〈自民党選挙裏金疑惑〉「陣中見舞いだったと思う」自民党・甘利氏が河井夫妻への100万円の“裏金”提供を認めた! 裏付けられた“河井メモ”の信ぴょう性

2019年、自民党の衆院議員だった河井克行が妻である案里の参院選出馬に際し、地元の議員らに現金を自ら配って回った買収事件。ともに公職選挙法違反の疑いで逮捕され有罪となったが、克行氏が自宅に残した一枚のメモをきっかけに再びその事件が動き出すことになる。

自民党の裏金問題を追及する中国新聞取材班はメモをもとに甘利明衆議院議員に取材を試みた。『ばらまき 選挙と裏金』より一部抜粋・再構成してお届けする。

なんとハードルの高い取材になることか

河野(中国新聞の記者)が東京入りしたのは2023年9月6日の午後だった。荒木から事前に電話があり、メモに書かれていた菅、二階、甘利の3人に直撃する役目を担うことになっていた。「なんとハードルの高い取材になることか」。羽田空港に向かう飛行機内ではあまり希望を持っていなかった。

東京支社時代の経験から言って、多忙な国会議員に直接取材するのは簡単ではないと分かっていた。普段から出入りしている顔なじみの記者でなければ、事務所に面会の約束を取ろうとしてもなかなか取れない。

まして菅、二階、甘利はいずれも大物といっていい国会議員だ。会合の前後でつかまえられたとしても、「1対1」になれる場面をつくるのは困難が予想され、メモの存在と現金提供の事実を確認することは至難の業だと思っていた。「この取材は駄目元であり、取材できなくて当然」と考えると、逆に気が楽になっていた。

飛行機が羽田空港に着くと、国会記者会館にある記者室に向かった。そこには東京支社の中川が険しい表情で待っていた。明日から一緒に菅、二階、甘利への直接取材を試みることになるメンバーだ。中川もきっと河野と同じことを感じていたのだろう。「どうすればいいのだろう」。ため息をつきながらも、どこかわくわくした感情がわいていた。

国会では1月から6月にかけて通常国会が開かれる。予算案や法案の審議のため、国会議員が本会議や委員会に出席している。この通常国会が終わると、多くの国会議員が地元に帰り、国会にあまり姿を見せなくなる。9月上旬は国会議員会館の各議員の事務所には秘書がいるだけで、議員がいないことが多い。

故人となっている安倍を除き、メモに書かれていた3人の地盤は菅と甘利が神奈川県、二階が和歌山県。もし3人とも地元にいる場合はどう取材すればいいのだろうか。中川といろいろ考えた末、まずは3人の国会議員事務所を訪ねてみることにした。

9月上旬はちょうど内閣改造と自民党役員人事が行われるというニュースが永田町を駆け巡っていた。そういう取材の一環だと思われるタイミングだったため、怪しまれずに3人の予定を聞き出せるかもしれない。駄目元で中川と3人の国会議員事務所を訪ねてみた。

3人の事務所を回ってみると、唯一、甘利の日程だけヒントを得られた。甘利の事務所を訪ねると、翌7日に党本部で、自身が責任者を務める党の会合に出席することが分かった。その会合に出席するタイミングで甘利には直接取材できる可能性が出てきた。ほかの2人の事務所からは情報を全く得られなかったが、一歩前進したような気がした。

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「やれることは全てやろう」

6日の夜、取材班を組む7人の記者が日比谷公園前の日本プレスセンタービル内にある中国新聞東京支社に集まった。7日の役割分担を決めるためだ。「やれることは全てやろう」。そう話し合い、二階、菅、甘利の事務所へ直接取材を求めるための依頼書を作った。

これを分担して7日午前に3人の事務所へ持って行く。取材の約束を取り付けるのは難しいとしても、やれることは全てやるべきだと考えた。甘利が出席する党本部の会合や、二階が出席する派閥会合の取材態勢の打ち合わせも入念にして解散した。

河野にとっては、唯一気がかりだったのは無派閥の菅だった。3人のうち唯一、菅だけは直接取材の見通しが立っていないままだった。

7日は午前10時から手分けをして、3人の事務所に取材依頼書を持って行くことになっていた。河野が担当することになったのは甘利だった。河野は東京支社時代に、甘利を2回直接取材したことがある。

広島で河井夫妻が大規模買収事件を起こした2019年の参院選で、甘利は自民党の選挙対策委員長を務めていた。どういう経緯で、克行と案里への資金提供がされていたかを尋ねるため、河野は国会内で甘利を直撃取材したことがある。核心部分は語らなかったが、知っていることはいろいろと答えてくれたと記憶に残っていた。

甘利の事務所に取材依頼書を持って行くと、秘書からの答えはやはり予想通りだった。取材依頼書には、メモの細かい内容まで記載していなかった。「何の取材かよく分からないのに、応じられない」と断られた。

「当然だな」。河野はそう思った。午後には甘利が出席する党本部の会合がある。そこに全力をかけようと思い、国会記者会館へ戻っている途中だった。国会内の廊下の向こう側に、甘利が姿を見せた。

秘書や他社の記者は随行しておらず、甘利は1人ですたすたと歩いてこちら側に向かってきた。全く予想していない場面で直撃するチャンスがいきなりやってきた。躊躇はなかった。

東京支社時代に取材した経験から、甘利は話すことが好きであることは知っていた。ただ選挙の戦略は記者には話せないことも多い。まして選挙資金のことになると、なおさらだ。取材結果には期待を持っていなかった。