太陽系外惑星WASP-76bの「グローリーエフェクト」の想像図 / Credit:ESA

地球から640光年離れたところには、太陽系外惑星「WASP-76b」が存在します。

このWASP-76bは、昼側と夜側の温度差が1000℃以上ある「過酷な惑星」として知られており、科学者たちの関心を集めていました。

そんな太陽系外惑星で、新たな現象が確認されました。

ポルトガルのポルト大学(University of Porto)に所属するオリビエ・デマンジョン氏ら研究チームが、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ケオプス」のデータを用いて、WASP-76bに「グローリーエフェクト(glory effect)」と呼ばれる色鮮やかな光輪の兆候を発見したのです。

このような現象は、これまでに地球か金星でしか発見されたことがなく、発生のための大気条件が限られています。

もし今回の発見が本当に「グローリーエフェクト」であれば、はるか遠い太陽系外惑星の大気について、より深い理解が得られることになります。

研究の詳細は、2024年4月5日付の科学誌『Astronomy & Astrophysics』に掲載されました。

目次

鉄の雨が降る太陽系外惑星「WASP-76b」過酷な太陽系外惑星で色鮮やかな光輪が発生か!?

鉄の雨が降る太陽系外惑星「WASP-76b」

太陽系外惑星「WASP-76b」は、うお座の方向に約640光年離れた位置にある恒星「WASP-76」を公転する惑星として2013年に発見されました。

質量は木星よりもやや小さいガス惑星であり、太陽の1.5倍ほどの重さがある主星を約1.8日で一周しています。

しかも主星からWASP-76bまでの距離はわずか500万kmであり、太陽から地球までの30分の1しかありません。

このような非常に主星に近い場所を回るガス惑星をホット・ジュピターと呼びます。

主星に非常に近いことから、この惑星の平均気温は2000℃近くあり、金属さえが溶けて雲になっているといいます。

またWASP-76bは主星の重力がもたらす潮汐力により、自転周期と公転周期が等しくなっており、常に同じ面を主星に向けています。

(このような現象は「潮汐ロック」といい、月がいつも同じ面を地球に向けているのも、同様の現象から来ています)


太陽系外惑星「WASP-76b」では鉄の雨が降る。想像図 / Credit:ESO/M. Kornmesser/L. Calçada_First ‘glory’ on hellish distant world?(ESA)

そしてこの現象が起きると、惑星上には永遠に昼の地域と、夜の地域が発生します。

WASP-76bでは、主星に絶えず照らされる「昼側(2400℃以上)」と、まったく照らされることのない「夜側(約1500℃)」に分かれており、その温度差は1000℃近くもあるのです。

この極端な温度差は、昼側から夜側へと流れる猛烈な風を発生させており、高温の昼側にある鉄の蒸気が比較的低温の夜側に向かって運ばれていき、境界を越えて凝縮。

WASP-76bの夜側では、鉄の雨が降り注いでいる可能性があるようです。

このような「過酷な惑星」にて、今回新たな発見がありました。

昼側と夜側の境界線で、色鮮やかな光輪が生じた可能性があるのです。

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過酷な太陽系外惑星で色鮮やかな光輪が発生か!?


太陽系外惑星WASP-76bの「グローリーエフェクト」の想像図。色鮮やかな光輪が発生した可能性がある / Credit:ESA

科学者たちが、ESAの宇宙望遠鏡CHEOPS(ケオプス)が収集したデータを確認したところ、太陽系外惑星「WASP-76b」の昼側と夜側の境界で、異常な明るさを発見しました。

研究チームの1人、ポルトガルのポルト大学(University of Porto)に所属するオリビエ・デマンジョン氏は、次のように述べています。

「太陽系外惑星の明るさに、これほど急激な変化が検出されたのは初めてです。

そして、この予期せぬ輝きは、強力で局所的かつ異方性の反射、つまりブロッケン現象(glory effect)によって引き起こされた可能性がある、との仮説を立てました」

ブロッケン現象は虹のような光輪が生じる現象をいいますが、虹とブロッケン現象は発生原理が異なります。

虹ができるのは、ある密度の空間を進む太陽光が別の密度の空間(例えば空気から水など)に入った時に起きる屈折が原因で生じます。

この光が曲がる角度は、光の波長によって異なります。光の色は光の波長で決まっているため、このとき光は色の成分ごとに分解された状態になり、これが我々には虹に見えるのです。


光を波長で分解するプリズム / Credit:canva

雨で虹が見えるのは、雨粒の中で光がこの屈折を起こしているためです。

一方、ブロッケン現象は、屈折ではなく反射に近い現象です。

地球上で起きるブロッケン現象は、自分の後ろから指している日光が雲や霧に当たったとき、虹色の光輪のように見える現象を指します。

光が単純に何かに当たって戻って来る場合、これを反射と呼びますが、ブロッケン現象では霧などの細かな粒子に当たった光が、屈折と似たような原理で、光の波長ごとに分裂して戻ってきます。

こうした現象は反射とは区別されていて、後方散乱と呼ばれます。

これは観察者からの距離と視線の角度によって異なる色の光が戻ってくる状態になるため、虹色のリングが生じているように見えるのです。


ブロッケン現象は自分の背後から来た光が後方散乱を起こすことで生じる / Credit:ブロッケン現象の原理 – コックちゃん

このブロッケン現象と呼ばれる色鮮やかな光輪現象は、地球上では飛行機に乗っているときに稀に見られることがあり、特にドイツのブロッケン山でよく見られたため、この名で呼ばれています。そして、地球以外では金星で1度確認されただけです。


金星(左)と地球(右)のグローリーエフェクトのシミュレーション画像 / Credit:C. Wilson/P. Laven_First ‘glory’ on hellish distant world?(ESA)

地球でも大気と太陽光の関係で見る条件が難しいこの現象が、太陽系外惑星で確認されたとなると、これは非常に珍しい発見となります。

デマンジョン氏は次のように説明します。

「太陽系外でこれまでブロッケン現象が見られなかったのには理由があります。

非常に特殊な条件が必要だからです。

まず、大気中の粒子は完璧に近い球形、また完全に均一で、長期にわたって観測できるほど安定している必要があります。

また惑星の近くにある恒星が直接惑星を照らし、観測者(ここではケオプス)がちょうどよい方向からこれを見ている必要があるのです」

そのため、WASP-76bで観測された明るさの変化が、本当にブロッケン現象であるなら、太陽系外惑星の上層大気の組成について、新たな情報が得られたことになります。

「鉄の雨が降る過酷な惑星で、上記のような大気の安定性がある」ことになるのですね。

とはいえ、検出された信号は微弱であり、今回の仮説が正しいと断言するには、さらなる研究が必要になります。

それでも、「このように色鮮やかな光輪が太陽系外惑星で見られるかもしれない」という可能性は非常に興味深いトピックであり、デマンジョン氏も「この特徴がデータから現れた時は、特別な満足感があった」と締めくくっています。

参考文献

First ‘glory’ on hellish distant world?
https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Cheops/First_glory_on_hellish_distant_world

Unexpected Phenomenon Detected in The Sky of a Very Alien World
https://www.sciencealert.com/unexpected-phenomenon-detected-in-the-sky-of-a-very-alien-world

元論文

Asymmetry in the atmosphere of the ultra-hot Jupiter WASP-76 b
https://doi.org/10.1051/0004-6361/202348270

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。