メディアミックスで話題となった『機動警察パトレイバー』は、OVAとコミック、映画とさまざまなメディアに進出しましたが、その中でも最長話数を誇るのがTVシリーズです。押井守さんが手掛けたOVAや映画が印象強い中、実はTV版こそが『パトレイバー』が目指したひとつの理想形ではないでしょうか。



本作の主役機、98式AV「イングラム」。『機動警察パトレイバー ON TELEVISION』第01話「イングラム起動」より (C)HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TFC

【画像】不気味! こちらがTV版にしか登場しない無人レイバー「ファントム」です!(5枚)

メディアミックスが生んだ『機動警察パトレイバー』

 さまざまなジャンルの相互作用を経て世界観を広げていく「メディアミックス」、2024年現在のこんにちでは当たり前の手法ながら、1988年、OVAを中心に人気を博したひとつの作品がありました。それが『機動警察パトレイバー』です。

 作品は、汎用人間型作業機械「レイバー」が普及した近未来の東京を舞台に、警察用パトロールレイバー「98式AV」、通称「イングラム」と特車二課の活躍を描いたロボットアニメです。まずは全6話からなるOVAと、「週刊少年サンデー」誌上でのマンガ版の同時展開からスタートを切り、劇場版アニメ3作、TVアニメ、さらにゲームや小説などさまざまなメディアに波及、近年では2016年に10分弱の短編アニメ『機動警察パトレイバーREBOOT』が発表されたほか、翌2017年には新プロジェクト『PATLABOR EZY(仮)』が立ち上がるなど、今なおファンの注目を集めています。

 本作は「マンガ原作のアニメ化」ではない点も特徴です。映像化を前提に原作を立ち上げ、マンガ化されたケースは過去にも、石ノ森章太郎さんの『仮面ライダー』や、永井豪さんの『デビルマン』『マジンガ―Z』などがありました。『パトレイバー』では、この作品のために結成された「ヘッドギア」が原作チームとしてクレジットされています。

 そのメンバーはマンガ家のゆうきまさみさん、現在では監督としても活躍するメカニックデザイナーの出渕裕さん、脚本家の伊藤和典さん、キャラクターデザイナーの高田明美さん、そしてアニメ『うる星やつら』で注目を集めた監督の押井守さんの5名で、いずれも当時は若手ながらも、気鋭のクリエイター集団によるオリジナル企画ということもあり、これもまた話題のひとつとなりました。

一話完結形式の『パトレイバー』の魅力

 さて、世界観や設定を共有しつつも、いわゆるコミカライズではなく、独自の展開を見せたマンガ版のゆうきまさみさんに対して、OVAで個性を色濃く打ち出したのが監督の押井守さんです。現在「アーリーデイズ」と呼ばれている初期OVA6部作を手掛けた後も、劇場版2作、さらには田口清隆さん、辻本貴則さんら後に「ウルトラマン」シリーズで活躍する若手監督を起用しつつ、総監督を務めた実写版『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』など、『パトレイバー』といえば「押井守作品」として認識しているファンも多いのではないでしょうか。

 ただし、押井さんが手がけたOVAはロボットアニメでありながらも、イングラムの活躍は限定的でした。その裏には当時のOVAとしては異例の、4800円という低価格を目指した事情もありました。結果、大ヒットを記録してさまざまな展開に繋がるわけですが、内容面については押井さん自身も「レイバー犯罪が全然登場していないのは、まずいのではないかというのも確かだとは考えています」(「少年サンデーグラフィックブック 機動警察パトレイバー」小学館)と認めています。

 作品自体は当時のOVAとしては珍しく、『ドラえもん』や『サザエさん』、『ちびまる子ちゃん』のような一話完結形式であり、アイキャッチやAXIAのカセットテープのCMを挟むなど、TV的なフォーマットで作られていました。しかしながら、話数が少ない上に、番外編的な内容が多く、「もっと他のエピソードが観たい!」と思った人も少なくなかったでしょう。そのようななか、押井監督の劇場版『機動警察パトレイバー the Movie』を経て登場したのが、TVシリーズ『機動警察パトレイバー ON TELEVISION』です。



劇中最強のレイバーと目される「黒いレイバー」こと「グリフォン」。『機動警察パトレイバー ON TELEVISION』第34話「城門の戦い」より (C)HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TFC

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本来目指していたのは『ON TELEVISION』か

 TVアニメ版の制作は、それまでのOVAや劇場版を担当していたスタジオディーンから、『機動戦士ガンダム』などで知られるサンライズ(※クレジットは製作協力)となり、監督は押井守さんではなく、アーリーデイズと『the Movie』の間にリリースされたOVA第7巻「特車隊、北へ!」を手掛けた吉永尚之さんが就任しました。

『ON TELEVISION』は、一話完結形式をメインにした、バラエティあふれる全47話のエピソードからなります。元々TVシリーズを想定して企画されていただけに、これがハマらないわけがありません。

 旧式レイバーで奮闘する第1小隊に焦点を当てた「栄光の97式改」(第7話)、短気で粗暴な太田巡査の繊細な一面が垣間見えるお見合い回「太田惑いの午後」(第12話)、爆破テロ処理のさなか、謎の巨大怪物と遭遇する「ジオフロントの影」(第19話)など、毎回手を変え品を変え、視聴者を飽きさせないエピソードが続出しました。また「週刊少年サンデー」の連載ではなく、アニメ誌の「ニュータイプ」に掲載された読み切りコミックも「魔の山へ行けっ!」(第4話)として映像化されています。

 そして何よりレイバーの活躍を存分に堪能できるのが、『ON TELEVISION』の大きな見どころのひとつです。第1話「イングラム起動」では、劇中でも初登場となるイングラムが3体のレイバーを相手に大立ち回りを繰り広げ、中でもイングラムがシールドから電磁警棒を引き抜くカットは、以降の回でもバンクとして度々使用され、イングラムのスタイリッシュなイメージを伝える象徴的なカットとなりました。

 毎回登場するレイバーも作業用、試作機、軍用、コレクター仕様と実にさまざまです。なかでも「イヴの罠」&「イヴの戦慄」(第10&11話)、「黒い胎動」&「亡霊ふたたび」(第20&21話)は、レイバー戦に力が入れられた人気エピソードで、一連の4話に登場した試作型無人レイバー「ファントム」は、映像作品ではTVシリーズが唯一の登場ながらも、出渕裕さんによる傑作デザインの1体だと思います。

 2クール目からは、米国に帰国した「香貫花(かぬか)・クランシー」に代わって「熊耳武緒」が登場し、マンガ版の展開がスライドします。そうして「グリフォン編」が第28、29話および第30話から第35話にて一連のエピソードとして映像化される一方、終盤は第1小隊への新型レイバー導入を伏線として散りばめつつも、あくまで「一話完結形式」にのっとり、特撮もののパロディ「CLATよ永遠に」(第44話)など、多彩なエピソードの数々で、およそ1年にわたって多くのファンを楽しませてくれました。

押井守さんは脚本として参加

 なお、それまで監督を務めていた押井守さんは、『ON TELEVISION』には脚本家として参加しており、ソ連製レイバーとテロリストの暗躍を描いた「上陸赤いレイバー」(第9話)、二課と整備班の面々の昼飯騒動を意外なオチで見せた「特車二課壊滅す!」(第29話)、地下通路で白いワニに襲われるドタバタコメディ「地下迷宮物件」(第38話)など、5本のエピソードで執筆して個性を発揮、TVシリーズならではのバラエティ感に貢献しています。

 このうち、第9話(+『NEW OVA』第13話)と第38話は、それぞれ実写版『THE NEXT GENERATION』の第9話「クロコダイル・ダンジョン」、第10話「暴走! 赤いレイバー」、としてリメイクされており、観比べてみるのも面白いかもしれません(監督はいずれも田口清隆さん)。

 この『ON TELEVISION』の人気を受けて、スタッフが続投する形で最終回の直接の続編となる「NEW OVA」シリーズ全16話がリリースされました。合計すると全63話にも上るエピソードが作られたこととなります。変化球のOVAに端を発して、本来目指していた『パトレイバー』の在り方にようやくたどり着いたといえるのではないでしょうか。

 現在、OVAや劇場版ともども『ON TELEVISION』もまたU-NEXTなどの配信で容易に観られる環境が整っています。本数が多い分、それだけの満腹感が得られるはずです。是非この機会にその魅力をとくと味わってもらえればと思います。