SN 1987Aの内部で中性子星の証拠が発見される / Credit: HST, JWST/NIRSpec, J. Larsson_James Webb telescope detects traces of neutron star in iconic supernova(2024 EurekAlert)

1987年、天の川銀河の近くにある大マゼラン雲で、「SN 1987A」の超新星爆発が観測されました。

この輝きは、地球上でも肉眼で見えるほど明るく、数カ月にわたって続きました。

通常、超新星爆発の後には中性子星かブラックホールが形成されます。ではこのSN 1987Aの爆発の後には、何が残ったのでしょうか。

これについては天文学者たちが35年にわたって観測を続けてきたにも関わらず、解明されていませんでした。

ところが最近、スウェーデンのストックホルム大学(Stockholm University)天文学部に所属するクレス・フランソン氏ら研究チームにより、疑問の答えが提出されました。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を使用して、SN 1987Aから中性子星が形成された証拠を入手することができたのです。

研究の詳細は、2024年2月22日付の科学誌『Science』に掲載されました。

目次

観測以来35年以上謎だった超新星「SN 1987A」の内部JWSTによって「SN 1987Aから中性子星が形成された」と証明

観測以来35年以上謎だった超新星「SN 1987A」の内部


質量の大きな星の最後「超新星爆発」。イメージ。 / Credit:Canva

超新星爆発とは、質量の大きな星が最後を迎えて崩壊する時に発生する現象です。

太陽質量の約8倍以上の星は、内部で核融合(外向きの圧力を生む)の材料となる物質を使い果たすと、外向きの圧力が、内向きの重力に対抗できなくなります。

これにより、重力に耐えられなくなった星は、一気に潰れ、その反動で大爆発が生じるのです。

そしてこの超新星爆発によって輝く天体が、「超新星」と呼ばれます。


SN 1987A / Credit:Wikipedia Commons_SN 1987A

大マゼラン雲内で発見された「SN 1987A」もその1つであり、1987年に初めて観測されて以来、天文学者たちに注目されてきました。

ちなみに超新星は、その爆発によって外側の物質が宇宙に吹き飛ばされますが、星の中心部は重力によって内側へと押しつぶされ、超高密度の物体になります。

この天体が何になるかは星の初期質量によって決まっており、計算上では、その星の重さが太陽の8~30倍であれば中性子星、それ以上だとブラックホールになると考えられています。


恒星進化論のチャート。重い星は超新星爆発の後にブラックホールか中性子星(neutron star)になると考えられている。 / Credit:Wikipedia Commons_Stellar evolution

SN 1987Aの超新星爆発を起こした元の恒星は、太陽質量の20倍ほどだったことが分かっています。

他の分析なども合わせて、天文学者たちは、「1987年の爆発の後に中性子星ができる」と予測していました。

ところが35年間、その決定的な証拠を見つけることはできていませんでした。

爆発後に発生した大量の塵が内部の物体を覆い隠していたため、その正体に確証が持てなかったのです。

しかし最近、フランソン氏ら研究チームによって事態に進展がありました。

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JWSTによって「SN 1987Aから中性子星が形成された」と証明

2022年、フランソン氏ら研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて、SN 1987Aを観測しました。

JWSTの赤外線機能と分光法を使用し、塵内のガスの組成を分析したのです。


アルゴンの検出画像。 / Credit: HST, JWST/NIRSpec, J. Larsson_James Webb telescope detects traces of neutron star in iconic supernova(2024 EurekAlert)

その結果彼らは、超新星爆発が起きた場所に近いところで、イオン化したアルゴンと硫黄の存在を、電離放射線から突き止めることができました。

そしてシミュレーションを行ってみたところ、中性子性星がある場合にのみ、このような結果が得られると分かりました。

研究チームの1人であり、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)に所属するマイク・バーロウ氏も、「イオン化したアルゴンと硫黄を示す輝線(原子から発せられる光。それぞれの元素に固有のもの)の存在は、中心部に電離放射線の源が存在する直接的な証拠と言える」と述べています。

そして、「電離放射線の源は、中性子星だ」と続けました。


SN 1987A。中心の青い部分に中性子星がある / Credit: HST, JWST/NIRSpec, J. Larsson_James Webb telescope detects traces of neutron star in iconic supernova(2024 EurekAlert)

上の画像は、JWSTによって取得されたSN 1987Aですが、中心部に青く示されている部分が、中性子星であると結論付けられました。

1987年以来、35年以上続く謎がついに解明されたのです。

今回の発見は、中性子星に関するいくつかの理論とも一致しており、天文学者たちは、星の死と進化に関して前例のない視点を得たことになります。

またフランソン氏は、JWSTの優れた機能のおかげで中性子星の証拠をつかむことができたと説明しています。

それでも、チームの誰もが、アルゴンからの強力な輝線を通して中性子星が検出されるとは予想していなかったようで、「JWSTを使ってそのように判明したのは、ちょっと面白いですね」とコメントしています。

注目の的となってきたSN 1987Aは、今後も私たちに驚きや楽しみを提供してくれるに違いありません。

参考文献

In 1987, We Saw a Star Explode. JWST Finally Found Evidence of Its Remains.
https://www.sciencealert.com/in-1987-we-saw-a-star-explode-jwst-finally-found-evidence-of-its-remains

James Webb telescope detects traces of neutron star in iconic supernova
https://www.eurekalert.org/news-releases/1035315

元論文

Emission lines due to ionizing radiation from a compact object in the remnant of Supernova 1987A
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj5796

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。