皆さんは『ウルトラマンレオ』の「俺達はアストラを殺す!」というセリフ、ご存じでしょうか。いったい、どなたが脚本を担当したのでしょうか。



「ウルトラ特撮 PERFECT MOOK vol.09 ウルトラマンレオ」(講談社)

【画像】え…っ? さすが兄弟! こちらがレオとアストラの合わせ技「ウルトラダブルフラッシャー」です

「脚本家」を知ると衝撃

 ウルトラシリーズには忘れられない名言が数多く登場します。たとえば『ウルトラセブン』第26話「超兵器R1号」の一幕で、兵器の開発競争に対して「モロボシ・ダン」から飛び出した「それは血を吐きながら続ける悲しいマラソンですよ」は、各地で戦争が続く現代においてもなお心に重くのしかかります。

 一方で、ただひたすらにショッキングなセリフもありました。その最たる例こそ、『ウルトラマンレオ』第38話「決闘!レオ兄弟対ウルトラ兄弟」で飛び出した

「俺達はアストラを殺す!」

 でしょう。

 あろうことか、我らが「ウルトラマン」が「レオ」の弟「アストラ」の殺害を宣言したのでした。あまりにも直球すぎるためか、すっかりネットミームとして定着しています。

 改めて、どうしてウルトラマンが、このようセリフを言わねばならなかったのでしょうか。順を追ってみていきましょう。まずこの第38話「決闘!レオ兄弟対ウルトラ兄弟」では、ウルトラの星が何者かによって攻撃され、星の軌道を制御する役割を果たしていた「ウルトラキー」が奪われてしまいます。

 このままではウルトラの星が地球とぶつかってしまう、そこへウルトラキーを手にしたアストラがウルトラ兄弟(ゾフィー、ウルトラマン、新マン(劇中呼称)、ウルトラマンA)の前に現れ、やむなく戦闘が開始されました。

 そして場所が地球に移ると、いよいよアストラは兄弟たちにボコボコにされてしまうのです。Aにいたっては、馬乗りでアストラを殴り続けました。それを目の当たりにしたレオがなんとかアストラを助けようと割って入り、対話に持ち込もうとした矢先、例のセリフが飛び出したのです。

「俺達はアストラを殺す!」

 順を追ってなお、有り余る衝撃でした。ウルトラマンといえば、最終回で自らの命を犠牲にしてでもハヤタ隊員を救おうとしたヒーローです。慈愛に満ちたウルトラマンは、どこに行ってしまったのでしょうか。もしかしたらこの脚本は、ウルトラシリーズをさほど知らない方が書いたのでしょうか。それなら納得できます。

 ということで、この第38話「決闘!レオ兄弟対ウルトラ兄弟」の脚本を担当された方を調べてみると、「脚本:若槻文三」ではないですか。

 若槻さんといえばウルトラシリーズにおける重要なベテラン脚本家です(1993年逝去)。『ウルトラマン』なら26,27話「怪獣殿下(前・後編)」の「ゴモラ」の回(金城哲夫さんと共同執筆)、『ウルトラセブン』なら名エピソードの第6話「ダーク・ゾーン」の、「ペガッサ星人」の回などの脚本を執筆しています。

 そして、冒頭に挙げた「それは血を吐きながら続ける悲しいマラソンですよ」の名言が登場する『ウルトラセブン』第26話「超兵器R1号」、「ギエロン星獣」の回の脚本を担当したのも、若槻さんだったのです。

 クレジットだけ見ると、若槻文三さんから「シリーズ屈指の名言」と「シリーズ屈指の衝撃セリフ」が生み出されたことになります。思えばペガッサ星人の回も、宇宙都市ペガッサ星と地球の衝突が避けられない状況において、主人公へ心が引き裂かれるような選択が迫られました。そして、それは『レオ』第38話の構造ともよく似ているのです。

 このままでは地球もウルトラの星も粉々になってしまい、それを避けるためにはウルトラキーが必要でした。目の前に犯人がいる、となれば激昂するのは理解できます。だからといって、かつて自分が命を吹き込んだウルトラマンに「殺す!」と宣言させるあたり、若槻文三さんは本当に自由闊達な筆の持ち主だったと言えるでしょう。

 現在、「俺達はアストラを殺す!」というセリフが一人歩きしていますが、扱っているテーマ自体は若槻脚本らしく、苦しい選択を迫られる内容でした。ただ、やはりあの真顔で叫ばれると、どうしても失笑を禁じ得ないのは致し方ないことです。

 それと、今さらですが、ウルトラキーを盗んだアストラは偽者で、「ババルウ星人」が化けたものでした。というわけで、アストラは殺されていません。