青春マンガの傑作『ネムルバカ』の実写映画でメガホンを取ることになった阪元裕吾監督は、代表作の『ベイビーわるきゅーれ』を撮った段階で「マンガっぽい」作家性があると言われています。その理由と、阪元監督に実写化を手がけてほしいマンガを3作品あげてみましょう。



映画『ネムルバカ』ビジュアル。左から入巣柚実役の久保史緒里と鯨井ルカ役の平祐奈 (C)石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

【画像】え…っ? これは再現度ナイス こちらが原作の『ネムルバカ』です

マンガっぽい作家性が確かにある

 2024年9月27日より、映画『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』が劇場公開されます。本作は2021年に公開され、小規模公開ながら口コミで大評判となった殺し屋映画『ベイビーわるきゅーれ』の第3弾です。

 同シリーズは殺し屋の女の子ふたりのだらだらした日常のおかしみ、ギャップのあるアクションのキレと迫力などが見どころで、現在放送中のTVドラマ版『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ』でもその魅力は受け継がれています。

 その『ベイビーわるきゅーれ』の監督は、1996年生まれで現在まだ28歳の阪元裕吾さんです。その阪元監督が008年に発売されて以降、青春マンガの傑作として読み継がれている、石黒正数さんの1巻完結のマンガ『ネムルバカ』の実写映画版を手掛けることが発表されました。そして、まだ監督と主演ふたりのビジュアルしか発表されていませんが、後述する阪元監督の作家性もあって、今の段階で「奇跡のタッグ」「本当に大正解でしかない」など、絶賛されているのです。

 その阪元監督は、以前から「マンガっぽい」作家性があると言われていました。ここではその理由と、阪元監督に今後実写化を手がけてほしいマンガを3作品あげてみましょう。

もともとマンガが大好きな阪元監督

 阪元監督の作家性が「マンガっぽい」と言われる理由の筆頭は、多くの作品で「日常に極端な設定や事件が混ざり込む」ことにあると思います。『ベイビーわるきゅーれ』の「女の子の殺し屋(コンビ)」からしてマンガっぽいですし、その要素だけを取り出せば実際にマンガ『バイオレンスアクション』(原作:沢田新/作画:浅井蓮次)や『CANDY&CIGARETTES』(作:井上智徳)のような雰囲気もあります。

 また、阪元監督は初期作の『ハングマンズ・ノット』や『ファミリー☆ウォーズ』などでは、過激なバイオレンスを前面に押し出していましたが、最近では「オフビートなコメディセンス」「社会にうまく溶け込めない人たちを描く」といった作家性が、よりポップで親しみやすい方向で打ち出されているようにも見えるのです。そういった作家性はモラトリアムまっただ中で葛藤するも、どこかゆるくて笑えるやりとりをしている女子大生ふたりが主人公の『ネムルバカ』との相性も、抜群に思えます。

 そのほか、とにかく続きが気になるエンタメ性の高さや、アクション監督の園村健介さんと組んだからこその格闘描写のケレン味も、日本のマンガらしい要素です。特に、極端な格闘描写やキャラクターが特徴的な格闘マンガ「刃牙」シリーズ(作:板垣恵介)が、阪元作品に影響を与えたことも間違いありません。2作目『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』で、敵側が主人公たちに勝ったという「幻想」を見る場面は、「刃牙」シリーズの「加藤清澄」や「純・ゲバル」の敗北の場面を思い出します。

 ちなみに、8月に公開されたマンガ原作の映画『赤羽骨子のボディガード』(作:丹月正光)を、阪元監督がXで「最高すぎた……。エグい……。日本映画でいちばん面白い……」と絶賛したことも話題になりました。こちらはバラエティ豊かなボディーガードが活躍する設定で、『ベイビーわるきゅーれ』はもちろん『グリーンバレット』『ある用務員』などでクセの強い殺し屋たちを描いてきた、阪元監督が気に入る題材であることが大いに納得できます。

 そんな作家性を持つ上に、自身もマンガが好きだと公言している阪元監督に、ネット上で「このマンガを実写映画化してほしい!」という声が出てくるのも当然というわけです。ここからは具体的に作品と、その理由を記します。



最新作『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』ポスタービジュアル (C)2024「ベイビーワルキューレ ナイスデイズ」製作委員会

(広告の後にも続きます)

そもそも「ジャンプ系」を目指している監督

阪元監督に実写化してほしいマンガその1:『鬼滅の刃』

 阪元監督は『鬼滅の刃』(作:吾峠呼世晴)の大ファンで、2020年のベスト映画1位に『鬼滅の刃 無限列車編』を選んでいます。残酷描写にも意義がある物語やアクションのアイデアの面白さなどは、阪元監督との相性も良さそうです。また、『鬼滅の刃』の舞台版では『ベイビーわるきゅーれ』の「杉本ちさと」役の高石あかりさんが禰豆子を演じています。

 また、阪元監督は「邦画作品はもっと飛躍して、ぶっ飛んでてもいい。『チェンソーマン』『鬼滅の刃』もぶっ飛んでいるところがありますし、私はそういうところをイメージしています」と。NB Press Onlineのインタビューで答えたこともありました。「週刊少年ジャンプ」で連載されたマンガを意識して作品に挑んでいる作家が、少年ジャンプ作品との相性がいいのもほぼ自明のことでしょう。

阪元監督に実写化してほしいマンガその2:『SAKAMOTO DAYS(サカモト デイズ)』

 鈴木祐斗さんの『SAKAMOTO DAYS』は「ふくよかな体型の中年男性が、実はかつての伝説の殺し屋だった」という設定の作品で、『ベイビーわるきゅーれ』とは「殺し屋×日常×コメディ」という組み合わせが共通しています。

 阪元監督とは「サカモト」という名前つながりでもありますし、阪元監督は実際にX(旧:Twitter)で「SAKAMOTO DAYSがもし実写映画化される際は、この阪元に監督させてくださりませ。よろしくお願い致します」と投稿していました。他にも、凄腕の殺し屋が活躍するコメディでは『幼稚園WARS』なども相性が良さそうです。

阪元監督に実写化してほしいマンガその3:『はっちぽっちぱんち』

『はっちぽっちぱんち』(原作:嵯峨あき/作画:カツラギゲンキ)は、かわいらしいタイトルの反面、人を殴ることを望む女子高生が「狂気」をもって女子格闘技に挑む内容が話題を集めてきました。「殴っていいんだ この人は殴っていいんだ」という主人公のセリフにインパクトがあり、それは誰かを過剰に糾弾するインターネット、またはSNS上の行為の浅ましさを指摘する画像として、ネットミームにもなっています。

 かなりハードかつ本格的な格闘描写は、初期のバイオレンス要素が多い阪元監督作品のテイストともマッチしそうです。『ベイビーわるきゅーれ』のゆるい日常描写とは正反対かもしれないのですが、だからこその阪元監督の「らしさ」が出ることにも期待します。

他にも阪元監督との相性の良さそうなマンガも?

 殺し屋や暴力の才能がある主人公の作品では、2023年以降で「週刊ヤングマガジン」で連載が始まった『ねずみの初恋』(作:大瀬戸陸)や『アマチュアビジランテ』(原作:浅村壮平/作画:内藤光太郎)も、阪元監督が実写化に適していそうです。

 他にも日本で今も忍者組織がいるという設定の『アンダーニンジャ』(著:花沢健吾)も阪元監督との相性が良さそうだという意見がありましたが、こちらは福田雄一さんが監督と脚本を務め、公開予定も2025年1月24日であると発表済みです。

 他にも『幸せカナコの殺し屋生活』(作:若林稔弥)も「殺し屋×女の子」もので阪元監督にマッチしそうですが、こちらも英勉さんが監督を務めた実写ドラマ版がDMM TVにて今冬独占配信予定となっています。

 既存のマンガの実写映画化作品でも「阪元監督に手がけて欲しかった!」という声があるのは、それほどに阪元監督の作家性が確立している証拠でしょう。『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』『ネムルバカ』はもちろん、その後の作品にもさらに期待しています。

※高石あかりさんの高は「はしごだか」が正式表記
※禰豆子の「禰」は「ネ+爾」が正式表記