ようやく秋の気配が感じられるようになったが、実は、これからが食中毒にかかりやすい季節だということをご存じだろうか。
一般的に「食中毒」と言えば夏をイメージするだろう。しかし、厚労省の発表によれば、年間を通して最も食中毒発生件数が多い時期は9~10月なのだ。原因は夏バテで体力が落ち、免疫力が低下しているところに気温が変化するため、体調を崩しやすくなること。さらに、秋は行楽シーズンとあって運動会や祭り、バーベキューなど、野外で食事をする機会が増える。結果、食中毒の原因となる細菌やウイルスに感染するというケースが急増するのである。
食中毒による症状の多くは下痢や腹痛、嘔吐などの胃腸症状。ただ、中には発熱や頭痛を伴うこともあり、毒キノコなどの自然毒が原因の場合は、神経障害も出るケースがある。特に小さな子供が罹患した場合、重症化し命に関わるケースも少なくない。
自然毒や動物が持つ菌が口から入るケースとしては、毒キノコやフグによるものや、サンマやサバ、サケなどの魚介類に寄生するアニサキスによるもの、さらには、鶏や牛など多くの動物が保菌しているカンピロバクターという細菌による食中毒などがあり、いずれも下痢や腹痛、嘔吐などの症状が現れる。ただ、毒キノコやフグの場合は即座に命にかかわる危険もあり、カンピロバクター感染による食中毒の場合も、3週間以上下痢が止まらず、手足の麻痺や顔面神経麻痺、最悪の場合、呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」の症状が現れることもある。
ただし、一般的なウイルスは熱に弱く、アニサキス幼虫も70度以上の加熱で死滅するし、食肉の場合も十分に加熱調理し、使用後の調理器具をきちんと洗浄・殺菌すれば、ほぼ感染は防げる。肉や魚を切るまな板と包丁は専用のものを用意し、熱湯や煮沸により加熱殺菌を行うことも感染予防となる。
厚労省が提唱する食中毒を防ぐための3原則は、菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」だが、菌をつけないためには調理器具をよく洗い、残った肉なども菌が広がらぬよう、密封容器に入れるかラップで包んで分けること。さらに「増やさない」ためには低温で保存すること。というのも、細菌は高温多湿な環境で増殖が活発になる一方、およそマイナス15度以下で増殖を停止する。そのため、危なそうなものは冷蔵ではなく冷凍にすれば安全だ。
最後の「やっつける」は、もちろん食材の中心に火が届くまできちんと加熱処理を行いましょう、ということ。ほとんどの細菌やウイルスは加熱により死滅する。もちろん、調理器具も洗浄後に熱湯をかけて殺菌してしまおう。
残暑も終わり、いよいよ「食欲の秋」が到来する。知恵と、ほんの少しの努力で食中毒から身を守ろうではないか。
(健康ライター・浅野祐一)