アジアゾウは子ゾウの死体を埋葬する / Credit:Canva

私たち人間にとって、家族や友人の死は人生の中で最も悲しい出来事の1つです。

そして私たちは、そんな大切な人の死を悼み、たくさんの思い出を胸に抱きながら埋葬します。

こうした「仲間の死を悼み、埋葬する」といった習慣は、もしかしたら人間だけのものではないかもしれません。

最近、インド森林局(Indian Forest Service)に所属するパルヴィーン・カスワン氏ら研究チームは、アジアゾウが死んだ子ゾウを土の中に埋葬すると報告しました。

研究の詳細は、2024年2月26日付の科学誌『Journal of Threatened Taxa』に掲載されました。

目次

「仲間の死を嘆く」ような行動を取る動物たちアジアゾウは群れの子ゾウを埋葬すると判明

「仲間の死を嘆く」ような行動を取る動物たち


「人の死を悼み、埋葬する」のは人間だけなのか。 / Credit:Canva

人間には、はるか昔から「亡くなった人を埋葬する」習慣があります。

これには、死を理解すること、死を嘆き悲しむこと、死後を考えること(多くの場合、宗教的な背景に基づく)、また衛生面での理解などが関わってきます。

これらの思考には高い知的能力が必要なため、埋葬の習慣が広く見られるのは主に人間だけです。

では動物たちは、仲間の死に対して何も感じないのでしょうか。

これまでの研究や観察によると、様々な動物たちが、「仲間の死を悲しむような行動を取る」ことが分かっています。

例えば、自分の家族を亡くしたイヌは、健康体にも関わらず、エサを食べなくなったり、遊ばなくなったりすると報告されています。

また、あるメスのシャチは、死んでしまった子シャチを17日間も押しながら泳ぎました。

確かにこうした動物たちの行動は、仲間の死にショックを受けたり悲しんでいるように見えます。

しかし、これらは仲間の死に反応はしているものの、人間が行う葬儀のような死者を弔う行動とは異なります。


ゾウには、死を嘆き悲しむような行動が見られる / Credit:Canva

これに対してゾウ達は、仲間の死にかなり印象的な行動を見せます。

例えばアフリカゾウ(学名:Loxodonta africana)は、亡くなった家族の顎の骨を持ち歩いたり、死体の近くに集まって長時間沈黙したりします。

またアジアゾウ(学名:Elephas maximus)も、死体の周りを飾るように枝や木、葉を集めたり、死体の周りを歩き回ったりするようです。

これらゾウの行動は、人間の葬儀や死者を悼む行為との類似点を感じさせます。

そして最近、カスワン氏ら研究チームによって、さらに興味深いゾウの行動が報告されました。

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アジアゾウは群れの子ゾウを埋葬すると判明

最近、カワスン氏ら研究チームは、2022~2023年の間にインドのベンガル地方北部で発見されたアジアゾウの「ある行動」を報告しました。

なんと、アジアゾウたちは、死んだ子ゾウを土の中に埋葬していたのです。


埋葬された子ゾウ / Credit:West Bengal Forest Department_Journal of Threatened Taxa(2024)

子ゾウの埋葬が発見されたのは合計5件であり、子ゾウの死因に関係なく、いずれも土の中に埋められていました。

ある例では、ゾウの群れが、埋められた子ゾウの周りで咆哮していました。

研究チームは、いずれのケースにおいても「人間の介入は無かった」と報告しています。

埋葬された子ゾウは、そのすべてが生後3カ月~1年の間に多臓器不全で死亡していたことが確認されています。

ではゾウ達は、どのように子ゾウを埋葬したのでしょうか。


子ゾウの死体を引きずって移動させている様子 / Credit:West Bengal Forest Department_Journal of Threatened Taxa(2024)

報告書によると、子ゾウの死体のふくらはぎには打撲傷と引きずられた跡があったようです。

このことから子ゾウの死体は、埋葬される前に胴体と脚を引きずられて運ばれたと考えられます。

そしてその死体は、足を上に向けて、頭と胴体を優先するような体勢で、慎重に埋葬されました。

研究チームは、この理由を「子ゾウの死体を肉食動物から守るため」と述べています。

またこの研究では、埋葬のために運ばれるのは子ゾウだけであることも判明しました。

体重の重い大人のゾウの死体を運ぶことは現実的ではないのでしょう。


胴体と頭が優先的に埋められる。 / Credit:West Bengal Forest Department_Journal of Threatened Taxa(2024)

ゾウ達は、人間の居住地から数百メートル離れた茶畑の用水路に死体を埋めており、その埋葬地の周囲には15~20頭のゾウの足跡がはっきりと残っていました。

また5つのケースすべてにおいて、ゾウの群れは埋葬後40分以内に現場を離れました。

しかもその後は、その地域に戻ることを避け、移動には別のルートを選択することも分かりました。

ちなみに、「アフリカゾウによる子ゾウの埋葬」は以前に確認されていたものの、これに関する研究はまだわずかです。

そしてアジアゾウにおいては未解明のままでした。

そのため今回の研究は、アジアゾウの埋葬について学術的に記録された最初の例とされています。


ゾウは仲間の死に面して何を思うのか / Credit:Canva

アジアゾウが、子ゾウの死に面して咆哮すること、子ゾウを運んで埋葬すること、その埋葬地とは別の移動ルートを選択すること、それぞれにどのような意味があるのか正確に知ることはできません。

それでもこれらは、家族や友の死を悼み、埋葬するという私たち人間から見ても十分に葬儀と呼べる行動です。

動物たちの心を推し量ることは困難ですが、死に対して葬儀と呼べそうな宗教的な要素も含む行動をゾウが見せるのは、非常に興味深いものです。

参考文献

Asian elephants mourn, bury their dead calves: Study
https://phys.org/news/2024-03-asian-elephants-dead-calves.html

Grieving Giants: Indian Study Reveals Asian Elephants’ Unique Burial Rituals for Deceased Calves
https://www.sciencetimes.com/articles/49011/20240301/grieving-giants-indian-study-reveals-asian-elephants-unique-burial-rituals.htm

Do animals grieve?
https://www.livescience.com/do-animals-grieve

元論文

Unearthing calf burials among Asian Elephants Elephas maximus Linnaeus, 1758 (Mammalia: Proboscidea: Elephantidae) in northern Bengal, India
https://doi.org/10.11609/jott.8826.16.2.24615-24629

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。