2種に大別されますが、生息水域ごとに遺伝的な差を持つ個体群に細分されます。

だからこそ、ある水域に別の水域のメダカを放流するなら、貴重な在来個体群は、雑種個体群へと変容してしまうのです。

このことは、東京のカエルでも問題視されています。

元々東京にはアズマヒキガエルが生息していましたが、国内の別の地域からニホンヒキガエルが持ち込まれることで交雑が進み、今では8割の個体が雑種となりました。

この現象はオオサンショウウオの間でも生じており、今回、西川氏ら研究チームは、国内のオオサンショウウオの現状を調査することにしました。

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日本で発見された外来種のオオサンショウウオは、中国では既に絶滅していた


チュウゴクオオサンショウウオ / Credit:Wikipedia Commons_チュウゴクオオサンショウウオ

日本では、中国産のチュウゴクオオサンショウウオが1960年以降に食用として持ち込まれました。

これが逃走するなどして、チュウゴクオオサンショウウオと在来種である日本の特別天然記念物のオオサンショウウオが交雑。文化財保全および生物多様性保全の観点から問題となってきました。

西川氏ら研究チームは、交雑オオサンショウウオをスクリーニング(選別)する目的で、京都市のサンプルと、三重県と奈良県の日本のオオサンショウウオ、徳島県の河川で捕獲されたもの、動物園・水族館・個人宅で飼育されていたチュウゴクオオサンショウウオの遺伝子型をそれぞれ調査しました。

その結果、45個体の交雑個体と、28個体のチュウゴクオオサンショウウオが発見されました。

危険視されてきた通り、日本でもオオサンショウウオの交雑が進んでいるようです。


今回得られた系統樹。ミトコンドリアDNAの塩基配列情報で描かれたもの。赤字が今回分析されたサンプルで、日本国内で採集された個体。 / Credit:西川完途(京都大学)_絶滅したオオサンショウウオが生きていた!―外来種が救う種の絶滅?―(2024)

しかしこの調査は、生物多様性を保全する上で「厄介者」として扱われてきた外来種が、逆にその保全に役立っていたという「稀なケース」を明らかにしました。

分析された28個体のチュウゴクオオサンショウウオのうち、4個体(現在生存しているのは2個体)が中国では野外絶滅したとされていたスライゴオオサンショウウオだったと判明したのです。

このスライゴオオサンショウウオは、一時期チュウゴクオオサンショウウオと同種だと考えられていましたが、2019年には独立種と認定。

しかしその時点では、既に中国の野外の個体群は絶滅しており、生きた個体は見つかっていませんでした。

だからこそ、生きた2個体が日本で発見されたのは、驚くべきことです。


日本で生きていたスライゴオオサンショウウオ。上はサンシャイン水族館(東京・池袋)で飼育されている雄で(写真:吉川夏彦 提供)、下は広島市安佐動物公園で飼育されている雄(写真:広島市安佐動物公園 提供)。 / Credit:西川完途(京都大学)_絶滅したオオサンショウウオが生きていた!―外来種が救う種の絶滅?―(2024)

この2個体は、それぞれサンシャイン水族館(東京都)と安座動物公園(広島県)で飼育されていたもので、両方ともオスでした。

これら施設で飼育されていた2個体のうち、水族館にいた1個体は、1999年にペットショップから購入されたものです。

輸入年に関する情報はありませんでしたが、おそらく20~30年前に輸入されたものだと考えられます。

動物公園にいた1個体は、台湾から日本に違法輸入された20個体のうちの1個体で、1986年に大阪国際空港で押収されました。

その個体は、水族館などを経て最終的に動物公園に渡ったようです。

どちらのケースも、日本に持ち込んだのは施設(水族館や動物公園)側ではなく、その目的も「希少生物の保護」ではありません。

商売のために持ち込まれた外来種です。

そして、そのような目的で過去に中国から日本に持ち込まれたチュウゴクオオサンショウウオの中には、貴重なスライゴオオサンショウウオが含まれていたのです。

つまり、問題視されている「外来種の持ち込み」が、スライゴオオサンショウウオの絶滅を阻止することに繋がっていました。

このスライゴオオサンショウウオは、オオサンショウウオの仲間の中でも最も大きくなる「世界最大の両生類」と言われており、今後は「個体群を復活させる取り組み」が必要になってきます。

現状、生きたオスしか生存していませんが、希望はあります。

死んでしまったメスの細胞組織が冷凍保存されていると判明したため、その組織を用いてクローン個体を復活させ、人工繁殖できるかもしれないのです。

また、元々の調査対象だった「チュウゴクオオサンショウウオ」自体も、貴重な種であることには変わらず、日本で見つかった個体を人工繁殖させるという計画も出ているようです。

研究チームは、「外来種問題は解決が非常に難しく、科学的な正解がありません。外来種は悪にも正義にもなります」とコメントしており、今回の発見はまさしくそのことを示しています。

世界中で見られる外来種問題に対しても、多角的な視点で取り組む必要があるでしょう。

もしかしたら今回のケースと同じように、既に絶滅したと考えられていた種が、他の国で発見されるかもしれませんね。

参考文献

絶滅したオオサンショウウオが生きていた!―外来種が救う種の絶滅?―
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-02-08

元論文

Discovery of ex situ individuals of Andrias sligoi, an extremely endangered species and one of the largest amphibians worldwide
https://doi.org/10.1038/s41598-024-52907-6

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。