ニコン ニコマートELW[ニコンの系譜] Vol.19

FRE

ニコマートELの項で書き漏らしたが、実はこのシリーズではもう一つ画期的な新技術を盛り込んでいた。それは電子回路に絞り値やフィルム感度の情報を導入する可変抵抗器についてである。

それまでの露出計連動機では、「マイラー抵抗」と呼ばれるポリエステルのフィルムにカーボンの抵抗体を塗布したものを使用していた。細長いマイラー抵抗を絞りやシャッター速度に連動して回転するリングの円筒面に貼り付け、他のリングに設けたブラシで抵抗体の表面をこすることにより、抵抗値の形で情報を導入するのだ。ただ、この可変抵抗器の信頼性が悪く、接触不良による電流計の針飛びのような事故が頻発した。

ニコマートELのときに、この問題を抜本的に改善すべくニコンは「FRE」という可変抵抗器を開発したのだ。円板型のガラス基板に金属系の抵抗体薄膜を真空蒸着の技術で形成し、その抵抗体の周囲に細かな電極を引き出してその電極上を細い金線のブラシでこするのである。ニコマートELとELWの場合は回路の都合上3桁もの広範囲な抵抗値を実現する必要があったため、抵抗率の異なる何種類かの材料を用い、かつ高抵抗の部分は抵抗体のパターンを蛇行させて長さを稼いでいた。「FRE」というのは”Functional Resistor Element”の略である。

このFREの採用で可変抵抗の大幅な信頼性向上が図られた。そしてニコンの他の製品、ニコンF2フォトミックSBやニコンFM、FEなどにもこのFREが採用されている。その後デジタル制御の時代になって可変抵抗を使わなくなり、このFREも役目を終えることになった。

ニコマートELとELWのFRE。ガラス基板に抵抗体と引き出し電極を形成し、引き出し電極上をブラシでこする。高抵抗側は抵抗体の長さを稼ぐために蛇行パターンとなっている

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AW-1のネームプレート

最後にちょっとしたエピソードを一つ。オートワインダーAW-1の前面にネームプレートがあるのだが、その位置と形状になにか違和感を覚えないだろうか?縦型でしかも前面中央にあるわけでもなくカメラに装着したときのレンズの光軸からもズレた半端な位置にある。実はこれ、ボロ隠しなのである。この位置に駆動用のモーターが縦に入っているのだが、配置上どうしても前方に出っ張ってしまう。その対策としてワインダー外郭の一部を破って、そこをネームプレートで蓋をしているのだ。

オートワインダーAW-1のネームプレート。実は駆動用のモーターを収納するためのボロ隠しになっている

豊田堅二|プロフィール

1947年東京生まれ。30年余(株)ニコンに勤務し一眼レフの設計や電子画像関連の業務に従事した。その後日本大学芸術学部写真学科の非常勤講師として2021年まで教壇に立つ。現在の役職は日本写真学会 フェロー・監事、日本オプトメカトロニクス協会 協力委員、日本カメラ博物館「日本の歴史的カメラ」審査員。著書は「とよけん先生のカメラメカニズム講座(日本カメラ社)」、「ニコンファミリーの従姉妹たち(朝日ソノラマ)」など多数。