おなじみ「ララァ・スン」、ではありますが、アニメ本編を観ている限りは、情報の少なさやその役どころも相まって、実にミステリアスな存在です。富野監督による小説に描かれたその素性は、なるほどTVではちょっと難しいものでした。
アニメ本編だけだと謎だらけの少女、ララァ。「GGG 機動戦士ガンダム ララァ・スン」(メガハウス) (C)創通・サンライズ
【はいてます?】立体化されたララァをいろんな方向からもっと眺める!(11枚)
お子様にはちと難しい「ララァ」という存在
「ガンダム」シリーズの「アムロ・レイ」と「シャア・アズナブル」を結びつけるニュータイプの少女「ララァ・スン」は、しかしながら彼女の出自や背景について、アニメ本編中では思ったよりも触れられていません。
1979年のTVアニメ版『機動戦士ガンダム』公式サイトでのララァの略歴は「孤児だったところをシャアに拾われ、フラナガン機関に育てられたニュータイプの少女」とあるだけで、彼女の出身地やシャアに拾われた時期など、その過去は分からないことだらけです。
アニメと並行して書かれた最初の小説版『機動戦士ガンダム』(著:富野由悠季/KADOKAWA)でララァは、通称「ルウム」と呼ばれる「サイド5」にある宇宙コロニーの出身と記されています。一年戦争初期にサイド5で起きた戦火に巻き込まれ、その最中に両親を亡くし、なんとか「サイド6」まで避難してきたところでシャアと出会って、「フラナガン機関」に預けられていました。
アニメ版をもとにした物語が展開される1997年の小説『密会 アムロとララァ』(著:富野由悠季/KADOKAWA)に登場するララァの素性は、小説版『ガンダム』とは異なっています。
ララァは物心ついたころからインドの都市「ディリー」にある養護院で暮らしていました。9歳で娼館「カバス」に引き取られ、養父から性や愛について書かれたインドの古典「カーマスートラ」をも引き合いに男女の愛欲について教えられます。17歳で初めて客をとり、それから月に数回「恋人」と呼ばれる男性客をとる生活を送っていました。
ザビ家の末弟「ガルマ・ザビ」を守れなかったことで、軍を追われ一時地球を流浪していたシャアも、その軍に呼び戻され任務でインドへ赴いた際に、カバスを訪れララァの客となり、そしてララァを宇宙へ誘います。ララァはその誘いこそ断ったものの、しかし今の生活に納得していたわけではなく、隙を見てカバスからの脱走を企てました。逃げるララァがカバスの雇った男たちに取り囲まれたところでシャアが現われ、そしてシャアは追っ手に金塊を渡し、身請けする形でララァを助けます。
当たり前のようにあった日常が突如奪われた小説版『ガンダム』も、衣食住は確保されていたとはいえ体を売る生活だった『密会』も、普通の暮らしというには過酷な人生を送ってきたようにも思えます。
いずれの小説版もアニメより生々しい。『密会 アムロとララァ』著:富野由悠季/イラスト:NOCCHI (KADOKAWA)
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お子様にはさらに難しい『密会』のララァ
アニメでララァが初登場したのは、物語が終盤を迎える頃です。宇宙コロニー「サイド6」にて休暇をとっていたアムロが、とっさに雨宿りのために入った湖畔のコテージで彼女と出会いました。その後、車が脱輪したアムロを、同じく車で通りがかったシャアとララァが助けています。
『密会』でも同様の邂逅(かいこう)を果たすものの、アムロはコロニーを出発するまでの間にララァと再会し、道中で助けられたお礼をしています。お互いに敵という立場をわきまえつつ、それでもアムロは人間性の面でララァに好意を抱いていました。
過去ではなく現在と将来を見つめる純粋さや、戦っている相手を傷つけることに心を痛める優しさを持つアムロに対し、ララアの印象もまた悪くないものです。最大の問題はララァがすでにシャアへ想いを寄せてしまっていたことで、アムロはララァが言うとおり「あなたが来るのが、遅過ぎた」のかもしれません。
『密会』でのララァは、シャアに対し幸せや愛情を感じつつも、過去の「恋人」と同じように、彼が喜ぶ反応を選ぼうとする素振りを見せます。ララァの人間性を見ながらも、彼女へ男性としての衝動を感じていたアムロに対しても同様です。
映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で、アムロと言い争った末にシャアは「ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ」と言い放っています。もしかしたらそれも、「すべてを受け入れる」生き方しか知らなかったララァが、シャアに対してもそのように接してきた結果なのかもしれません。