昔よりも「分かりません」「知りません」が言えるようになった
離婚は弁護士を通じ、半年ほどで成立した。
「1人になって、『経済的にやっていけるのだろうか』と落ち込むときがあります。その度に、『どんな仕事をしてもいいし、日本は生活保護がしっかりしているから生きていける!』と楽観的に考えるようにしています」
ビジネスパーソンとしてブランクのある女性には厳しい日本だが、最低限の生活は保障されている。遠野さんはこれを「安心材料」と捉えることで、ネガティブになる自分を留めている。
「私の友人に、『ローマは一日にしてならず』『できない理由を考える時間があれば、できる方法を考えよう』とよく口にする世界的な研究者がいます。彼女がある失敗を犯したとき、『よし! 私は頑張った!』と自分に言い聞かせていて驚きました。
当たり前の話ですが、成功するには人一倍時間をかけて努力することが必要。でも私たちはついつい焦って、すぐに結果を期待してしまう。彼女だけでなく、成功している人は常に楽観的で、建設的な考え方をしていることに気づきました。私たちには、お互いに高め合える友人や仲間、メンターが必要である一方で、自分がネガティブにならないためには、リアルでもネット上でも、愚痴ばかり漏らしているようなネガティブな人と交わらないことも大切だと思います。
1人になり、50代になって、昔よりも『分かりません』『知りません』を言えるようになり、いろいろな人と話すのが楽しくなりました。精神的には今、とても幸せです」
大きなことを成し遂げられる成功者に、楽観的で建設的な考え方をしている人が多いという遠野さんの言葉には、はっとさせられた。確かに、世界中で誰1人として味方がいなかったとしても、自分だけは自分の味方でい続けることができなくては、何ひとつ成し遂げることができない。そうした強さや柔軟さを身につけ、時に鈍感にもなることが、予期せぬ逆境を乗り越えるヒントなのかもしれない。
「日本の雇用市場は変わりつつあり、数年前よりは転職もしやすくなっています。しかし、履歴書に空白があると不利なのは今も否めません。もしもやりたい仕事があるけれど、ブランクがあるとか未経験だからなど『正社員は難しい』という状況なら、まずはフリーランスとして始めてみるのもひとつの手だと思います。
最近私も活用していますが、アメリカ生まれのビジネスSNS『Linkedin(リンクトイン)』は、ビジネスにつながりやすくてお勧めです。英語で発信するようになってからは、仕事の依頼だけでなく、『この人と会ったほうがいいよ』という紹介を受けるようになりました。インドや台湾、シンガポールの人々も、自分の世界を広げようとしている印象です」
遠野さんは現在、海外から執筆や調査依頼を受け、世界中を飛び回っている。
「現在はオンラインのウェブ制作を学んでいますが、ゆくゆくは海外の大学院でリスキリングをしたいと思っています。目標は、公共政策の修士号を取り、女性の権利にまつわる執筆活動を続けながら、文化的な仕事をすることです。現状、年齢や性別、転職歴などにこだわる傾向の強い日本では難しいと思うので、海外を考えています」
夫にしがみつき続けるという選択肢もあったが、遠野さんはそれを捨て、全く新しい自分だけの人生を歩き始めた。
“再起動”した遠野さんの今後の活躍を見守り続けたい。
取材・文/旦木瑞穂