Credit: canva

犬と触れ合っていると時々、「私たちの絆は一方的なものなのではないか?」と感じることがあるかもしれません。

しかし最新研究は、人と犬の絆が双方向的なものであることを教えてくれています。

中国科学院(CAS)はこのほど、人と犬が見つめ合ったり、撫でたりする交流をしているときに、お互いの脳波がシンクロしていることを発見しました。

脳波のシンクロは人と人の間ではよく知られていますが、異種生物とのシンクロが確認できたのは初めてとのことです。

研究の詳細は2024年9月11日付で科学雑誌『Advanced Science』に掲載されています。

目次

人と犬の「脳波」はシンクロしているのか?絆が深まるごとに「脳波のシンクロ率」が高まっていた!自閉症の犬には「LSD」を投与するとシンクロ率がUP!

人と犬の「脳波」はシンクロしているのか?

犬は人類にとって最良のパートナーです。

人と犬の歴史はとても古く、最も古い推定では約4万年前に家畜化が始まりました。

もう少し詳しく言うと、オオカミが人間の食べ残しに集まるようになった中で、次第に両者の関係性が深まり、その中でも特に人間になついた一群が犬になったとされています。

研究主任のヨン・チャン(Yong Zhang)氏は「家畜化の長い歴史の中で、犬は人間との親密なコミュニケーション能力を発達させてきました」と説明。

「人の表情や行動、声のトーンなどのシグナルを読み取り、飼い主の意図を理解するように進化してきました。

こうして人と犬との相互作用は、他の家畜や動物にはあまり見られないレベルにまで達したのです」と話します。


Credit: canva

その一方で、人と犬との絆の深さが脳活動にどのように反映されているかはわかっていませんでした。

例えば、お互いの絆が本当に深まっている状態であれば、それぞれの脳波がシンクロする傾向が見られます。

脳波のシンクロは他者との共感性や協調性、社会的つながりが高まっていることを指し示すものです。

人と犬は外目にはとても仲良く見えていますが、もし両者の脳波がバラバラであれば、実際には絆が深まっていないことを意味します。

そこで研究チームは新たに、人と犬が交流しているときの脳波を調べてみました。

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絆が深まるごとに「脳波のシンクロ率」が高まっていた!

実験では10匹のビーグル犬(1〜2歳、すべてオス)を対象に、ランダムに人とペアを組ませて、双方に脳波を測定できるキャップを着用してもらいました。

このキャップは、人と犬の交流中に脳の神経細胞から発される電気シグナルを記録することができます。

そして次の3つの条件下で人と犬の脳波を測定しました。

(※ 以下の「社会的相互作用」とは、撫でたり、抱きしめたり、お互いの目をじっと見つめ合ったりするコミュニケーションのことを指しています)

①別々の部屋にいて社会的相互作用もない条件

②同じ部屋にいるが社会的相互作用のない条件

③同じ部屋にいて社会的相互作用もある条件


左から①〜③に該当 / Credit: Yong Q. Zhang et al., Advanced Science(2024)

人と犬のペアは飼い主とペットの関係ではなく、お互いに見ず知らずの初対面です。

これは人と犬が親しくなるにつれて、脳波活動がどうのように変化するかを知るためでした。

実験は各1回の時間を5分間に設定し、これを5日間つづけて行いました。

その結果、事前の予想通り、条件①では人と犬の脳波活動が最もバラバラで、条件③で脳波のシンクロ率が最も高くなることが判明しています。

さらに日を追うごとに脳波のシンクロ率が高まっており、条件③の「同じ部屋にいて社会的相互作用もある条件」では、実験開始から5日目に人と犬の脳波が高いレベルでシンクロしていたのです。

これは人と犬との絆が時間の経過ごとに深まっていることを示しています。


右の脳波は青が人で、赤が犬 / Credit: Yong Q. Zhang et al., Advanced Science(2024)

チャン氏によると、絆が深まるにつれて脳波のシンクロ率が高まる傾向は人と人に見られる現象と同じだといいます。

また別の発見として、相互作用の「撫で」と「見つめ合い」が同時に行われた場合、「撫で」と「見つめ合い」がそれぞれ別個に行われた場合と比べて、脳のシンクロ率が高まっていました。

人と犬との脳活動のシンクロが確認できたのは今回が初めてであり、人と犬が脳波レベルで深い絆を結んでいることを示す結果です。

加えて、この研究は自閉症の新たな治療法を見つける上でも役に立つことがわかりました。