衰退すればするほど支配を強める仕組み
このような取り巻きの財界企業を潤すような大規模な予算ぶんどりを続けていき、結局、情報通信、ゲノム創薬など医薬品、再生可能エネルギーと蓄電池、EV(電気自動車)と自動運転などの先端産業ではどんどん後れを取り、貿易赤字を定着させていく。裏金問題の「裏」は「表」の経済衰退であり、裏金問題と経済衰退は地方から中央(国)まで表裏一体となって進んでいるのである。
だからといって、いまの日本経済の衰退を克服する政策について、かつてのように自民党内で激しい論争が起きているわけではない。中選挙区制時代には、同じ選挙区でもライバルが存在し、派閥が互いに競い合っていたので、有権者を奪い合うために政策を切磋琢磨せざるをえなかった。いわゆる三角大福の時代はそれぞれが政策ビジョンを持ち、競い合う最盛期であった。
三木武夫は金権政治とは無縁で社会民主主義的な思考を許容した。田中角栄は地域格差是正を掲げ、ケインジアン的な拡張的財政政策をとった。大平正芳は宏池会を引き継ぎ、大蔵省の堅実な財政政策を志向し、国家ビジョンとしては分散型な田園都市構想を打ち出した。福田赳夫は田中角栄と対立し、大蔵省の均衡財政主義とインフレ抑制路線を代表していた。
いまや小選挙区制度の下では、そうした政策ビジョンを争う場もなくなり、裏金を含め政治資金をもって地方議員を囲い込む利益共同体を作り、世襲政治家を軸に政府の利益配分によって地域政治の独占を図っていく。劣化した政治家は政策論争をする能力に欠けているために、これから見るように「2015年体制」を形成しなければならなくなった。集団的自衛権を正当化するイデオロギーとして右翼ナショナリズムが用いられたのは、歴史修正主義という反知性主義的な低レベルの議論ですみ、旧統一教会のようなカルト集団が選挙を支援してくれる「実利」があったからである。
文/ 金子勝
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『裏金国家 日本を覆う「2015年体制」の呪縛』(朝日新聞出版)
金子勝
2024年9月13日957円(税込)256ページISBN: 978-4022952783
総裁の「顔」を変えたところで、自民党の根っこは何も変わらない――。
腐敗・衰退著しい日本の根本要因を徹底検証した、渾身の作。
長年にわたって「裏金」をばらまき、都合の悪い言論を封殺し、
縁故主義による仲間内資本主義がはびこる日本社会。
民主主義を破壊し、国際競争力を低下させた背景にある「2015年体制」の正体とは。
さらに、情報通信やエネルギー転換など、先端産業分野から取り残され、国民生活をどんどん貧しくしていく日本経済の構造的問題、そして迫りくる“カタストロフ”とは。
世襲支配、円安バブル、脱税と隠蔽、軍事費の増額……負のらせん状階段を下り続ける、この国の悪弊を断つ。
■目次
第1章 「2015年体制」というディストピア
第1節 日本政治の腐った根っこ
第2節 「2015年体制」とは何か
第3節 世襲という病
第2章 自浄能力なき隠蔽国家――腐敗が止まらない仕組み
第1節 検 察の権力チェック機能も自民党の自浄能力も期待できない
第2節 国会審議で明らかになったことは何か
第3節 自民党内のアリバイ的処分と法改正
第4節 政治資金規正法改正の自民党案の欺瞞性
第3章 裏金国家――国が腐るとはどういうことか
第1節 「惨事」便乗型資本主義
第2節 「国家的」な裏金作り
第3節 円安インフレと防衛費膨張の悪循環
第4節 投機マネーに狙われる国
第5節 ずるずるとした滅び
第4章 裏金国家の経済政策――仲間内資本主義日本
第1節 プーチン型権力を目指す
第2節 リフレ派とMMTが日本経済を滅ぼす
第3節 政府の産業政策が衰退を加速させる
第5章 ディストピアから脱する道――裏金を提供する者のためでなく困っている者のための政治へ
第1節 政権交代が必須
第2節 円安インフレと格差拡大を防ぐ
第3節 防衛費膨張を止めてイノベーティブ福祉国家へ
第4節 地方衰退を食い止める
第5節 いかにして少子化を食い止めるか