教育費が重く子どもを作れない社会
高等教育の無償化ないし負担軽減自体は悪くはない。だが、欧州において広く行われている大学学費の無償化や給付型奨学金と比べると、いかにも形だけの拡充策にすぎない。たとえば、3人以上の多子世帯でも、大学に進学しているのが1人だけではもらえず、子どもが同時に大学に進学していないと適用されない。さらに、出世払い制度(授業料後払い制度)や貸与型奨学金返還額における減額制度の年収要件等の柔軟化などは、極めて矮小で大きな効果を期待できない。
どう見ても、政府の予算の優先順位がおかしい。防衛費は世界3位になろうとするが、2019年時点でOECD(経済協力開発機構)の一般政府総支出に占める公的教育支出の割合を見ると、42カ国中、日本は下から5番目になっている。
経済効果を正確に計って比較することはできないが、一般的に軍事費は消耗的であり、生産に寄与する程度は低い。教育も目に見えるわけではないが、技術開発や労働者の知識や技能への寄与度が大きい。資源のない日本にとって教育は極めて重要であり、もっと政府支出を増やさなければならない。
一方、教育費を負担する側から見ると、教育費の私的負担が重すぎて、子どもを産み育てることができない。日本では高校から私立大学の理系学部に入れると、1000万円を超える費用がかかるという調査がある(日本政策金融公庫の令和3年度「教育費負担の実態調査結果」2021年12月20日)。
これでは、教育費が重く子どもを作れないだろう。以上のように、教育が持つ経済効果と教育を受ける側の経済効果という両面から見て、給食費無償化はもちろん、高校・大学まで学費無償化ないし給付型奨学金の飛躍的拡大が最優先の課題となっている。
文/ 金子勝
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『裏金国家 日本を覆う「2015年体制」の呪縛』(朝日新聞出版)
金子勝
2024年9月13日957円(税込)256ページISBN: 978-4022952783
総裁の「顔」を変えたところで、自民党の根っこは何も変わらない――。
腐敗・衰退著しい日本の根本要因を徹底検証した、渾身の作。
長年にわたって「裏金」をばらまき、都合の悪い言論を封殺し、
縁故主義による仲間内資本主義がはびこる日本社会。
民主主義を破壊し、国際競争力を低下させた背景にある「2015年体制」の正体とは。
さらに、情報通信やエネルギー転換など、先端産業分野から取り残され、国民生活をどんどん貧しくしていく日本経済の構造的問題、そして迫りくる“カタストロフ”とは。
世襲支配、円安バブル、脱税と隠蔽、軍事費の増額……負のらせん状階段を下り続ける、この国の悪弊を断つ。
■目次
第1章 「2015年体制」というディストピア
第1節 日本政治の腐った根っこ
第2節 「2015年体制」とは何か
第3節 世襲という病
第2章 自浄能力なき隠蔽国家――腐敗が止まらない仕組み
第1節 検 察の権力チェック機能も自民党の自浄能力も期待できない
第2節 国会審議で明らかになったことは何か
第3節 自民党内のアリバイ的処分と法改正
第4節 政治資金規正法改正の自民党案の欺瞞性
第3章 裏金国家――国が腐るとはどういうことか
第1節 「惨事」便乗型資本主義
第2節 「国家的」な裏金作り
第3節 円安インフレと防衛費膨張の悪循環
第4節 投機マネーに狙われる国
第5節 ずるずるとした滅び
第4章 裏金国家の経済政策――仲間内資本主義日本
第1節 プーチン型権力を目指す
第2節 リフレ派とMMTが日本経済を滅ぼす
第3節 政府の産業政策が衰退を加速させる
第5章 ディストピアから脱する道――裏金を提供する者のためでなく困っている者のための政治へ
第1節 政権交代が必須
第2節 円安インフレと格差拡大を防ぐ
第3節 防衛費膨張を止めてイノベーティブ福祉国家へ
第4節 地方衰退を食い止める
第5節 いかにして少子化を食い止めるか