お酒を飲むと異性が魅力的に見える「ビア・ゴーグル効果」 / Credit:canva

お酒を飲むと相手のことが魅力的に見えるようです。

この現象は「ビア・ゴーグル効果」と呼ばれています。

はじめて実験で確認されたのが、英グラスロー大学のバリー・ジョーンズ氏(Barry Jones)らの研究で、飲酒をしている人は、そうでない人と比較して、異性の顔写真の魅力度を高く評価することを報告しています。

しかし後続の研究では、飲酒量と魅力度の評価には弱い相関関係はあるものの、ある程度の飲酒量(呼気アルコール濃度0.01-0.09%)で頭打ちになることも分かっています。

その他にも飲酒によって報酬系と呼ばれる神経回路が活性化され、気分が高揚し、相手の魅力度をポジティブに評価してしまうなどさまざまな仮説が提唱されています。

ただ、この問題については明確なメカニズムは分かっていないようです。

研究の詳細は、学術誌「Addiction」にて2003年9月8日に掲載されたものです。

目次

お酒は恋愛を促進するアルコールを飲むと異性が美しく、格好よくみえる

お酒は恋愛を促進する


お酒は恋愛を促進する / Credit: Unsplash

お酒を飲むと、アルコールが血液中を通り脳に到達します。

その結果、理性を司る大脳皮質の活動を低下し、本能や感情を司る大脳辺縁系活動が活発になります。

この状態がいわゆる「酔った状態」です。

その時には、怒りっぽくなったり、大声を出してしまうなど理性的な行動を取ることが難しくなります。

しかし理性による抑制がとれることで、円滑なコミュニケーションを促進し、相手と親密な関係を築くことに寄与する可能性も考えられます。

ではお酒を飲むことで恋愛を促進する効果もあるのでしょうか?

この問題を取り扱った研究では、お酒と恋愛の間には密接な関係があることを報告しています。

たとえば「Addictive Behaviors」に投稿された、ユトレヒト大学のルトガース・エンジェル氏(Rutger Engels)らの研究では、大学生を対象に、飲酒行動とパートナーの有無の関係性について調べました。

調査の結果、飲酒の頻度とアルコール摂取量が多いほど恋人ができやすいことが分かっています。

ただし家で飲酒をする頻度ではなく、居酒屋などのパブリックな場で飲む頻度が多いことが重要でした。

また恋愛関係に至る前には、飲酒行動を共にすることが多いことなども報告されています。


飲酒の頻度とアルコール摂取量が多いほど恋人ができやすい / Credit: Unsplash

お酒が恋愛を促進する現象に関連する逸話は数多く存在します。

たとえば、居酒屋などでたまたま綺麗な女性と出会い、意気投合し、朝を迎えて、寝ている姿を見たら、昨日話していた人とは思えない見た目の女性でびっくりしたのような話です。

漫画のネタにはありそうですが、現実でもこのようなアルコールが入ることでイケメンでない人がイケメンに、あまり美人でない人が美人に見えてしまうことがあるのでしょうか。

実はこの現象を実際に調べた研究があります。

それは英グラスロー大学のバリー・ジョーンズ氏(Barry Jones)らの研究です。

彼らは大学の近くのバーにいた男女80名を捕まえ実験に参加してもらいました。

そのうちの半数は当日お酒を飲んでおらず、残りの半数は実験に参加する3時間以内に1-6 UK unitsのお酒を飲んでいました。

1 UK unitは10 mlあたり8 gの純粋なアルコールを含んでいることを意味します。

具体的にはアルコール度数3.6%のビール(約236 ml)、あるいはアルコール度数12%のワイン(100 ml)程度の飲酒量にあたります。

参加者はバーの一角で、PC上に提示される男女の顔画像を見て、その魅力度と示唆性(どれくらい特徴的か)の評価を行ってもらいました。

さて飲酒の有無で顔に対する評価にどのような違いが生じたのでしょうか。

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アルコールを飲むと異性が美しく、格好よくみえる

実験の結果、飲酒をしていない人と比較して、飲酒をしていた人のほうが、それぞれの顔の特徴の違いに気付きにくく、顔写真に対する魅力度を高く評価する傾向が確認されました。


アルコールを飲むと異性が美しく、格好よくみえる / Credit: Jones et al., (2003)

また評価者が女性の場合、男性の顔写真への魅力度評価がより高くなり、評価者が男性の場合、女性の顔写真への魅力度評価がより高くなる傾向がありました。

この結果はアルコールの摂取で異性に対する魅力度評価が高くなる効果が存在することを意味します。

この現象は、ゴーグルをかけると周りがよく見えにくくなることから「ビア・ゴーグル(Beer Googles)効果」と呼ばれています。

ビア・グーグル効果はお酒を飲めば飲むほど強く生じるのでしょうか。

どうやら「Journal of Social Psychology」に投稿された、オーストラリアのボンド大学のマイケル・ライバース(Michael Lyvers)らの研究チームによると、そうではないようです。

彼らはキャンパス内のバーにいた大学生80名に協力を仰ぎました。

まず彼らにはアルコール濃度測定機に息を吹きかけてもらい、呼気中のアルコール濃度を測定しました。

その後、男女15名の顔写真を見てもらい、その魅力度を評価してもらっています。

実験の結果、呼気中のアルコール濃度と魅力度の評価の間には弱い正の相関がみられました。

つまりお酒をたくさん飲めば飲むほど、相手の魅力度を高く評価する傾向があるということです。

しかし呼気中のアルコール濃度で参加者を3つのグループに分けてみると、ある程度のアルコール摂取で頭打ちになることが分かりました。


実験の結果を改変。 / Credit: Michael et al. (2011).

この結果から考えると、お酒を飲めば飲むほど相手が美しく(あるいは格好よく)見えるわけではなく、相手が魅力度を高く評価してしまうのにある程度の飲酒で十分であることが分かります。

ではなぜビア・ゴーグル効果は生じるのでしょうか。

この現象に関してさまざま仮説が提唱されています。

たとえば飲酒によって報酬系と呼ばれる神経回路が活性化され、気分が高揚し、相手の魅力度をポジティブに評価してしまうという説や、「吊り橋効果」のように飲酒による心拍の上昇に伴うドキドキを相手の魅力度によるものだと錯覚してしまうという説などです。

3つ目の説として飲酒によって非対称性の検出精度が下がってしまうからだとするものがあります。

一般的に、人の顔は非対称であるよりも左右対称であるほうが魅力的に感じられるため、飲酒で非対称な顔が左右対称であるように見え、魅力度が高く評価されるということです。

しかし近年の研究によると、飲酒は顔の非対称性の検出を損なわせるものの、魅力度の向上には寄与していないことを報告しています。

ただこの報告に対しては、研究チームは「本研究の結果はビア・ゴーグル効果の存在を否定したわけではない。しかしビア・ゴーグル効果の魅力度の向上は顔の対称性以外の要因により生じている可能性を示唆している」と述べています。

いろいろと研究報告のあるビア・ゴーグル効果ですが、いずれも統計的な報告に留まっており、脳内のメカニズムが明らかになっているわけではありません。

そうなると飲酒自体に意味があるのか、一緒にお酒を飲みに行くという関係自体に理由があるのか、付随する条件のいずれが重要であるか明確にすることは難しくなってきます。

実際のお酒を共に飲む場では、体格や表情、服装など顔以外のさまざまな要因が影響する可能性もあり、ビア・ゴーグル効果の魅力度の向上のメカニズムに関してはさらなる研究が必要と言えるでしょう。

参考文献

Facial symmetry doesn’t explain “beer goggles”
https://www.eurekalert.org/news-releases/1011110

元論文

Alcohol consumption increases attractiveness ratings of opposite-sex faces: a possible third route to risky sex
https://doi.org/10.1046/j.1360-0443.2003.00426.x

Effects of acute alcohol consumption on ratings of attractiveness of facial stimuli: evidence of long-term encoding
https://doi.org/10.1093/alcalc/agn065

Alcohol use and intimate relationships in adolescence: When love comes to town
https://doi.org/10.1016/S0306-4603(98)00123-3

Beer Goggles: Blood Alcohol Concentration in Relation to Attractiveness Ratings for Unfamiliar Opposite Sex Faces in Naturalistic Settings
https://doi.org/10.1080/00224540903366776

Impaired face symmetry detection under alcohol, but no ‘beer goggles’ effect
https://doi.org/10.1177/02698811231215592

ライター

AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。