インド洋の島国スリランカでは9月21、22両日にスリランカ大統領選が行なわれ、左派野党・人民解放戦線のアヌラ・ディサナヤケ氏が現職を破り、政権交代が実現。2022年の財政破綻後初となる戦いに国民は熱中した。日本とはひと味ちがった選挙ウィークの様子を現地からリポートする。
国民は「結婚もできない」「将来が見えなくて涙が出てくる」
日中の投票が終わり、開票が始まった9月21日の夜、警察当局からスリランカ全土に「夜間外出禁止令」が出された。
これは午後10時から発令され、のちに延長の発表があり、翌22日正午まで続いた。週末のアルコール販売も禁止となり、選挙終了後1週間はデモ行為を厳しく取り締まるなど、選挙結果に対する暴動に備え、厳戒態勢が敷かれている。
そんな状況下で、国民はテレビ中継やインターネット配信で選挙戦の行方を見守った。
南西海岸の街ベールワラに住むホテル勤務のトニーさん(46歳)は、自宅でテレビの開票速報をウォッチ。妻と母に加え、友人夫婦も招き、夜通し続くテレビの開票速報に釘付けになった。
「景気はよくないのに物価がどんどん上がっている。増税もあって、食べ物もガソリンも輸入品も、すべてが本当に高くなって、多くの人々が困っている。だから俺はスリランカに新しい大統領が必要だと思うんだ」
トニーさんはそう話して現状をなげく。彼は、妻と共働きで、ふたりの息子を育てている。
一方、ツアーガイドの男性(32歳)もスリランカの経済状況にため息をつく。投票済みを示す左手小指の黒いインクを見せながら、こう話す。
「政治家たちは『今度やる、今度やる』と言っても、言葉だけで全然動かない。稼ぎはよくならなくて、今日の暮らしで精一杯。インドからの輸入品のトゥクトゥクがすごく高くなっていて自分のものは買えない。客から依頼をもらったら、そのたびに知人から借りなきゃいけないんだ」
さらに男性は、続ける。
「将来が見えなくて、夜寝るときに、ときどき涙が出てくる。結婚も考えられない。結婚するなら海外へ行ってしたいと思っているよ。たとえば日本に行けたらいいなって。とはいえ僕の人生はもう半分終わっているから、スリランカの子どもたちの未来のほうが大切だ。十分な食事ができない子どもたちもいる。僕には甥っ子もいるんだ。未来をたくせると思う候補者を選んだよ」
スリランカは2022年、深刻な経済危機に直面し、事実上のデフォルト(債務不履行)に陥った。そうしたなか、現職のラ二ル・ウィクラマシンハ氏が進める経済対応策が今回の選挙の大きな争点になったが、増税を含めた緊縮政策などに対する国民の不満は大きく、結果的に野党候補ふたりの決戦になった。
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投票のため多くの有権者が仕事を休んで地元に帰省
とはいえ前出のトニーさんたちは、テレビを見ながら、ひたすらに険しい表情を浮かべていたわけではない。朝方までテレビ中継を流しながら、ときに食事やカラオケを楽しんだり、友人とビデオ通話をしたりしていた。そしてまた各地区の開票結果が発表されると、テレビの前へ戻って状況を確認していた。
彼らは一部の選挙好きというわけではない。医師をしている高齢の女性は「スリランカでは家族や友だちと一緒に選挙の番組を見るのが一般的なんです。ちょっと特別な料理をつくったり、うちではケーキを焼きます」と説明し、明るい笑顔を見せる。
筆者が宿泊しているホテルの男性スタッフも「トゥモロー、ニュープレジデント!」と興奮した様子で言い、仕事の休憩中にはスマートフォンでライブ中継に見入っていた。
投票に向けては、多くの有権者が仕事を休んで地元に帰る。最大都市コロンボのバスターミナルでは“選挙帰省ラッシュ”となり、地元紙がその様子を報じていた。
このように多くの国民が注目する選挙は、企業にとってプロモーションのチャンスだ。テレビの速報番組は、エンタメ要素たっぷりに迫力を持って演出され、合間にはCMが次々に流れる。新聞を見れば、選挙にからめた文言とともにテレビや洗濯機などの宣伝広告が多数、掲載されるなど、まさにお祭りムードだ。