今季のスーパーGTは、9月1日決勝の予定だった第5戦鈴鹿が台風接近の影響で延期に。それに伴い、第6戦SUGOが後半戦最初のレースとなった。SUGO戦のレースウィークに行なわれたシリーズプロモーターのGTアソシエイション(GTA)による定例会見でも、その話題が中心となった。
スーパーGTに限らず多くの自動車レースイベントでは、荒天が予想される場合でも開催できる可能性を探るため、イベント当日まで開催可否の判断が保留されることも多い。しかし鈴鹿戦の週末に接近していた台風は非常に強い勢力を保っていたため、関係者やファンの移動に支障をきたす可能性が非常に高く、GTAは主催者のモビリティランドと協議の上、水曜の段階で同週末の開催中止&延期を決定した。
異例の早いタイミングでの決断となった理由について、「釣り人としての豊富な経験と鋭い勘の下で、水曜日に中止を決定しました。波と、潮と、風」と開口一番に語り会見場を沸かせた坂東代表。続けてこう語った。
「水曜日の時点で東名高速道路が通行止めで、トレーラーは木曜の設営に向けて中央道に迂回しているような状態でした。見通しとしてあまり良くない状態だったので、早めの決断ができたのは良かったと思います」
「そこから、延期という策を考えられるかということで、水曜のうちに鈴鹿に提案したところ、開催できる日程の候補がいくつか出てきました。他のカテゴリーも当然あるので、日程移動などでご迷惑をおかけしてしまうのですが、各所と連絡をとりながら決定しました」
関係者の迅速な対応により、開催中止と12月7日〜8日への延期が決まった9月の鈴鹿ラウンド。坂東代表は安堵したのも束の間、大きな懸念事項があることを思い出した。
「『やばい、寒いわ』と思ったところが正直なところです」
気温が低くなると空気密度が高くなるため、エンジンパワーは上昇し、さらに空気の流れを利用するダウンフォースの量も多くなる。そのためラップタイムは当然上がる傾向となり、昨年3月に行なわれたシーズンオフテストでは、当時ARTAの大湯都史樹がGT500の公式コースレコードよりも1.5秒速い1分42秒630をマークしたことが一部で話題となった。
坂東代表はかねてより、スーパーGTにおける速度上昇への懸念を明らかにしていた。そして今季は安全性向上に向けたコーナリングスピード抑制策として、GT500では最低地上高引き上げ、GT300では追加重量設定が講じられた。
ただその一方で、特にGT300クラスのチームやタイヤメーカーからは、レーシングカーながら車種によっては市販車よりも重くなってしまっている現状に対して不満の声が挙がっており、SUGOのレースウィーク中も「これ以上の重量追加は避けるべき」というコメントが複数聞かれた。12月の鈴鹿大会はサクセスウエイトが撤廃されるため現状よりは幾分か楽になるチームも出てくるだろうが、GTAはその鈴鹿大会でさらなる追加重要などの対策を講じることは考えているのかと問うと、坂東代表は次のように答えた。
「最終的にはテクニカル部会やスポーツ部会で決めてもらうことになりますが、個人的にはない。GT500もやるとしたら燃リス(燃料流量リストリクター)になるでしょうし。いずれにしても、もう少しデータを集めてからになると思います」
また、真冬のレースとなると、各車タイヤのウォームアップにかなり苦労することになるのは間違いないだろう。そのため、通常のレギュレーションでは禁止されている「機材を用いたタイヤの加熱・保温」、つまりタイヤウォーマー使用の解禁があるのかどうかも気になるところだ。
このタイヤウォーマーに関しては、コロナ禍の2020年にスーパーフォーミュラのレースが12月開催にずれ込んだ際、使用が解禁されたという事例がある。その際各チームは、F1で見られるようなタイヤを包み込むブランケット型のウォーマーではなく、テントのようなものに格納したタイヤをジェットヒーターなどで温めるという形式の設備を使用した。
これらの装置は冬に行なわれるGT500のメーカーテストで使用されることもあるため、motorsport.comがGTAやチーム、メーカーの関係者に話を聞くところによると、GT500に関してはほとんど全てのチームがウォーマー設備を所有している模様。一方でGT300は半数のチームがこういった設備を持ち合わせていないという話もあるため、この点が使用解禁にあたってのネックとなる可能性もある。
タイヤウォーマーを含めた上記の対策についてはテクニカル部会で既に協議中。今後スポーツ部会での協議が行なわれた後、最終的にはGTA取締役会で決定が下され、特別規則の追加などがある場合は公示が行なわれる。
ただ坂東代表個人としては、タイヤウォーマーは使わない方向を望んでいるようだ。というのも、全てのチームがイコールコンディションの中で難しいシチュエーションを乗り切った先に、スポーツとしての面白さがあると考えているのだ。
「ウォーマーを使ってもっとタイムを出したいという話に関しては、イコールコンディションの下で、それなり(ウォーマーがないなり)のタイムでいけばいいと思っているので、私的にはないかなと思っています」
「(ウォーマーなしは)やる方は大変ですが、見ているお客さんは面白いと思う。より多くのお客さんに興味を持ってもらうためには、そこが重要なことだと考えます」
「おっかないものに関しては怖さも感じますが、それを乗り越えれば、ファンの人はその技術力や技量を見て、『面白い、楽しい』と思ってくれるのではないでしょうか」
「それに伴ってクラッシュもあるかもしれない。当然、安全性は重要ですが、ドキドキしながら、その局面を乗り切る姿もひとつ(の魅力)であり、そこにモータースポーツの面白さがあります」