トムス最大のライバルはトムス? 36号車auに肉薄する37号車Deloitte、6月の初優勝が弾みに。「スピリッツは負けていない」と笹原

 トムス最大の敵はトムスだった——。スーパーGT第6戦SUGOでは、前年王者でポイントリーダーである36号車au TOM'S GR Supraが4位に食い込んでランキングトップの座を死守した一方、同じくトムスの37号車Deloitte TOM'S GR Supraが今季2勝目を飾り、1ポイント差のランキング2番手に肉薄してきたのだ。

 スーパーGTのGT500クラスで長年強力な2台体制を誇るトムスだが、昨年はau TOM'Sの坪井翔、宮田莉朋組が強さを見せてチャンピオンに輝く一方で、Deloitte TOM'Sの笹原右京/ジュリアーノ・アレジ組は上位に食い込めず苦しいシーズンを送っていた。

 そして迎えた今シーズン、坪井/山下健太組となったau TOM'Sは開幕戦を制するなど、連覇に向けて幸先の良いスタートを切ったが、コンビ2年目となったDeloitte TOM'S笹原/アレジ組も第3戦鈴鹿で悲願の初優勝。ウエットコンディションの難しいレースとなった第6戦SUGOでは、なんと14番手スタートから優勝を飾り、一躍タイトル候補にまでのし上がったのだ。

「スタート直後に最後尾に落ちたので実質テール・トゥ・ウインですね(笑)」と会見で話した笹原。Deloitte TOM'SのSUGO戦でのパフォーマンスはまさに圧巻であった。

 レーススタートの段階では雨上がりで路面はウエット。いずれドライ路面になっていくだろうという中で各チームはタイヤ戦略に頭を悩ませたが、追い上げのレースとなるDeloitte TOM'Sはややアグレッシブなタイヤ戦略を採った。笹原が担当する前半スティントは、いわゆるハード側のウエットタイヤをチョイス。タイヤをウォームアップして発動させるのに時間がかかる一方で、最も長持ちするであろうタイヤであった。

「思ったより温度も低く、発動せずにタイヤを壊してしまう状況になってしまうとまずかったので、熱入れも頑張りました。発動してからは明らかにペースが良かったのですが、ここからスティントを伸ばさないといけなかったので、そこのマネジメントがタフでしたね」

 そう振り返る笹原。まさに最初の10周ほどは最後尾付近で我慢の走りを強いられていたが、タイヤがワーキングレンジに入ってくるとペースの上がらない中団グループをかき分けていき、22周目には6番手までジャンプアップ。26周目にセーフティカーが出された時には4番手まで上がっており、トップを射程圏に捉えた。

 勢いのある笹原は、37周目にau TOM'Sらトップ集団をごぼう抜きして首位浮上。セーフティリードを築いている最中にGT300車両のアクシデントがあったため、このタイミングでほぼ全車がセーフティカー出動を見越したルーティンストップを行ない、レースは仕切り直しとなった。

 レースは35周を残して再開。ここからはドライタイヤでの戦いとなったが、笹原からバトンを引き継いだアレジは安定したラップタイムで周回し、後続に対してつけ入る隙を与えなかった。一時は大湯都史樹が駆る38号車KeePer CERUMO GR Supraが追い上げてくるかに思われたが、最終的にはDeloitte TOM'Sに20秒近い差をつけられた。

 タイヤ戦略やセットアップなど、チームとして緻密に組み立てたものがしっかりとハマり、自分たちのチームワークを見せられたと語る笹原。残り3戦でタイトル挑戦も現実味を帯びてきており、これまで追いかける存在であったau TOM'Sが突如としてライバルになったわけだ。

 Deloitte TOM'S陣営としても、au TOM'Sの強さは隣のピットから間近で見てきたはず。第3戦で勝利した際も、ドライバーやエンジニアからは「まだまだ36号車とは差がある」というコメントが聞かれていたが、2勝目を挙げた今、少しでも近付けた点はあるかと笹原に問うと、彼はこう答えた。

「今回勝ちましたが、正直36号車に対してはほぼ全てにおいて勝てていないかなと思います」

「ただ唯一37号車が優れていると言うべきか……チームワークが良くなっていると言うべきか……そういう要因となっているのはスピリッツ、情熱の部分です。安パイでなんとなく周りと同じようなタイヤを選ぶこともできたかもしれませんが、このコンディションの中で何を優先し、ギャンブル性をどうやって活かすか……そういった決断は良かったです。優れているかは分かりませんが、そういう気持ちやスピリッツは負けていないと思います」

 また、そういったチームとしての意気込みの強さやモチベーションの高さは、第3戦で初勝利を挙げたことも後押しとなったかと聞くと、笹原は「鈴鹿で勝てたことは大きかったですね」と頷いた。

「あれがチームの流れやマインドをしっかり変えてくれて、自信に繋がりましたから」

「自分たちでひとつひとつ確実に物事を進められているというのは、チームも実感できていると思います。去年はそれが全くなかったので……(笑)。そこは大きいと思います」