自然界でも「存在しないこと」を積極的に認識する必要がある


自然界でも「存在しないこと」を積極的に認識する必要がある / Credit:何もないことを脳が積極的に確認を行い信号を発している

動物が自然界を生き抜くには「存在すること」や「存在する数の多さ」だけでなく、加えて「存在しないことを知覚する」ことが重要になります。

たとえばサバンナに生息するシマウマの場合、脅威となる捕食者が存在することを知覚して逃げるだけでなく、存在しないことを知覚すれば安心して草を食べることができます。

研究者たちは「私たちの0の概念も、存在しないことを知覚する「不在の認識」がベースになっている可能性がある」と述べています。

というのも、これまでの研究によって、人間の脳はより複雑な認知能力のために、生まれつき備わっている感覚機能や運動機能を転用できることが示されているからです。

たとえば人間が持つ文字の認識能力は、元は果実を的確に見分けるための視覚能力が転用されていることが知られています。

同様に0の認識も、捕食者など数える対象が「存在しないこと」を特異的に認識するためのシステム(不在の認識)が転用さていると考えられます。

無と同じとみなされがちな「0」ですが、今回の研究では「1」の下にある「数の一派」として脳が「0」を認識していることが示されました。

本当に無の世界には「0」の概念はありません。数えるという能力を転用することで、人間の脳ははじめて「0」の概念を獲得できたのです。

元論文

Creating something out of nothing: Symbolic and non-symbolic representations of numerical zero in the human brain
https://doi.org/10.1101/2024.01.30.577906

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。