スポーツランドSUGOで行なわれているスーパーGT第6戦は、天候不良の影響で9月21日(土)に予定されていた公式予選がキャンセルとなった。チーム・ドライバーにとってもファンにとっても、不完全燃焼な1日になってしまったと言える。
ただ、この1日で見えてきたものもある。それが、近年のスーパーGTで一層激しさを増している“ウエットタイヤ開発戦線”の進捗だ。
今回、予選日午前の公式練習は予定通り実施されたが、終始ウエットの公式セッションはこれが今季初めて。ブリヂストン、ヨコハマ、ダンロップ、ミシュラン、それぞれのタイヤメーカーが収穫を得た様子だ。予選日の中で各陣営から聞こえてきたコメントを紹介する。
パターン変更のGT300が好タイム。そのグリップ感に好評価のダンロップ
まずはダンロップから。彼らはシーズンオフのテストで様々なトレッドパターンをテストしていたが、GT500は従来パターンを継続し、GT300は新パターンを採用したようだ(※シーズン中は複数パターンのタイヤを登録することはできない)。
GT500の64号車Modulo CIVIC TYPE R-GTは、公式練習で6番手。ドライバーの伊沢拓也は、「僕たちは色々とトライをした中でパターンはキープコンセプトです。新しいものにすることにはリスクもありますし、このパターンも速い時は速いので魅力です」と説明。今回のセッションを終えての段階では何とも言えない部分があるとしながらも、現行パターンの雨量の少ない場面での強さを活かしつつ、現在はコンパウンドのブラッシュアップに取り組んでいると話した。
GT300クラスに関しては、新パターンのタイヤで目立った速さを見せた。61号車SUBARU BRZ R&D SPORTが2番手、777号車D'station Vantage GT3が3番手、11号車GAINER TANAX Zが7番手、31号車apr LC500h GTが8番手と、軒並み上位に食い込んだ。
この新パターンは、イン側で排水、アウト側で旋回性能を確保させるという左右非対称のコンセプト。61号車SUBARUの井口卓人は、よりグリップ感が得られるようになったと評価する。
「このタイヤになってから、全体的なグリップ感が向上しています」
「雨量が多くなった時も、(タイヤと路面の間に水膜が入り込み)浮いちゃう部分も多少はありますが、ゴム自体のグリップ感があるのでそこそこ走れる印象です。昔みたいな感じではないですし、前のパターンよりも底上げされている印象ですね」
“ちょい濡れ重視”だったはずでは……? ヨコハマはウォームアップ性能向上でGT500勢が好タイム
今回の公式練習である種のサプライズと言えたのが、ヨコハマのGT500勢が上位のタイムを記録したことだ。
というのも、ヨコハマは近年のコンセプトとして、雨量の少ない“ちょい濡れ路面”にフォーカスしたウエットタイヤ開発を進めてきた。これは雨量の多いシチュエーションでは赤旗中断やセッション中止となることが多いことも関係している。トレッドパターンもかつてのF1の溝付きドライタイヤを想起させるような、数本の縦溝と細かい横溝だけが入ったデザインだ。
実際、ヨコハマはこのパターンの投入以降、雨量の少ないダンプ路面ではパフォーマンスを発揮し、フルウエットでは苦戦する傾向であった。しかしながら今回は雨量の少ない場面がほとんどなかったにもかかわらず、GT500で19号車WedsSport ADVAN GR Supraが3番手。24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zも7番手に入った。
これについて開発責任者である白石貴之氏は、ウォームアップ性能の向上が一因だとして、こう解説した。
「水量が多いところではパターン的にどうしても苦しいところもありますが、発動性を良くすることでそこに対策する、ということに取り組んできました。その効果の確認ができたと思っています」
「排水性で厳しいところでも、ゴムがしっかり発動していれば、ハイドロプレーニングから脱したところですぐにグリップできる……つまりハイドロプレーニングの影響をゼロにはできないものの、ダメージを最小限にすることができます」
一方、15台供給の大所帯であるGT300クラスに関しては、30号車apr GR86 GTの10番手が最上位に終わるなど下位に固まったヨコハマ勢だが、これについて白石氏は「GT300の方は、ここまで(路面温度が)低いことを読んでいませんでした。300のチームさんはどちらかというとダンプ寄りのコンディションを狙っているところが多く、水量が多く温度が上がらない状況だと厳しかったのではないかと思います」と話した。
いずれにせよ、予選キャンセルに伴い公式練習の順位が決勝スタート順となるため、GT500のヨコハマ勢は好位置からスタートすることになる。決勝レースの天気は現状読めないところだが、白石氏は「今日と同じようなコンディションが続くようであれば、期待できるのではと思っています」と頬を緩ませており、決勝に向けて注目と言える。
GT500から受け継いだパターン、どの雨量でも速さあり。ミシュランは手応え十分
“雨のミシュラン”は健在だ。昨年限りでGT500クラスでの供給を終了し、今季はGT300クラスの3台に供給するミシュランは、20号車シェイドレーシング GR86 GTがトップ、7号車Studie BMW M4が4番手、45号車PONOS FERRARI 296が5番手と全車トップ5入り。同社は今季から、昨年のGT500で圧倒的パフォーマンスを誇ったトレッドパターンを採用したが、やはりと言うべきか速さを見せた。
ミシュランの新パターン(もとい昨年までのGT500のパターン)は、その溝の入り方から、“ちょい濡れ路面に強い”という印象を持たれがちだが、その真骨頂はちょい濡れもフルウエットも強いところ。開発を率いる小田島広明モータースポーツダイレクターも、今回の結果を受けて盤石な手応えを掴んでいるようだ。
「新しいパターンの方が、どちらかというと使用できるウインドウの幅が広く持てます。ブロック(溝と溝の間にある、独立した塊)に大きさがあるので、降ったり止んだりで水量が変化してもブロックが壊れにくく、摩耗があまり進みにくいパターンになっています」
新パターン投入の経緯を、そう説明した小田島ダイレクター。公式練習の結果を踏まえ、決勝に向けて次のように語った。
「走行中止になるか際どいレベルの雨でしたが、その中でチームさんごとにいくつかのスペックを試しながら練習走行を走っていました」
「それらを試していたタイミングによって順位の差がついてしまっていますが、コンディションに合ったスペックの確認ができましたので、明日雨が降っても適切なスペックを投入できるという点で手応えがあります」
ウィークポイントがなくなってしまう……ライバルも恐れるブリヂストン勢の新タイヤ
そして最後はブリヂストン。GT500クラスでは現在8連覇中で、今季は15台中12台に供給する絶対王者だ。
そんなブリヂストンも、ウエット路面においても他を圧倒すべく、開発を続けている。これまではライバルメーカーとは対照的にダンプ路面を課題としていたブリヂストンは、昨年の開幕前テストで新たなパターンのタイヤを投入。しかしながら「水量が多い際のパフォーマンスが落ち過ぎていた。それでも他社さん対比では劣っていなかったと思っていますが、安全第一ということを考えて(BSタイヤ開発責任者 山本貴彦氏)」ということで昨シーズンの採用は見送った。そして今季ついに、同系統のパターンが正式採用された。
このタイヤについては、ライバルメーカーからも警戒する声が挙がっている。64号車Moduloの伊沢は、「BSの新しいパターンでのスピードは未知数で強そうだと感じる」と語った。
「間違いなく雨量の少ないところに合わせてきているはずなのに、雨量が多い時でも普通に走っているのが怖いです」
「F1のインターミディエイトタイヤのような溝ですよね。あのパターンを見た時に、あれで雨量が多い時は無理じゃないかと思っていましたし、逆に僕らは雨量が多い時でも意外と走れるので、チャンスがあると思っていたのですが、意外と走るじゃんって……(笑)」
ブリヂストン勢のドライバーからは、GT500、GT300共にポジティブな声が聞こえてきている。公式練習最速で、GT500クラスのポールポジションから決勝を迎える38号車KeePer CERUMO GR Supraの石浦宏明は、新タイヤの長所を次のように説明した。
「以前のパターンと比べると、水が多い時も少ない時も、全ての条件で性能が上がっています。テストで確認できていた性能を、今回改めて確認することができました」
「見た目としては、以前から開発してきたものになりますが、その中でもどんどん進化・開発を重ねてきています。明日はどんな天気になるか分かりませんが、それが威力を発揮してくれると期待しています」
このように、4メーカー全てが開発の成果をポジティブに捉えている様子。22日(日)に行なわれる決勝も完全ドライ路面でスタートとなる可能性は低く、“ウエットタイヤ戦線”の続きが見られるかもしれない。