初期に描かれた「メガロサウルス」の復元イメージ / Credit: NHM – Dinosauria: how the ‘terrible lizards’ got their name

2024年2月20日は、世界最初の「恐竜」の命名が行われてからちょうど200周年のアニバーサリーとなります。

科学史における恐竜の本格的な研究は、この記念すべき「メガロサウルス(学名:megalosaurus)」から始まりました。

しかし恐竜の容姿は今でこそ鮮明になっていますが、当時は数少ない化石断片から生前の姿を復元するのは至難の技でした。

そのため、メガロサウルスの復元像も今とはまったく違うヘンテコな姿で描かれていたのです。

恐竜は当初、人々からどんな見た目の生き物と思われていたのでしょうか?

 

目次

世界で最初に恐竜に学名が付けられた日描かれたのは実際とは違うヘンテコな姿

世界で最初に恐竜に学名が付けられた日


世界で最初に恐竜の学名を付けたウィリアム・バックランド / Credit: ja.wikipedia

1824年、英オックスフォード大学の地質学者で聖職者だったウィリアム・バックランド(1784〜 1856)は、イングランド南東部・オックスフォードシャーのストーンフィールドで奇妙な化石を発見しました。

当時の地質学者たちは主に旧約聖書に出てくる出来事や、動物の存在を証明しようと発掘をおこなっていました。そのため、バックランドはこの奇妙な化石に合致する生物が聖書に見当たらないことに頭を悩ませます。

しかしその数年前にイグアノドンの歯の化石を見つけていたイギリス人医師のギデオン・マンテル(1790〜1852)と親交を持ち、互いの化石を研究するにあたって、それらが大昔に存在した巨大なトカゲのような絶滅生物であると確信します。


バックランドによるメガロサウルスの顎のイラスト(1824年) / Credit: en.wikipedia

こうしてバックランドは1824年2月20日に、自分の見つけた化石を”大きなトカゲ”を意味する「メガロサウルス(学名:megalosaurus)」という生物として学術的に記載しました。

これが世界で最初に学名が付けられた恐竜の第一号となります。

その後まもなく「イグアノドン(学名:Iguanodon)」も正式に記載され、学名の付いた2番目の恐竜となりました。

ちなみにですが、このときはまだ「恐竜(Dinosaur)」という言葉も発明されていません。

その言葉が最初に導入されるのは、1841年にイギリスの古生物学者であるリチャード・オーウェン(1804〜 1892)が提唱してからです。

一方で、見つかった化石から復元されたのメガロサウルスは実際とは大きく異なるヘンテコな姿でした。

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描かれたのは実際とは違うヘンテコな姿

メガロサウルスは現在、中生代のジュラ紀(約2億130万〜1億4550万年前)にヨーロッパ・北アメリカ・アジアに広く分布していた獣脚類の一種であることが分かっています。

獣脚類とはティラノサウルスやヴェロキラプトルを代表格とする肉食恐竜のグループです。

全長は約7〜10メートルに達し、ティラノサウルスと同じような姿勢で二足歩行をしていたと考えられています。

ところが当時はごく一部の化石しか見つかっていなかったため、メガロサウルスの姿の大半は想像に頼るほかありませんでした。

バックランドは自身の講義の中で「全長が12メートルを超え、四つん這いで歩いていた」とメガロサウルスについて評しています。

そうして復元されたメガロサウルスの姿はこうでした。


メガロサウルスの復元図(色付きは見つかっていた骨の部位) / Credit: MNH – THE OXFORD DINOSAUR THAT STARTED IT ALL

これはバックランドらが当時の時点で持っていた知識を踏まえると、無理もないことです。

今日の私たちなら当然のごとく知っているような「二足で歩く恐竜」なんて概念はありませんし、全骨格を正確に記述するための十分な化石も見つかっていませんでした。

その中で彼らが頼りにできたのは四足歩行のトカゲだったのです。

イギリスの著名な彫刻家であるベンジャミン・ウォーターハウス・ホーキンズ(1807〜1894)は、1854年にロンドン南東部にあるクリスタル・パレス公園内に、当時の知見にもとづいて制作したメガロサウルスの彫刻を公開しました。

現在も残っているその彫刻がこちら。


ホーキンズが1854年に彫刻したメガロサウルス / Credit: en.wikipedia

見つかっている化石は限られている上に、筋肉や脂肪、皮膚などは基本的には化石として残りません。

そうなると骨格以外の軟部組織はほとんどが空想にもとづくため、恐竜がぽっちゃりになるかガリガリになるかは当時の古生物学者たちの裁量次第だったのです。

しかし後世の恐竜研究や化石発掘が進むにつれて、メガロサウルスの生前の姿もかなり明瞭となっています。

今現在のメガロサウルスの復元像はこちらです。


現在のメガロサウルスの復元イメージ / Credit: ja.wikipedia

獣脚類の仲間であるティラノサウルスと同じ二足歩行であり、体表面に斑点模様が見られます。

またこちらも近年の恐竜研究で明らかになってきたように、体の一部に羽毛のような毛を持っていたのではないかとも考えられています。

恐竜研究は今や古生物学のメジャーなジャンルになっており、多種多様な恐竜たちの姿や生態が現代に蘇りつつあります。

映画『ジュラシック・パーク』や『ジュラシック・ワールド』シリーズに登場する恐竜たちは、まるで作り手たちが実際にその目で見てきたかのようなリアルさです。

それでも恐竜研究の最前線にいる専門家でさえ、すべてを正確に理解しているわけではありません。

結局は誰も実物の恐竜を見たことがないので、体の色や皮膚の質感、羽毛の構造、体の模様などは推測に頼らざるを得ない状況です。

今後の恐竜研究で、これらの謎が解き明かされることが期待されています。

参考文献

Forget what you saw in Jurassic Park! Hilarious images reveal what scientists thought dinosaurs looked like in the 1800s – and what we really know they looked like now
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-13109547/Palaeontologists-dinosaurs-looked-like-1800s.html

THE OXFORD DINOSAUR THAT STARTED IT ALL
https://oumnh.ox.ac.uk/megalosaurus-0

200 years of naming dinosaurs: scientists call for overhaul of antiquated system
https://www.nature.com/articles/d41586-024-00388-y

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。